第五十話 最悪の天敵?
レオが流星を救ってくれた様に流星もまた、レオを救いたいと強く思い、夢空間にレオを呼び出して再び桃子との記憶を取り戻そうと試みたが、そこで突き付けられたものは、無限とも言える当方も無い階段の現実であった。
「な? お前の発想はとても奇抜だったが、これを見て諦めがついただろ? 要するにだ、お前と同じ考えを持ったは他にもいたのだろうが、この仕組みを理解してるからこそ、わざわざここに来てまで実行に移そうとする奴は誰もいないって事だ」
「……くそ、誰だよ……こんなややこしい迷路みたいな空間を創った奴は……!」
「ん? これか? 俺達の何でも先代の先々代のそれよりももっと――ってな奴が特別な神器を使って創った代物だとか何とか、風の噂で聞いたな。そういや、裏話にはこれを作った奴がとある女を好きになって、どうにかしてお近付きになれないものかと必死で考えた空間らしいぜ」
「……動機が不純過ぎる」
「ま。何かとてつもない事を成し遂げた奴等って、くっだらねえ動機が発想の根源になってるのかもしれねえな。さて、男同士の気持ち悪い密会はここまでにして、俺はとっとと帰るぜ? んじゃな」
踵を返したレオは道標の光を辿って引き返し始める。まだ諦めたくないのか、流星はレオの背中を見送りながらずーっと何やら考え込んでいた。
――こんな事になるのだったら、あの時、何か印を付けながら帰れば良かったな……。そうすればまたそこを辿って戻る事も出来のに……ん?。
――そうだ! 魔力探知をして、僕達の残っている魔力を追えば、もう一度あの場所に戻れるかも知れない!。
直ぐに魔力探知を開始すると、微力な魔力を感じ取る事は出来たものの、余りにも時間が経過し過ぎていた為、その経路を確実にする迄には至らなかった。
「くそ、やはり駄目か! 今の僕の魔力では塵にも等しい魔力の痕跡等追う事なんて出来ない。もっと僕の魔力が上がれば、可能になるかも知れないのに――もっと僕に強い魔力があれば……って!」
「レオ! ちょっと待った!」
流星の声に階段を数階上がったレオが「何だ? まだ諦めていなかったのか?」と顔を覗かせながら、だるそうに返事をした。
「思いついた事があるんだ! 悪いけどまた戻ってきて!」
「ああ? 勘弁してくれよ! 確かに肉体的には休んじゃあいるが、魂の夜更かしは精神的に疲れが残っちまうんだよ!」
と、ぶつくさいいながらも階段を降りて戻ってくる。
「で? お前の浮かんだは思いつきとは何だ?」
「うん。 レオ、良く聞いて。今からこの空間に残っている僕達の魔力を追ってあの場所に行こうと思う」
「……流星、まさかとは思うがお前、この馬鹿広い空間で魔力探知をするつもりじゃねえだろうな? ついさっきまで残った魔力を追いかけるならともかく、時間の経ち過ぎた俺達の絞りカス同然の魔力なんぞ今から探そうなんて不可能だ。 って事で今度こそ俺は本当に帰るからな! もう引き留めるんじゃねえぞ!」
「だったら、その僅かな魔力も探せる位の力を僕達が持てばいいだけだ」
「やれやれ……そんな膨大な魔力をどうやって――!」
そこでレオの言葉が途切れ、目を見開いたまま流星を見た。どうやら同じ考えに至ったらしい。
「フュージョンをするんだ」
「フュージョンをやる気か?」
言葉が重なると、流星が大きく頷きながら自分の両腕に赤い籠手を呼び寄せ、装着した。
「――これなら、多分探せる筈だよ」
「そうだな、確かに……これなら!」
一瞬、嬉しそうに期待の言葉を漏らしたレオだったが、また直ぐに「いや……無理だな」と、落胆してしまった。
「ど、どうして無理なんだ!?」
「それは……あれを見りゃあ分かるさ」
