最後の日
ごく普通の田舎の村に住んでいる 風間凛。そんな彼女の大好きな兄が今日引っ越しをする。
伝えたいことはまだたくさんあったのに、なぜ言えなかったんだろう。後悔と悲しみ。
もう一度 あの夜に戻りたい。
「田舎の夏の夜っていいよな~」
「あ~わかるわ。蛙と鈴虫の鳴き声がなんか好き」
「それは思うわ。まあ俺が言いたいのはそれではないんだよね」
よっこいしょと言って立ち上がる 私の兄 風間祐。
「上をみろ。こんなの建物が多いところじゃ こんな風にみえんだろ?」
私も兄に続いて よっこいしょと。
「おお!今日は一段と星がきれいだね!」
この辺は人も少なく、建物もあまりたっておらず 夜はとても静かな村だ。
そのおかげで、虫の心地のいい鳴き声とあたり一面きれいな星空を味わうことができるのだ。
「きれいだよなあ~そういえばこの景色お前とはもうあまり見れなくなるな」
「そうだね~東京か~いいなあ」
大学生になる兄は、明日から東京へ引越す。親に反対され、お金も一切出さないから!と言われても兄はめげすに
推薦で入り奨学金も全額免除という高成績で合格した。当たり前だけど親も兄に何も言えなくなっていた
「私も、大学行きたいけどさすがに佑兄みたいな真似はできないな~。私ももう少し頭の作りが良ければ…」
「おんなじ腹の中から生まれたんだから、頭の作りなんてかわんねーよ。ただ努力したかしてないかの問題でーす」
そういった佑兄はへへんと鼻をこすっている。イライラするなあ。
「うるさーーい!私も高校卒業したら、こんな村でてくんだからねー!」
「はいはい(笑)期待しときますね」
そういって、佑兄は笑っていた。二回目だが、イライラする。
「まあ、お前はいままで俺の後追っかけて、習い事も 趣味も似たようなやつばっかしてきたから
これはいいチャンスなのかもしれないぞ。お前はお前でいろ。ちゃんと自分の生き方をしろ。
「なんか堅苦しいからそういう話。」
考えてみると、私はなんでもできる佑兄の背中を追いかけて同じようにならなくちゃと必死に頑張ってきた。その追いかけてきた目標が明日からいなくなるのだ。ああ、そうだ、目標がなくなっちゃうんだ。今更だけど 寂しくなってきた。
「なんだなんだ~?寂しくなってきたのか?たまにかわいいよな(笑)。あ、シスコんじゃないぞ」
「寂しくもないし、気持ち悪いし、一回黙って。東京行ってもちゃんと食べて寝て 体こわさないで、たまに帰ってこい。」
「ああ~ツンデレ最高」
蹴り飛ばそうとしたけど、なんだか最後の日にそんな終わり方をするのもな と思ってやめといた。
言葉が出ない。信じたくない。私の兄を返して