6
おお。おお、ワースさん。久しぶりです。どうです? ピコ鉛筆とテラルーペは手にはい知りましたか? 何? まだピコ鉛筆しか手に入れてないのですか。急いでくださいな。急がないと、やから二号が調子に乗ります。王の威厳を守らねばならぬのです。え? 認知症? わたくしがボケている? ははは。何を言っておるのですか。そんなわけないでしょう。わたくしは至って正常でございますよ。へっくしゅん。うう、ここは冷えますな。なぜわたくしはこんなところにいるのでしょうか? え? 王の命令。またまた、それは何かの間違いでございましょう。わたくしは王様が子供のころからお世話をさせていただきました。王様はとてもお優しいお方です。王様がわたくしをこんな独房に閉じ込めるわけがありません。何かの陰謀か、はたまた、情報の行き違いがあったのでしょう。え? 最近いつ王様に会ったのかって? 毎日会っておりますとも。今朝も会っておりますし、昨日もお世話をさせていただきました。まったく、王様はいくつになっても子供っぽくて困ります。ええ、わたくしも老齢でございます。もう隠居させてくれと、何度も言っているのに、王様も女王様も、わたくしにばかり用事を頼むのです。困ったものです。他にも従者は沢山いるのに、何故かわたくしのことを頼るのです。大臣の職をやめて、後継者をはやく探さなければいけません。わたくし以外に、大臣の職を全うできる技能を持った人間が育っていないのです。これはわたくしの責任でもあります。わたくしは、自分だけで働きすぎました。もっと、後輩を育てながら、働くべきでした。でも、今からでも遅くありません。はやくここから出て、新しい大臣候補を育てなくては。え? なに? 新しい大臣はもういるって? わたくしはもう、大臣ではない、元大臣ですって? またまた。笑わせないでください。えっと……。あなたは、なんて名前でしたかな? えっと……えっと……ああ、そうだ。ワースさんだ。失敬失敬。いや、最近物忘れが激しくて困ります。とにかく、急いでください! ピコ鉛筆とテラルーペをはやく持って来てくださいな。王の威厳がかかっているのです。王の威厳を守れるのはあなただけなのです。わたくしは王ではありません。だから、命令できません。お願いするしかありません。この通りです。一生で一度のお願いです。ああ、地面は冷たいですね。体の節々が痛みます。あいたたた。え? 前回も一生で一度だと言っていたって? そんなはずがありません。わたくしはそんなこと言っておりません。一生で一度のお願いは、今回が最初で最後でございます。どうか、お願いいたします。