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お前を失うのならば鬼になろう(馬4)  作者: 蔵前
六 捨て子された僕と家を手に入れた猫
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みんな何かを抱えている

「お姉さんとご一緒なのですか?」


 猫アレルギーは姉だったと聞いて、僕は葉山に尋ねていた。

 すると、葉山はふうっと溜息をついて、少々情けなさそうな顔つきになった。


「ウチは母子家庭でね。母親を一人に出来ないから同居しているけれどさ、姉が戻って来ちゃったの。もうぎゅうぎゅうで大変よ。」


「じゃあさ、一緒に住もうか?かわさんと髙さんみたいにシェアハウス。」


 家が壊された楊は、家の修繕が済むまで髙の部屋に居候しているのであるが、修繕が終わったら二人一緒に住むつもりなのだという。

 髙の住んでいる部屋はペット可であるが、階下の住人が夜勤の看護師で、彼らに取り残された子犬の足音が響いて眠れないと、苦情を管理会社に訴えてしまったからだ。

 そこで現在なずなの身の上は、楊の鳥と一緒に葉子の家にお預かりとなっている。


「憧れだよ、友達とシェアハウス。母さんさぁ、経営していたエステ店を俺の大学時代に潰しちゃってね、家も失ったから俺と同居なの。警察寮で家族申請すると広いでしょ。安いし。それなのに姉まで出戻って来ちゃうからなぁ。」


 山口の誘いに対してがっくりと答える葉山は、凄く大変な身の上だった。

 彼一人が家族を支えていたのだと、僕は葉山を今まで以上に尊敬した。


「そっかぁ、家族がいても大変なんだねえ。僕はさぁ、幼稚園ぐらいで両親が離婚してね、小学生の頃に母さんは自殺しちゃうし。それで親父の所行けば、親父は公安でさぁ、帰って来なくてね。中学の頃に親父も死んじゃったし。家族が欲しいなぁなんて思っているけど、僕は男の子の方が好きじゃない?これじゃあ家族が出来ないねぇ。」


 葉子も葉山も知らなかったのか山口の告白の後半に「え?」となって固まっていたが、僕は前半の山口の身の上の告白の方に涙が出てきた。

 ほろりどころではなく、後から後から涙が零れて止まらなくなったのである。


「あれ、クロトが泣かなくたっていいのに。僕はぜんぜん大丈夫だから。」


 彼は自分のハンカチを僕の手に握らせて、そしてそっと僕の頭を撫でて慰めてくれている。

 彼だって、いいや、告白した彼の方が辛いだろうに。


「僕は山口さんの家族になれないですけど、ずっと友達でいますからね。」


「いつか家族にできるかもねぇ。」


 彼はアハハと笑って僕をぎゅっと抱きしめた、が、この展開で嫌だと言ったら人非人だと僕でもわかるので、僕は山口に身を任せた。


「ちょっと、待って、山さん。えっと、どうしよう松野さん。」


「いや、私に振られても。ここはちょっとほっといて好きにさせても。本人が嫌がってないみたいじゃない。」


 実はここにきて、僕は「助けて欲しいなぁ。」なんて二人に心の中で助けを求めていた。

 山口はちょっと僕をぎゅっと抱きしめすぎているし、頭に頬ずりまでしているのだ。


「おーい、山口。それは俺のラブだからあんまり独占するなよ。」


 楊だ。

 県警では、「楊のラブクラフトマニア」を略して「楊のラブ」と僕は呼ばれているそうだ。

 良いじゃないか、ラブクラフトのクトゥルフ神話は素晴らしいものだ。


「それでお前は家が決まったのか?決まってないならウチに来い。二階の子供部屋が空いているぞ。」


「子供部屋?冗談が過ぎますよ、かわさん。」


 楊の登場で僕は解放されて山口を見返したら、楊のからかいに笑う彼の顔は小学生の子供みたいだ。

 そして彼の変化で、僕はちょっと気付いた事もあった。

 気付いて、とても悲しい切ない気持ちになったのだ。

 彼が抱きしめたかったのは、僕ではなく、幼い頃の寂しかった自分なのだろうか、と。


「あ、猫がいる。」


 見れば葉子の姿が消えていた。

 正当なストーカーである葉子は、楊の姿を見るや彼のために特製の何かを作りに行ったに違いない。

 それを証拠に彼女の気配はキッチンにある。


 楊は葉子の振る舞いなど当たり前のように、彼女の残していった猫を嬉しそうに持ち上げて自分の膝に乗せあげた。

 しかし、寝ていた猫は楊に喜ぶどころか不機嫌な顔で楊を見返して、「うにゃあ。」と恨みがましく鳴くと、鈍そうな体型からは想像できない素早さで彼の膝を降りて走り去ってしまったのである。


 不思議な事だが、楊は猫には好かれないのである。

 あんなに世話をして貰ったあんこちゃんなんか、三日で楊を忘れたらしい。

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