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ハーレムは寝て待て  作者: 紗夢猫
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第五十一話 トライダーの必殺技

「そこを退いてくれ!、僕達はその先へどうしても行かなくてはならないんだ!」


 眼下に見える階段は今も消え続けている。 このままではいずれこの場所にまで達し、再び床に叩きつけられる。そしてこの高さは、トライダージャンプを使ってももう二度と辿り着く事は出来ない。焦りが温厚な流星を強い口調へと変えさせる。


「頼むよ! この先にとても大事な記憶が取り残されていて、それを取り戻したいだけなんだ!」


 すこし間が開いて、デェフェンダー――仮面をかぶっているので、口は開かない。 が答える。


「ギギ、どの様な理由があろうとも、この空間の秩序を乱す者は許されないギ」


「なっ――!?」


 動揺の声を上げた流星の言葉の続きは「さっきまで片言の言い方をしてたのに、何で急に流暢になるんだ?」で、少し動揺を見せたデェフェンダーが「あ、あれは場面に合わせた演出であって、こちらの方が天の目が読み易いかと老婆心で変えたんだギ!」等と訳の分からない事を口走る。


『流星、それよりもさきっからこいつ、ギーギーギーギーと煩い奴だな』


「しっ、レオ。それがデェフェンダーの特徴だから仕方ないんだよ……とにかく言っている事は理解できないけど、邪魔だからそこをどけて」


 戦うに値しない相手と判断したのだろう、落ち着きを取り戻した流星が強引にデェフェンダーの横を通り過ぎようとする。


「お、おい! 俺を無視するなギ! この秩序を乱す者は何者であろうが――!」


「はいはい、それはさっき聞いた。 もういいから――」


 刹那、流星は耳に鋭く風を切る音を聞き、咄嗟に体を捻って後退した。その後直ぐに恨めしそうに黒い刃が鈍い光を放ちながら空を切って通り過ぎた。


「危ないな! いきなり何をするんだよ!」


「それは此方の台詞だギ。 私が定めた規則を反故にして、何も無かった様に横を通ろうとするからだギ」


『流星。こいつは一見間抜けな奴に見えるが実力は間違いなく本物だ。お前ではこいつの相手は無理だな。俺と変われ』


「分かった」


 トライダーの主導権をレオに渡すと、何処からともなく「フュージョンチェエンジイッ!」と熱い声と共にシャキーン! という機械音が聞こえ、トライダーの両目がキラリと光った。


「さっきから言ってる通り俺達には時間が無いし、お前には全く用が無い。用があるのはこの先にある俺の記憶だけだ」


「ギギギッ……先程お前は記憶が、記憶がと言っているが、その様子だと最高機密でもある『転身装置』でも使ったのだギ」


「――な、何で分かった!?」


「ふん、当たり前だギ。そもそも転身装置の基盤を作ったのは何を隠そうこの私なのだからギ」


「――な、何だと!?」


「だから、敢えてお前に言っておいてやるギ。転身装置を使う者は転身後の記憶を全て消去し、元の体に戻る事が絶対条件だギ。万が一、イレギュラーが発生した場合、本体の身の保証は無論の事、命も落しかねないギ」


「――命を落とすだと?」


「ギギギ、素人には理解出来ないかギ……ならば分かり易く教えてやるギ。元々コップ一杯分だった記憶で転身し、戻った時にコップ二杯分の記憶を一気に脳へ流し込んで見るギ。如何なるか分かるかギ? その瞬間、お前の脳内はオーバーロードを起こし、間違いなく破裂してしまうギ。故にそれらの記憶は組み込まれた私の魔法で消去し、バランスを保てる様にしているという訳だギギ」


「脳が破壊されて――俺は死ぬ……?」


「今の説明で今からお前達がやろうとしている事が、これに該当するという事が理解出来ただろうギ? であればさっさと引き返すギ。まぁ、今回の事は大目に見ておいてやるギギ」


