罪がある限り人を憎むもの
裕也は自分が安藤をリストラさせたからだと嘆くが、髙は五年前が誰が長柄警備の社長であったかを知っていた。
「違うでしょう。その時の社長はあなたの祖父である長柄來さんです。」
「いいえ。僕が安藤をリストラリストに勝手にいれました。許せなくて、どうしても許せなくて。子供がした事と言えども、友人がその一家と付き合う事も許せなかった。ですから、僕は追い出したのですよ。あの一家を。」
「そうですか。それで、お尋ねしたいのですが、これの意味は解りますか?」
「何でしょう。」
「三月二十六日という設定と、立松誠の左手の小指と中指が消えていた事です。」
立松の状況は、建物の中で全てを引きちぎる嵐が巻き起こったかのようであった。
まず、武本を誘拐した時に使用されたと思われるバンの中には、頭部を撃ち抜かれた二人の遺体が転がっていた。
二体の遺体の両腕は捩じり切られる寸前ぐらいにひねられて脱臼しており、生きていれば日常生活は介助無しで送れない状態であった。
頭部の弾丸は、情けなのか、と思うぐらいのものだったのである。
また、拷問が行われていただろうシャワールームには、二体の遺体が隅に転がっていた。
この二人も処刑のようにして頭部を撃ち抜かれていての死亡である。
その二体の遺体は、他の遺体と比べれば後遺症が見当たらないものだが、口腔内の歯を全損している事から髙には銃では無い暴行痕については誰の仕業かはうっすらと理解している。
それから、武本の右手を貫いたと思われる釘打ち機の暴発により右腕を使い物にならなくしたらしき男は、医務室にて応急処置をしていた最中らしき状態で、やはり頭を撃ち抜かれて死んでいた。
事務所近くでは三人の男が死んでいたが、目を潰されて関節を完全に壊されたもの、顔面を陥没するような蹴りを受けた後に頭部を壁に打ち付けられた者、そして、罠に嵌ったのか、右足を骨近くまで切り裂かれて、廊下でこと切れていた立松誠だ。
前述二名が銃を胸に受けての死亡であったが、立松の遺体は首を家畜のように切り裂かれた姿での絶命だった。
立松は右足と喉元の切り裂き傷での失血死のように見えるが、死因は玄人が受けたような内臓破裂だろうと髙は遺体を検証した際に確信していた。
髙は遺体写真を見せるわけにはいかないと出しもしなかったが、裕也には写真など必要なかったようだ。
「指は、わかりません。……三月二十六日は、本当であれば圭祐と里桜の結婚式です。彼等はその日に式をあげると圭祐から俺に連絡がありました。しかし、その三日後に里桜から一方的に婚約破棄と式場のキャンセルがあったのは僕のせいだと責めに来て、無断欠勤が続いての、それきりです。」
「あなたが何かされたのですか?」
青い顔をあげた裕也は、ゆっくりと首を振った。
「僕は彼女に何もしていませんが、式の招待は断りました。情けないですね。悪いのは彼女の妹だけなのに。あの姉を妬むばかりの歪んだ妹が、玄人に姉に対する鬱憤をぶつけていただけなのだとわかっていても、僕は彼女を受け入れられなかった。結婚の話を聞いた時に僕は式の不参加どころか、圭祐に絶交を言い渡したのです。」
裕也はゆっくりと自分の両手で覆い隠していき、完全に覆い隠すと、髙が聞き飽きた言葉を嗚咽と主に吐き出したのである。
「全部、僕のせいです。」