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お前を失うのならば鬼になろう(馬4)  作者: 蔵前
六 捨て子された僕と家を手に入れた猫
19/67

あれはパーティだったさ

「ひどいよ、そんなパーティーに僕達を置いてきぼりにするなんて!」


 激高したそのまま叫び声をあげたのは山口だ。


 パーティー?確かにそうだろう。

 正太郎の船に行った男共は、最初からバカンスがしたかっただけの人達だったのだ。


 船上の異常事態にも関わらず「応援」の連絡も入れず「帰港」もさせず、迅速にシージャックしてシージャック犯を潰したのは、バカンスの続きがしたかっただけなのだ。


 彼らは事件が終結すると、迷惑顔の料理人にディナーを要求して高級料理に舌鼓を打ち、翌日以降は船を横浜に向けて航行させたが、時折船を停止させては正太郎を囲んでマリンスポーツをして遊びまくるという有様だった。

 正太郎の船がようやく横浜港に寄港したときには、彼らは全員こんがり焼けたバカンス帰りの姿でしかなく、だが、それで昇進してきた厚顔達であるからか、何の悪びれるところもなく刑事のお面をしらじらしく被って本部に犯人を連行したのである。


 五人のならず者の所業に正太郎は非常に喜び、横浜港に辿り着いた時点で、財界の重鎮である彼は、五人組の言うことは何でも聞く「悪徳警官達のパトロン」に成り下がってしまっていた。


 そんな島田正太郎の船が密輸船として勝手に改造されていたのは、財界のトップの一人が乗る船が、海上保安庁に見咎められることはないだろうとの犯人側の目論見である。

 密輸などしなくても、正太郎を殺してから正太郎が生きているように見せかけて、彼のお金と船で世界中を豪遊する事もできるのだ。


 計画の発案者は副船長の柳瀬章久だった。


 最初に船長達を良純和尚達が襲撃したのは、頭を最初に潰せば下が動きを取れないというだけの話であったそうだ。

 そこまで読んでいたのならば船内で大暴れする必要は無かったのではないか、と僕は首を傾げるばかりである。


 警察の事情聴取において、僕の同情心まで湧くほどの主犯である柳瀬章久は、島田章久が正太郎の船を使った一ヶ月の間に、同じ名前の男が豪遊する姿にどこかが壊れてしまったのだと告白したそうだ。


「会いに来た女が俺を島田だと思い込んでいたらしく、騙したって罵倒されて思わず。」


 ナンパした女性を殴り殺した彼は、殺人の証拠を隠すために展望室の一部を壊した時に、そこを改造して密輸船にする計画を思いついたのだという。

 その後、同僚達を巻き込み密輸を繰り返しては、密輸の甘い汁で共犯者を増やしていったのだそうである。


 峰雄は一週間前の食料の調達時に港に停泊した時に、島田の四男の保だと名乗り数人の手下と乗り込んできたそうだ。

 彼らは手当たり次第に船員を殺してシージャックするつもりだったが、海の男を甘く見ていたもようである。


 柳瀬達は峰雄一味を返り討ちにしての一網打尽だ。

 それは正当防衛でしかないが、彼らは船を密輸用に改造していたという負い目があり、仕方がなく死体を少しずつ海に捨てていた。


 峰雄の死体だけは、保の死体が上がったら調査が入ると隠していたそうである。

 そんな所に僕達がやって来て恐慌をきたしたのだ。

 しかし、僕達が正太郎に話す会話をその場にいて全部聞くことになった柳瀬は、保そっくりの峰雄の死体の活用方法をも見出した。


 逃げ切れないと観念しての自殺を装って、刑事の目の前に冷凍保存していた死体を吊ったのである。


「刑事にあの死体を差し出せば、彼等は船から出て行くと思ったのですがね。」


 遊びたい盛りの警察官達が帰る訳がなかった。

 彼らは知るはずもないのだ、あの人達が鬼畜だって。


 僕は良純和尚と髙に改めて恐怖した事もついでに思い出していた。

 ガードマン達は正太郎を殺す機会と、良純和尚達のような強い男と戦う機会を待ち望んでいたようなのだ。

 彼らは危険を愛するがゆえに、密輸で海外のやくざと商談する事にもかなりの魅力を感じていたようなのである。


 否、大金を自由にできるという魔力か。


 そこで、ガードマン達はどこから見ても悪役といえる好戦的ないで立ちで良純和尚達に立ち向かい、そして、彼らが知る由もない、本当の悪人である良純和尚と髙に、己達が確実に悪側だと知らしめて狂喜させたのである。

 こっちの五人で四人を制圧かと思っていたら、あの二人はたったの二人で一瞬よりも長く、わざと時間を使って四人を半殺しにしたのだ。


 髙と良純和尚が何を彼らにしたのかなんて、僕は思い出したくもない。

 坂下と楊が抱き合って、女子高生のようにキャーと叫んで脅えていたと言えば、どのぐらいの悪人ぶりだったのかわかってもらえると思う。

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