僕達シージャック
「こっち三人終わり。」
「僕も三人いけましたね。」
髙と良純和尚は鬼だった。
凶悪な鬼畜そのもの。
完全に彼らは正太郎と僕を人質にして侵攻するシージャック犯そのもので、確実に無実の人間も確実に倒していき、彼らに気絶させられた者は楊と坂下によって拘束され手近な部屋に監禁された。
一応僕は最初の襲撃時の被害者を無罪有罪を判定をして、犯罪者とただのスタッフが一緒に監禁されないように坂下と楊に伝えていたが、すぐに中止させられた。
県警の死神と綽名を持つ髙に。
「それは後。時間がもったいないし、下手に分けると後で面倒が起こるからね。敵だけにして談合されても困るし、拘束が甘くて一般人逃がすと、事態を認識できないのにひょこひょこ歩き回られて危険なんだよ。それよりも、ちゃんと武器持っていないか逃げられないか、確実に確認して拘束しているだろうね。」
髙の鋭い眼光に、しゃがんだ格好でスタッフを縛り上げている最中の楊と坂下は二人同時に右手の親指を立てた。
「大丈夫っす。」
「オッケーでっす。」
敬語でハモるように同時に答えた二人の情けない姿に驚く僕を尻目に、髙はさっと踵を返して、再び良純和尚と獲物を捕獲しに消えて行ってしまった。
「なに、あの人。お前あんな怖い人にいつもの無茶ぶりをしちゃってんの?」
「いや、普段は誰よりも気が長くて温和なのよ。遊びのノリも最高だしさ。」
元同僚で上司部下だった二人は、まるで草取りをさせられている高校生のようにぺちゃくちゃ喋りながら、船員の拘束にせいを出しており、その作業を見ている僕の後ろでは、五百旗頭と正太郎が世間話にせいを出していた。
僕は大きく溜息を吐きながら、事の次第を思い返していた。
鬼の彼らが最初に制圧したのは操舵室だった。
確実に味方側の船長及び副船長と航海士の計三名を襲い、操舵室を占拠したのだ。
彼らが脅えている横で刑事たちが現場検証という名の武器や爆弾などの不審物がないか確認した後、副船長二人を拘束したうえで、確実に島田の長年の友で相棒とも言える船長にシージャック犯よろしく命令したのである。
「船を停止させて。船員からの連絡にはいつもどおりの行動を取るようにと。僕達が戻るまではここには誰も入れないで下さいね。あと、拘束も解かないで。」
不当な事をした上に警察バッジを見せ付けながら命令する悪徳警官に、無力な一般人が逆らえようか。
僕は髙の後ろで「ごめんなさい。」と船長達に手を合わせていた。
「ここが一番安全ですから、島田さんと玄人君はここに残った方がいいですかね。」
操舵室を出て行こうとする髙が僕と正太郎に素晴らしき言葉をかけたのだが、その言葉に異を唱えたのは、僕ではなく正太郎だった。
「こんなに面白い出し物を体験しないでどうする。僕はついて行くからね。でも、玄人は怪我をしたら大変だ。危ないからここに残っていなさい。」
八十六歳の老人に守られる二十歳の僕ってなんだろう。
「僕もお供しますよ。おじいちゃん。」
そして今に至るのである。
拘束監禁が完了したのは既に十二名。
その中で造反者は七名もいた。
残りは十名、機関室と調理室のスタッフと四名のガードマンだ。
「ガードマンの方の身元はしっかりしているから大丈夫ですよね。」
確実に武道の有段者で闘い慣れしているだろうガードマンと、悪辣で無常な良純和尚を戦わせたくない気持ちで一杯で、機関室への通路を歩きながら正太郎に尋ねた。
しかし、答えたのは五百旗頭だ。
「あいつらがどうしてガードマンを最後に残して侵攻していると思っているんだ。おいしいものは最後に残すって言うだろ。」
そのセリフに正太郎は声を出さないように口元を覆い、むせながらも大笑いをやめられないようで、僕は僕でさーと血が下がっていくのを感じていた。
「駄目ですよ。ガードマンさんが真っ当な人達なのに良純さんに再起不能にされたらどうするのですか。あの人、手加減って言葉を知らない人ですよ。」
「いいねぇ、僕はコロッセオの王様みたいだ。」
「おじいちゃん、あなたのガードマンは奴隷扱いなの?」
「お前ら、何してやがる。全員止まれ!」
僕達の目の前に、白服とベージュ服の四人組が現れた。
僕は判定しなくても良いと言われていたが、自分の性質的に彼らを見つめてしまった。
だって、本気で真っ当な人達だったら、言葉だけでも「やめて」と唱えるだけでも、僕の罪が軽減されるような気がしているからだ。
良心的な、ね。