『そ、そんな! 苦労してやっとここまで来たのに……レオ、そういう事ならとてもこの先には行けない、悔しいけど言う通りに引き返すしか――』


「いいや、流星。それでも俺は行くぜ」


『――レオ!?』


「ギギ? おかしいな……当然理解してくれたと思ったのだギが、はてさて、私の聞き間違いかギ? 『行く』と聞こえたギ」 


「ああ。聞き間違えじゃねえぜ、俺はそれでも行くって言ったんだよ!」


 レオはデェフェンダーに攻撃し、互いの腕が頭上で交差する。


「――っ!? お前は本物の馬鹿野郎ギ! 私がせっかく有り難い忠告をしてやってると言うのギ!」


「うるせえ! 惚れた女に会いたいが為にこんな馬鹿げた空間を創ったお前の方がよっぽど大馬鹿だぜ!」


「――ギギッ!? お前どうしてその事を知ってるギッ!!?」


 刹那、デェフェンダーの構えに隙が生じたのをレオは見逃さなかった。


「今だ流星! 俺の拳にありったけの魔力を注ぎ込めえっ!!」


『了解いいいっ!』 


 神の手の魔法陣が激しい光を放ちながら、デェフェンダーの鳩尾に食い込む。


「ぶっ飛びやがれ! トライダーパアアアアンチっ!」


「ギギギギイイイイイッ!」


 物凄い勢いで吹き飛んだデェフェンダーはノイズを走らせながら白衣を纏った何者かへと変わっていった。


「私の忠告を無視するとは、なんと愚かな奴! 本当にどうなっても私は知らないからなあああっ!!」


 最後に遥か上空で星の輝く音を響かせ、その者は消滅してしまった。


「……結局何だったんだ、あいつは。 まともに力をぶつけ合っていれば不利な状態になっていたのかもしれないが、間抜けな奴で本当に助かったぜ」


『うん。そうだね――って、レオ、トライダーの最終回を今思い出したよ! デェフェンダーがトライダーを異次元空間に引き込んで、激戦の末、最後の最後にお互い渾身の力を振り絞って拳を打ち込み合うのだけど、その時トライダーの放った必殺技が勝利をもたらしたんだ!』


「ほほう、で、トライダーはどんな凄い必殺技を繰り出したんだ?」


『「お前の幹部、否っ! 秘密の愛人――ジェネラルクライシスが今も身を削る思いをしながら、お前の帰りを待っているぞ!」ってね。その時一瞬だけデェフェンダーの拳が止まったんだ。何と言ってもその事は誰にも知られてはいけない二人だけの秘密だったからね。でもトライダーが密かにその情報を手に入れていて……それを最終兵器として使ったんだ』


「おいおい、それって必殺技でも何でも無いじゃねえか……っていうか、トライダーは子供番組の筈だろ? ……いいのか?」


『結局、「正義は勝つ」と言う事で、何も問題無かったんじゃないかな?』


「…………そうなのか? まぁ、流星が言うんだから良しとするか!」


『って、そんな事を呑気に言っている場合じゃない! レオ、急がないと下がまずい!』


 気付けば足元の床が消滅仕掛けている。レオは上に繋がる階段に飛び移ると、次の廊下へと転がり込んだ。


「さっきみたいにまたあいつが出て来るんじゃないだろうな?」


『最終決戦は終わったんだから、もう出てこないと思うよ』


 気配を探りながらレオは前に進むが、流星の言う通り敵らしき者に出くわす事は無かった。


「良し! このまま一気に進むぜ!」


 オールクリアと判断したレオが次々に一気に階段を駆け上がったその時だった、やがて今までの階段とは違い何処か見覚えのある懐かしい階段に辿り着く。そこは水晶の輝きにも似た眩い光が周辺に煌めいて、何故かとても愛しく感じる神聖な場所であった。


「間違いねえ、ここが――」


『――レオが記憶を失った階段だ』


 二人の言葉が繋がり、同時に零れた。


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