少年リアム2
「父さん、オレわかんないよ」
瞼を閉じると、夜風が窓を叩く音が聞こえた。本当は自分の中で答えがでていた。あとはそれを言葉に行動に移すだけなのだ。
太陽の光がカーテン越しからリアムの身体をなでた。リアムは目覚めると身体を震わせた。それはたんに寒さのせいではなかった。
「母さん」
リアムは何かにとり憑かれたように部屋を飛び出した。
「母さん!」
火のような赤が白いシーツを染めていた。
「ちょっと待てて今医者を」
刹那――、リアムの身を何かが支配していた。気がつけば疾風のごとく中心街まで足を動かしている。呼吸が乱れるのを忘れてリアムは必死にドアを叩いていた。
まだ診察時間に早すぎると怪訝そうに顔を出した開業医の男が鬼気迫ったリアムの姿を見てほくそ笑んで答えた。
「今は時間外のはずだが」
リアムは男の襟を掴むと言葉にならない悲鳴のような音をあげていた。その直後、男が振りかざした拳がリアムの頭をかち割った。
「戦犯の息子がっ」
地面に叩きつけられたリアムにそう吐きつける。
「母さんが・・・・・・」
「弟はお前の親父に殺された」
這いつくばって呼吸を整える間、リアムは愕然とした。
――これほどまで、
その考えは間違えなく自分自身のものだった。そして父であるアラン・リングトンが犯した罪を改めて体感する。
「弟はお前の親父を信頼していた、しかしその最期を知ったとき私はお前の親父を許すことができなかった。だから私はお前たちを許すことができない。おそらくこの町の大半はそうだろう、すまない」
いつの間にか、リアムは目を閉じて五体の力を抜いていた。
瞼の裏には見知った街の顔の青年たちが見知らぬ戦場で地に倒れ苦しそうに呻いている。瀕死の状態で言葉にならない声を上げている者もいた。
――しょうがないの。
エレナの言葉が胸に突き刺さる。これが因果応報というものならばはたしてしょうがないなどという安易な言葉で片付けられていいものなのか。
大切な人を失った悲しみは同じなのになぜ自分だけこんな仕打ちを受けなければいけないのか、やがてリアムは考えることをやめた。
それからのことはあまりよく覚えていなかった。ただ三日三晩小屋にこもりエレナの使っていたベッドに腰かけ虚空を眺めていた。
「リアム・リングトンだな」
名前を呼ばれて視線を上げる。リアムの疲弊した姿に男は真っ青になって何度も頷くと、リアムに向かって、にこっと笑いかけた。