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お前を失うのならば鬼になろう(馬4)  作者: 蔵前
四 幻のナポレオンフィッシュと過去の死体と現在の死体、そして帰りたくない男達
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警察官の性

「どうかしたのですか?海パン姿で現場検証ごっこって、もうリゾートに飽きちゃいましたか?さすがの警察魂ですね。」


 僕は良純和尚に尋ねたのだが、僕に答えたのは楊だった。


「馬鹿、お前、本当に馬鹿。ごっこじゃないから。危険だから正太郎さんと安全な船内に戻って。百目鬼と一緒なら大丈夫だろ?」


 見直してみれば、警察官の足元には血まみれの遺体が転がっていた。

 もう始まってしまったのだろうか?


「船内よりも皆さんといた方が安全だからこちらに来たのですって。この船、四ヶ月くらい前にジャックされています。たぶん、お爺ちゃんを頃合いを見て人質にする予定だったのでしょうけど、でも、もう死体があるって事は、僕が警察を連れてきちゃったので計画が早まったのかな。どうしましょう。無線で助けを呼びませんか。」


「君の提案にはがっかりだよ。」


 五百旗頭が深く渋い声でしみじみと呟いた。


「え?がっかりって、え?」


「馬鹿ちび。応援を呼んだら俺達が真面目に仕事をしなければでしょう。」


「そうだよ、玄人君。せっかくのバカンスでしょう。他に解決策はないかい?何でもいいよ。犯人を名指ししてくれたら、オジサンが犯人をボコってあげるから、ほら言って。」


「えぇ、髙さん。僕にはスタッフのどれだけが犯人なのかわかりませんよ。」


 大きく舌打ちをした髙に僕が脅えたそこで、傷ついた青年のような叫び声があがった。


「あぁ、畜生。呼び戻されない休日はどこにあるんだよ。」


 シャウトの主は坂下であった。

 そして、坂下の叫びが楊にも伝染したのか、楊は海や空に対して意味のないことを反抗期の青年のように叫び出し、坂下もそれに呼応するようにだが、坂下は楊よりも私生活が大人であるからか、彼の今現在の家庭内の鬱憤について大空に叫び出した。


 どうやら二歳の赤ん坊中心の生活らしく、赤ん坊の寝入りばなは自宅に帰ってはいけない掟らしい。

 俺だって大事にしてよ!なんて叫びはあまりにも情けないので、意味のない事を坂下も叫んでいるという事に僕の脳内は修正した。


 僕は楊の情けなさには慣れてしまっているのでどうでもいいが、坂下にはまだ格好良いままでいて欲しいという願いがある。


 僕は現実逃避の為に坂下から目を逸らして五百旗頭を見れば、彼は頭を抱えて落ち込んだ情けない風情で適当なところに腰かけていた。

 僕は五百旗頭には何の期待もしていなかったはずだと自分に言い聞かせてから、気持ちを落ち着ける様に大きく溜息をつき、僕が信じて間違いのないはずの良純和尚へと振り返った。


 彼は髙と何かを密談している最中で、それでも僕の視線を受け取ると、僕に向かってとても悪そうな微笑みを浮かべた。

 その笑顔に僕の背中から腰まで電気のような何かが走ったのだが、それは怖気ではないと確信して僕は自分にぞわっとした。


 彼は魔王だ。


「あの。」


「クロ、とりあえずこの死体だけでも見通してくれ。そうしたら、俺達の方向が決まるからな。」


「決め手が必要なのでね。お願いしますよ、玄人君。」


 髙が浮かべた表情には、僕は本気の怖気が走った。

 だって、彼は微笑みながら殺気を迸らせているのだもの。


「出来立ての死体なのでしょう。スタッフの誰かだったら、お、おじいちゃんこそ。ねぇ。」


 正太郎に振り返ると、彼は後退りながら大きく右手を横に振っていた。


「おじいちゃん?怖いの?」


「ううん、あの、ほら。僕はスタッフの顔なんて覚えないから。」


「ひどい。おじいちゃんはヒドイ人だ。」


「はは。覚えていても無理だろう。顔が潰れているんだよ。」


「顔が潰れている死体なんて見たくないですよ。」


「お前にはグロテスクに見えないんだろ。」


 言われてみればそうだったと、僕はがっくりとする。

 僕は変なものが見えるせいで、人が見えるはずのものが見えなくて見えないものが見えるという特性を持っている。


 橋場を襲おうと計画された事件で、橋場の人間そっくりに整形された男と女が橋場の本宅に放り込まれたが、僕には彼らが整形前の橋場とは無関係の顔にしか見えなかったのだ。

 ちなみにその橋場というのは、先日良純和尚が葬式を執り行った橋場であり、「世界の橋場」と謳われる橋場建設の経営者である橋場家様だ。


「おう、お前は元の顔が見えるのか。それじゃあさっさと判定しようか。そうしたら髙さんという県警の死神がなんとかするんだろ。何とかなれば遊び直せるじゃねぇか。ほら、早く。俺達の遊ぶ時間が惜しいじゃないか。」


 遊びたい盛りの警察官のリーダーがあからさまに元気を取り戻して僕に期待した顔を向けて煽るに至り、騒いでいた楊と坂下の叫び声が聞こえるどころか静かになって嫌な視線を僕に送っていると気が付き、僕は嫌だが確認することにした。


 ここは言う事を聞かないと、僕の身の方が危ない。

 どうして警察は体育会系なのだろう。

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