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お前を失うのならば鬼になろう(馬4)  作者: 蔵前
十二 僕に死を与えるのは僕
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荒療治が必要かな?

「今の君が辛いのならば、君は変異をするべきじゃない?違う自分になるのは楽しいでしょう。違う自分になりたいから君は女の子の服を着るんだよね。」


「でも、僕は今の自分も好きなんです。このままの自分じゃないと誰にも愛してもらえない。そうでしょう。ぐずぐずした僕だから、みんなが僕を守ってくれる。それに、これが僕です。僕じゃない僕は僕じゃない。変異は今の僕を殺す事です。僕はもう少し生きていたい。もうすぐ体が動かなくなるとしても。動かなくなるからこそ、最期までぐずぐずした僕自身でいたいんです。一度でいいから玄人じゃない僕自身、玄人の体を乗っ取っている僕自身を見て欲しい。好いて欲しい。玄人じゃない僕だけのために泣く人が欲しい。」


 僕はどうしてここまで僕の誘拐者に心境を吐露しているのか気付いて口を閉じたが、白い男は僕に返事の代りに舌打ちをしたが、舌打ちが僕に向けてではないような気がした。


「残念。君は使ったよ。使ったからこそ、僕がここに君によって呼び出されたんだよ。」


「使ってなんか。」


「使ったさ。あの間抜けなデブの右手が釘だらけになったのはなぜだろう。」


 僕はぼんやりとだったが、僕に釘を打ち込もうと男が構えると、機械が故障しただけでなく、機械が火を噴きだして破裂した光景を思い出していた。

 あの玉坂と言う男は、機械から噴き出した釘を受けて、右手の先から肩まで、何十本もの釘が刺さったのだ。


「あれは、僕の、力?」


「そう。」


「嘘つき!」


「本当だよ。君はもう変異しているんだよ。変異を認めようよ。」


「いや!そんな、ちがう!僕が力を使ったって証拠も、そこに僕の意思だってない!違います!」


 僕は僕の肩に手をかけて僕に囁く男を振り払った。

 振り払って、自分が脅えながらもこの白い男に強く出られるのは、僕がこの白い男を危険で怖い人だと確信していても、僕を殺すような気がしないのだと僕が知っているのだと気が付いたからである。


「僕は、この人を知っている?」


 なぜだろうと男を見上げると、この真っ暗異空間に天井があるように上を向いて目をつぶって何かを思案しているようであった。

 目をつぶる彼の顔は、自身の光によって皺の影が拭い払われ、それは僕の知っている男の若い顔を想起させた。


「かわ、ちゃん?」


 すると男は僕の呟きに反応したかのように楊の姿に変化し、僕の目の前には派手なスーツ姿の楊が立って僕を見下ろしているではないか。

 楊と違って、自分の容姿を最大限に利用した、世界をとろけさせる笑顔を持って、だ。


「こうした方が君は言うことを聞くのかな。大好きなかわちゃんのためになら、君は変異を受け入れてくれるかい?かわちゃんだったら君の変化に大喜びすると思うよ。あの子は昔から不思議なことが大好きだから。」


 僕は再び膝に顔を埋めた。

 僕の一番縋りたい人間は良純さんだからだ。

 彼は僕の変化など望んではいない。

 変異などもっての他だろう。

 僕がぐだぐだしているからこそ、僕は受け入れられ、僕も縋っていられるのだから。


「頑固だなぁ、君は。かわちゃんは意外と人望無いのね。じゃあね、違うお話をしようか。昔話でもない、つい、半年ぐらいのこの間の話。勝手に自分を好いた男に誘拐されて、家族ともども捕らわれて殺された女の子がいたんだ。人知れずね。人知れずって、本当に可哀想だと思わないかい?」


 切り取られた自分の指を食べさせられる恋人を、テーブルに押し付けられて身動きができないまま、悲しい目で見つめる男を僕は思い出していた。


「恋人も殺されましたね。」


「死ななかったね。彼は息を吹き返して逃げて、でもね、元の居場所には戻れなくて、立松を潰せるならばと、僕の言うとおりに動いていたよ。ついさっきまでね。」


「え?」


 腕の隙間から男を見ると、彼は既に元の姿に戻っており、その上、僕の隣に僕と同じような体育座りをして、なんと僕の顔を覗き込んでいたのだ。


「ひゃっ。」


 目が合ってしまった僕は反射的に酷く慄いた。


「そうそう、顔を上げて。いいかな。君が変異しない限り僕はここから動けないからね、君に荒療治をするよ。君は松野の家を出たところから僕が話す女の子と同じ経験をするんだ。つまり、誘拐されて拷問されて殺されて埋められる。でもね、誘拐も拷問もさっき受けているから、そこは省略しよう。あぁ、そうだ死んだところも、だね。死んだ君は今から土の中に埋められる。いいかな。術具を使えば君は助かる。君が助かろうと思わず力を使ったのならば、それはノーカンだと君は言ったよね。」


「でも、意識したうえで使ったのならば、僕は変異したのと一緒です。」


「それじゃあ、君は死んじゃうのかな。」


 答えられないと白い男を見上げたそのまま、ごぼり、と、ねっとりとして重いものが段々と僕の体に巻きついて来たのである。

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