作者の奇妙な夢見語り-とある修学旅行での出来事-
(作者が夢で見たものを小説風に綴った短編です。)
昔から奇妙な夢を見続けており、温めていても退屈なので書いていくことにしました。
死んでから誰にも見られないで終わってもつまらないので、誰か1人でも見て貰えれば面白いアイデアが生まれるかもしれないと他力本願ではありますが期待も込めております。
意味不明な箇所が多々あるかとは存じますが、その辺は皆様のご想像にお任せ致します。
そこはとても大きな施設だった。
しかしながら生徒は俺を含めて8人。
どうしてそうなったかというと、他の生徒が先に帰って行ってしまったからだ。
俺達は帰りそびれてしまったのだ。
その施設は宿泊施設で、ホテルのように広く色々な設備が整っている。
教職員たちも他の生徒が先に帰ってしまって俺達が残ってしまったことを咎めず、自由にさせてもらっている。
今も仲間内で食事をしているところだ。
で俺達は何気ない日常を送っている。
「絵美、ピザなんか頼んだの?」
「毎日定食とか飽きるし」
「だからって朝からピザはねえ」
女子たちが笑っている。
俺達は数人の修学旅行をまあまあ楽しんでいる、と言えるだろう。
「ここいい?」
「うん」
俺はスマホを取り出して仲の良い3人に連絡を取る。
「白崎、お前蕎麦かよ」
右後方で見知った顔があったので俺は丁度食べ終えたと同時に席を立った。
「よ」
「ああ、植田、見てくれ白崎が蕎麦食ってる」
「別に見れば分かるよ、垣原は食わないのか?」
「そうだなあ、何か買ってくるか」
俺は1人ぽつんと座る白崎と垣原の去った方を見てから白崎の隣の席に座った。
「蕎麦うまい?」
「ん、まあまあ」
「……」
俺達はこのホテルにいつまで留まればいいのかはっきりとしたことは分かっていない。
というのも教職員は自由にしてろというので自由にしているが、さすがに2日も3日も経った今となってはそろそろ帰りたいと思うのだ。
垣原が帰ってくる。
「なあ、このホテルの地下に面白いもん見つけたんだ。後で一緒に行こうぜ」
「面白いものって何だよ?」
「地下室みたいなところだ。よくわからんが、エレベーター付いてるんだよ」
「へえ、女子も誘う?」
「いや、男だけで」
「わかった」
まあ、正直女子なんか誘ってもそういう悪いことは白けてしまうのがオチだ。
やめようよ、とか怖い、なんて言う奴が1人でもいたらつまらん。
「白崎も来るよな?」
「え、いいよ」
このいいよは行ってもいいよという意味だろう。
はて……
ホテルの地下で集合の手はずになった俺達は総数6名だ。
はっきりいって途中で見つかるんじゃないかとドキドキしていた。
このホテルは中層部をどこかの会社へ貸し出しており、1階は図書館、2階からは雑貨売り場やアミューズメントなどその階層の内容は多岐に渡る。
このホテルの最大の特徴はそういった柔軟な部屋貸しだろうか。
俺は地下のボタンを押す。
隣には垣原と白崎がいて、残りの3人は既にエレベーター前で待機しているという。
「あいつら早くね?」
「いや、俺があいつらに教えて貰ったから」
垣原の情報じゃなかったのかよ。
B1Fとなったエレベーターの入り口が開くとそこはただの小さな個室で新たに天井のないエレベーターが丁度死角に設置されていた。
「ここか?」
「いや、これでさらに下に行くんだ」
先に行った3人はまだ先にいるらしい。
立ち入り禁止の札を何の躊躇いもなく過ぎていく垣原は度胸があるというより単なる匹夫の勇に見えた。
それなりにハイテクな液晶操作盤で下のボタンを押すとエレベーターが動き始める。
何の認証もなく動いたところから察するに大したものが地下にあるとは思えない。
第一この施設はホテルなのだ。
「お、来たかー」
すぐに声が聞こえた。
飛び出せば落ちることができる壁のないエレベーターからは3人の姿を見下ろせる。
そこに居たのは西川、西元、室君だった。室君は室崎という男なのだがのぼうっとした男でみんなから室君という愛称で呼ばれている。
西川と西元の組み合わせはまあ、意外といえば意外だった。
この2人は特に仲が良いというところを見たことがなかったからだ。
「で、地下室ってここのこと?」
合流した俺達はまずそのことを尋ねた。
「いや、まだこのエレベーターでさらに地下に行けるから。降りてみようぜ」
この空気だけで既に普通じゃなかった。
窓がなくて電気の明かりがなければ完全に闇に閉ざされる想像の恐怖、壁に何も人工的加工が施されていない。
つまり、岩壁。岩肌が丸見えである。
「先に俺たちが降りる」
「ああ」
液晶パネルを操作するとエレベーターはガチャンと音を立ててゆっくりと下降していった。
いい――!?
