誰か、どうにかしてください
「ほら、さっさと言えよ。」
言えと言いながら、言葉がはけない程の衝撃を体に受けた。
腹ではなく胸に来た衝撃で、僕の頭の中は真っ赤に染まった。
「うぇ、あぅ。ご、ごめんなさい。ごめんなさい。うぇ。ゆ、許してください、ごめんなさい。ごめ、おぇ。ごめんなさ。」
既に僕は彼らに許して貰う事しか考えられず、とにかくどころか、頭の中はごめんなさいの言葉しか出てこないのである。
しかし、暴行者には他の言葉が欲しいのか、僕のごめんなさいに合わせるかのように、ゴムまりのように僕の体に足先を何度もめり込ませるのだ。
「あぁ、あ、あ。」
「汚ねぇ。しょんべんと糞まで漏らしていやがる。」
「パンツが無いから垂れ流しか。」
角刈りのが下卑た声を上げ、坊主がそれに答えて、角刈りよりも厭らしい声を響かせた。
男達の下卑た笑い声がさざめく中、車の助手席にいた痩せて鼠のような雰囲気の男が、今度は高圧洗浄にも使えそうな水圧の水で僕の体を痛みつけ始めたのだ。
水圧で体が壊れそうだと水を避けようと、しかし体は全く動かず、無駄な努力だろうに僕は少しでも水を避けようと右手に力をこめた。
ほんの少し床から手の甲が持ち上がっただけだけれど。
ばしゅ。
「ぎゃああああああ。」
僕の叫びとともに水は消えたが、脳を痺れさせる激痛を生んでいる右手は、なんと、床に釘で張り付けられているのだ。
「ほら、全身がハリネズミになりたくなかったらさぁ、言おうか。お友達はどこにいるのかなぁ。」
「ぎゃあああ。」
僕の頭は頭皮が剥がれるのはと思う程の力で髪を掴まれて頭を持ち上げられ、貼り付けられた手は床から剥がれた。
そして、痛みに叫ぶ僕の頬には、玉坂によって釘打ち機の銃口を押し付けられている。声を押さえねば撃たれるとわかっているが、僕の体は僕の支配下には無い。
制御不能になった肉体が、意思の無い所で勝手に恐怖と痛みに泣き叫んでいるのだ。
「ああああ、ああああ。」
「ほーら、ほら、今度は頬に穴を空けちゃ、うわっ。」
玉坂が叫んで僕から飛び退り、捕まれていた僕の頭は再び自由となったが、僕はごつんと頭を床にしたたかに打ち付けた。
しかし、打ち付けた額の痛みなど感じないほど、僕の右手は熱を持って僕を苛んでいる。
いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい。
「どうした?」
「こいつ。変なものを持っているみたいです。手がびりびりする。」
「それじゃあ、足の甲にでももう一発打って置け。どうせ、生きて返さないんだ。顔でも、どこでも、喋るまで打ち込んでやれ。おい、がき。楽に死にたきゃ、とっとと吐くんだな。」
「それでは、今度は太ももにいきまーす。」
玉坂が僕に向かって釘打ち機を構え、僕は朦朧としながらも逃げなければと身をよじったが、体を動かすどころか右手が弾けたかのように痛みが爆発したのだ。
いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい。
ああ!誰かどうにかして!
バシュ、ギャン。
「ぎゃあああああああ。」
「げぇ、釘打ち機が弾けた。大丈夫か、玉坂!」
僕の目の前にはぼたぼたと玉坂の血が滴り落ち、そこから赤い絨毯が広がっていく。
絨毯は部屋一面に敷き詰められ、僕は世界がぐるんと反転し、反転した時には右の手の甲の痛みがすっと抜けてほうっと一息がつけたからか、右手がハリネズミ状態の玉坂の姿にざまあみろと喜んだ。
そして、喜んだ自分の声にぞっとして、僕は目を開けたのである。
開けた?
目は最初から開いていた、よね?
「そんな顔しないで。ここには君のために最高のホットケーキを用意したんだからさ。」
では、僕はどんな顔をすればいいのだろう。
僕はいつのまにか椅子に座っていて、目の前には確かにボリュームのあるおいしそうなホットケーキが置いてあった。
厚ぼったい大小生地が重ねられ、バターだけでなくフルーツと生クリーム、チョコクリームにアイスクリームまでも乗せ上げられている。
先ほどまで僕を蹴り続けた男の言う通りにしなければと、体を前のめりにしたが、僕には体が動かせず、それに手が出せないという事に気が付いた。
ボルトで丸い木のテーブルに固定されている二つの鉄輪に、僕の両手首が戒められていたのである。
「でも、僕には、た、食べれ、ない……で、す。」