言って、レオが一つの階段を指差すと、その階段が下の段からすうっと消滅し始めたのだ。
「あ! 階段が消えて――」
「そういう事だ。どれだけだだっ広い空間でも、用済みの階段――道が残れば、何時かは手狭になるんだろうよ。だからある程度時間が経てば、消える仕組みになってるのさ。俺達がクロノスを倒してから何日経ってると思ってるんだ? もう、とっくの昔に消滅しちまってるさ」
弱音を吐きながら目を伏せるレオに、流星は物凄い苛立ちを覚えた。
「――っ! レオは何時からそんなに弱くなったんだ!?」
「……何だと?」
「だってそうだろ? まだ試してもいないのに最初っから諦めるなんてさ、そんな心の弱い人が良く隊長に成れたものだ!」
「なっ!? この――!? ぬうう、がああああっ!」
流星の暴言にレオは思わず翳した拳を全身を震わせながら引っ込めた。
「よ、よおおしっ! そこまでコケにされとあっちゃあ俺も引き下がれねえ。やってやろうじゃねえの!」
「ふうん? どうせ駄目だと思ってるんだろ? それでもやるのかい?」
「煩い! 男に二言は無い! つべこべ言ってないでさっさと準備しやがれ!」
「僕の方は何時でもいいんだけど?」
「――ちっ、そうかよ!」
レオが空中に高く跳んで黒猫に変身すると、宙で一回転ながら流星の右肩にちょこんと乗った。
「『フュージョンっ!』」
二人の声が重なって、トライダーに変身する。
「じゃあ、やってみるよ!」
『おう! やってみやがれ! とっくに覚悟は出来てらあ!』
何の覚悟を? と流星は苦笑しそうになるが、そこは耐えて探知に集中した。両手を前方に翳し、潜水艦のソナー音の様に力強い魔力を広大な空間へと一気に放つ。
「ん……………………あ! み、見つけた!」
『ああ、俺にも分かるぜ! 本当にまだ残っていやがったとはな!』
「喜ぶのはまだ早い、問題はこれからだよ! 今度は捕えた魔力達を具現化して、その階段を赤色に変換……ど、どうだっ!?」
流星達の両目――トライダーの両目の先に幾つか赤く染まった階段が見えた。
「あった! あれが僕達が以前上った階段だ! レオ、もちろん行くだろ!?」
『ああ! せっかくだから俺はあの赤い階段を上ってやるぜ!』
何処かで聞いた事のある台詞をレオは嬉しそうに言った。流星はそれを軽く聞き流し、赤い階段を目指して駆け出した。やがて目的の場所に辿り着くと、視線を遥か上に向けた。
『やはり遅かったか、上に繋がる階段が完全に消えてやがる』
時間が経ちすぎてしまっていたのだろう、確かに階段は残っていたがそれは手の届かない上部の階段だけであった。それさえも今、うっすらと消え始めているのが見て分かった。
「上る階段が見えているのだから、飛行魔法を使えば簡単だよ!」
自身満々に解決策を口にした流星にレオが現実を突きつけてきた。
『いいか流星、この空間の事を良く考えろ。何で俺達が面倒臭い階段を馬鹿正直に上り下りしてるか分かるか?』
「あ……そういえば確かにそうだ」
『理由は分からんが、何故かここでは使える魔法が制御されているんだ。以前、俺もお前と同じ考えで飛んで戻ってやろうとした事があるが、直ぐに無効化されて、地面に叩きつけられた事があってな……要するに、上空にある階段は指を咥えて諦めるしかないって事だな』
「ほら、またそうやって直ぐ諦めようとする! レオの言う通り、普通の人なら手に届かない階段は諦めるしかないよね。 でもそれは『普通の人』であればの話だけどね! でも、今の僕達は違うだろ? 飛ぶことを禁じられている? 飛べないのなら――!」
少し距離を取った流星が踵を返すと、助走を始め、その速度をぐんぐんと上げた。
