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お前を失うのならば鬼になろう(馬4)  作者: 蔵前
四 幻のナポレオンフィッシュと過去の死体と現在の死体、そして帰りたくない男達
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呼ぼうよ!増援!

 真っ赤ではなくどす黒いこってりした血が纏わりつくそれは驚きに顔を歪めているが、太って弛んでいても綺麗な顔立ちをしていた。


 それは、僕の良く知っている、橋場峰雄、という少年によく似た顔立ち。


 真がホテルのベランダから突き落とされる姿を笑って見ていた、真と同じ父を持つ兄でもある男の現在の顔だ。


 しかしながら、遺体の本当の顔を見通した時に、集団のリーダーであった彼が数人によってたかって殴り殺される場面も見えた。


「なんで?」


 思わずの言葉が出て、僕の言葉に僕は一斉にならず者たちの視線を浴びた。


「どうした?ちび。」


「この死体は橋場峰雄です。ええと、この間の事件の指名手配犯。複数の人間に寄ってたかって殴り殺されてますね。」


「まじで?」


 唖然としたのか楊がいつもの言葉を発し、髙が冷静に尋ねてきた。


「誰に殺されたの?手下による造反?」


「複数によって殺されたという事は、こいつの上がこいつの処分を決めたのかな。そいつらがここのスタッフに紛れ込んでいる、ということですか?」


 髙に相槌を打つようにして言葉を挟んできたのは、いつもの格好の良い坂下であった。

 警察はあずま史雄ふみおという弁護士を重要参考人として探しているらしいが、九十歳以上の年齢の男が犯罪を犯している筈もないと、その男の名を使う人間がいるだろうという見方だ。

 坂下が上と言うのであれば、峰雄達を束ねていたのがいるはずだという見解の上で警察が動いていたという事なのだろう。


 だが、僕にはそんな警察の事情よりも、造反した正太郎のスタッフに加えて連続殺人犯の手下達までも乗船しているという事実の方が大事である。


 大事どころか、大変だ。


「えぇ!峰雄の手下までこの船にいるの!殺されちゃう!おじいちゃん、潜水艇で逃げよう。免許が無くても、緊急避難で何とかなる。」


 脅えた僕と違い、良純和尚はこの展開に面倒臭そうな声をだした。


「こら、落ち着け。手下がいないからこそ、そいつの死体がここにあるんだろう。」


「どうして、そう思うの。」


 楊が良純和尚に聞き返したが、楊の声には少々素っ頓狂な響きがあった。


「俺が会った峰雄とやらは、鍛えた事が無さそうな体の動作だったからね。あいつの仲間は皆そうだったじゃないか。遺体で面会した真の方が筋肉がついていて、運動をしている体つきだった。だからこそ、峰雄達は真を多勢に無勢で痛めつけて殺したんだろう。一対一では確実に真にやり返されただろうからね。こいつは確実に自分よりも弱い奴にしか暴力を振るえない人間だよ。奴らが残虐だったのはそこも理由なんだろうね。」


「それでもさ、警察の手を振り切った奴がどうしてここで死んでいるのさ。」


「島田保の振りをしてこの船に乗り込んで警察から逃れたはいいが、クロの言う造反したスタッフとやらに見咎められたのだろう。その場しのぎの馬鹿が計画的な奴らに計画の邪魔で処分されただけ。こいつはやっぱり考え無しで、誰かの駒でしかなかっただけということだろ。」


「それじゃあ、やっぱり裏で糸引く東って奴も確実に存在するのか。」


 疲れたように首を回す楊のセリフに、聞いた警察官達が嫌そうに反応している姿と対照的に、良純和尚はフッと悪魔のような完璧な微笑を顔に浮かべて、さらに恐ろしい事を口にした。

 彼は破戒僧でもある。


「東も峰雄の存在もこの際無視でな、この殺人も、誰が、何のために、なんて考える事を廃して、船内のロクデナシの排除に徹しちゃえば良いんだよ。俺達は船内の人殺しのろくでなしを潰しゃあいいんだ。今のところはね。」


 坂下と楊が呆然としているが、髙はいつもと違う微笑みになって良純和尚に同意した。


「これで決まりですね。船員は全員で二十六名です。正太郎さんのガードマンの四名を含んで三十名。船内移動を含めて三十分もあれば制圧できますかね。」


「お前ら無実の人間も一緒に潰す気かよ、おもしれぇ。」


 破戒僧と死神警官を諫めるどころか喜び出した五百旗頭は、やっぱり五百旗頭だった。


「ちょ、ちょっと待って下さいよ。無実の一般人はやめましょうよ。」


 僕の信じる一番の警察官らしい坂下が彼らに水を差したが、そんな彼に振り向いた髙と良純和尚は人の目をしておらず、あの坂下が一瞬怯んだ所を見れるとは思わなかった。


「ちびに悪いやつかどうか鑑定させながら制圧するって言うのは?」


 おどおどと提案した楊をすかさず却下したのは、元公安で彼の相棒の髙だった。


「時間がもったいないでしょ。多勢に無勢な場合は、敵を一箇所に纏めない様にするのが鉄則でしょうが。こういうのはさっさと相手に気付かれないうちに済ますものなのよ。かわさんと五百旗頭さんは玄人君と島田さんのガード担当で、僕と百目鬼さんが先鋒になって進むから。坂下さんはしんがりをお願いしますね。」


 凄く楽しそうな顔になっている良純和尚をよそに、髙がさっさと行動計画を立てていく。

 僕は二人の戦いぶりが見れると、その時は凄くワクワクしていた。

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