エレベーターという床が下がったことで隙間から覗いたその地下空間は想像を遙かに越えていた。
「なんだよこの地下、巨大空間じゃねえか」
「……」
垣原のやつ、何も言わないがこれを分かってたのか?
俺はみんなが降りていくのを眺めながら言いようのない不安を大きくしていった。
「こっちは大丈夫だ、降りてこい!」
西元たちの声が届いたのと同時、エレベーターを上昇させてくれるのがわかる。
みんながいる最下層までの距離はほんの10メーターもない。
せいぜい7,8メートルか。
エレベーターに乗って白崎が操作すると一瞬エレベーターが上昇する。
「すまん」
「間違えるなよ」
垣原が操作し直してエレベーターが下に動くが、どう考えても戻る一択な気がする。
見つかったらただでは済まない気がするんだが。
「こんなところ見たことあるか?」
西元たちの声が聞こえてきた。
洞窟、いや、巨大な地下施設?
天井は見たこともない鉱石の筋がところどころ白く通っており、不気味な灯りとなって洞窟全体を青白く照らしている。
決して明るくはないが、暗くもない。
言うなれば月明かりで周囲が見えているような感じだった。
「すげえな」
「あっちの扉意外は行き止まりみたいだな」
あっちの扉というのは入ってすぐ左の突き当たりにある巨大なシャッターだ。
どう見ても重機搬入かとてつもなく大きなものの運搬出入り口にしかみえない。
「おい、あれなんだ」
垣原が指し示した先には黄色いパーカーがあった。
見覚えのある服だった。そんなに時間は経っていない。真新しく見える。
「これって岩本のじゃないか?」
岩本は先に帰った生徒の1人である。
いや、そもそも自分たちだけ帰っていないのというのはどういうことを意味していたんだろう。
ストロボのように点滅して蘇る記憶、自分たちはかつてここに来たことがあるという記憶。
そして、そのときの光景がフラッシュバックしていく。
そう、そのときも俺たちは――。
【グギャアアアァァォオオオオ――】
洞窟に木霊する人間ではない凶悪な声が響くと同時、西川の体に変化が起きた。
「おっごぎ――ギィィイイイ――!?!?!!?」
肉体の変質。細胞の変異の限界を越えたような異形の形態変化。
その正体が俺たちだった。
目の前のシャッターが開いていく。そこには俺たちと同じ形をした化け物が群を成していた。
「逃げろ!」
誰かが人の声でそう言うと後はもうエレベーターに向かって走るだけだった。
ぐりんとこちらを向いた細長い鎌のような首が俺たちを見た。もはやそいつは人間じゃない。
全身が甲殻生物のようになったそいつは殺意を持って迫ってくる、あれは生き物じゃない。
なんども上昇のボタンを操作し、俺たちは互いの顔を見合った。
4人。
室君を置いてきてしまっていたことに俺たちは恐怖する。
「西川が……なんで」
「どうする……」
ガチャンとエレベーターが上昇しきって地下が見えなくなった。
修学旅行で帰ったという記憶、そもそもどうやって自分たちはここへ来たのかということさえ今は朧気だ。
修学旅行が正しい情報なのかさえも怪しい。
「とにかく上に戻ろう。な? 白崎もそれでいいだろ?」
「ああ……」
ぜぇぜぇと喘息気味に息を吐く白崎と共に俺たちは普通のエレベーターに戻った。
あんな記憶は封印したい。
そうは思うも、その時は何故かここから逃げるという選択肢が思い浮かばなかった。
○
人間兵器という意味合いにおいて、この施設は高度な研究施設だった。
齢15の被検体を作成し、迫り来る終末の使徒へ抵抗する人類最後の研究機関。
それが植田たちのいる施設である。
「被検体のストレス状況はどうだ?」
「軒並み平均値をキープしています。被検体Cの垣原が乱数値を出していますが、バイタルは最も正常です」
「よし、行程を進める」
大量のデスクとモニターに埋まりそうになっている研究員たちは彼らの状態をチェックしながら次の開発段階に移行する。
第8世代修学生として生き残ったのはたったの6人。
1000人作って994人がヒューズナーと化してしまったのである。
第7世代は9人成功しただけに今年は不作というわけだ。
「今年の研究はだめかもしれないな」
「人間のDNAを解析し終わるまでの辛抱です」
世界人口というものがあるとすれば、現在の人口は10万に満たないだろう。
彼らは自分たちを修学旅行と思い込んでいるが、今世界はそれどころではない。
人類史上、突如現れたヒューズナーと呼ばれる怪物は人間そのものの変異体。
他者のDNAを取り込み、強化されていく彼らに対抗するためには自分たちのDNAを攪拌しないことが求められた。
数十年掛けて研究施設を地下に造ったところで、人間が突然変異することを止められなければ意味が無かった。
人間たちは怪物と戦っていたのである。