「――跳べばいいだけ! いっけえええ! トライダージャアアンプ!」
力強く床を蹴って、宙高く舞い上がる。その高さは空中に在った階段に十分達するものだった。着地した両足が階段の感触をしっかりと捉えると、流星は嬉しそうに「やったあ!」と、ガッツポーズを決めた。
『やるな流星! まさかの反則技を決めるとは!』
喜びの声をレオが上げた時だった、突如空間全体に警告音が鳴り響いたのだ。
「な、何、これ、何の音?」
流星の疑問は何処からともなく聞えてきた警告で直ぐに理解出来た。
*ルートHZLX5520ニオイテ不正通過ヲ確認。本空間使用規制に基付キ、秩序ヲ乱シタ違反者ヲ直チニ排除スル*
『今言った排除対象って奴、間違いなく俺達の事だろうな!』
「と、とにかく上に上ろう!」
急いで階段を駆け上がり次の階段へと繋がる通路に出た刹那、流星の目の前に物凄い速さで繰り出された刃が飛び込んできた。
「うわ! ――あぶっな!?」
仰け反りながら、間一髪でそれを躱し、勢いのついた刃はそのまま通路の壁に突き刺さる。流星は何処かで見た後姿を呆然と見ていたが、それが何者であったか理解すると、思わず息を飲んでしまった。
「う、嘘だろ……、 な、何で――」
『何でここにディフェンダーがいやがるんだ!?』
後ろに続く台詞をレオが繋げる。 打ち付けた刃を砕けた壁の破片を飛ばしながら抜き、ゆっくりと流星の方へ踵を返すその者はトライダーの天敵、何度も地球を侵略しようと手下を使って襲い掛かってきた暗黒星の親玉――ディフェンダーであった。
「ギギギッ! ……トライダー! キョウコソココヲ貴様の墓場にシテヤルギ!」
ディフェンダーが鋭い刃に変化させた両手を鈍く光らせながら、流星を指差す。 何処となくトライダーの最終回、『トライダー、最後の戦い』を思い出した流星は 「確かこんな場面あったな……」等と懐かしんだ。
『おい、流星! 悠長に懐かしんでる場合じゃねえ! あいつは俺達、否、トライダー最悪の天敵だせ!?』
トライダーを良く知っている流星は、そこから更に最終回の再生を始める。
幾度も地球侵略を阻まれ、送り出した手下達は尽くトライダーの正義の鉄拳の前に敗れ去っていった。 遂に業を煮やしたディフェンダーは宿敵トライダーを倒すべく、己が創り出した異次元空間にトライダーを強引に引き込んだ。
そこで最終決戦の火蓋が切られ、固い殻の鎧を覆ったディフェンダーは、トライダーが繰り出してくるありとあらゆる攻撃を完全に防御し、背中に生えている大蜘蛛の様な足を使って素早く移動すると、足の先端から毒を撒き散らしながらトライダーを弱らせ、窮地へと追い詰めていく。
そして、口から粘液の様な糸を吐き、完全にトライダーの動きを封じてしまう。 ここでディフェンダーが勝利を確信し、鋭い刃を光らせながら、首を切り飛ばそうと右腕を振り上げたその時――。
トライダーは辛くも糸の呪縛から脱し、ディフェンダーの正面に踏み込むと、素早く拳を繰り出した。 ディフェンダーもそれに応えるべく、最終では拳と拳との激しい撃ち合いへと縺れ込み――。
――そこで流星の再生は終わってしまった。
*違反者ニ対シ、ソレ以上ノ力を持ツモノガ現レ、コレヲ排除スル仕様ナノデアシカラズ*
刹那、どこからともなくまたあの声が響いた。
『どうするんだ! 流星!』
「どうするも、こうするも……ここはディフェンダーと戦って勝つしかないよ! ええっと、あの最終回で見た必殺技、何だったかな? ああっ! くそ、思い出せない!」
こうしている間にも下に見える階段が徐々に消えていく。流星はディフェンダーと対峙しながら、必死に最終回の場面を巻き戻すのであった。




