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ハーレムは寝て待て  作者: 紗夢猫
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第四十七話 ブラキオとの戦い~後編

「ふん、その姿見覚えがあるぞ……お前達が力を合わせ一つと成った時、確かにとんでもない力を引き出しておったな……じゃが、あの時はあの時、今は今。このわしにはその力を封じる悪魔の拳が備わっている事を忘れるでない」


 神の拳と悪魔の拳の上で、魔法陣が静かに回転している。それはまるで互いに会話をしているかの様に見える。ブラキオは渋い顔を見せながら撤退する迄を流星に告げ、横を通り過ぎようとしするが、行く手を阻まれ足止めを食らった。


「何をしておる? そこを退くのじゃ。同じ力を持つ者同士なら、決着が付かぬ事等考えれば直ぐに分かる事じゃろ? それにこちらには人質がおる事を忘れておらんか?」


 苛立ちを覚えながらもブラキオが再び横を通り過ぎようとしたが、目の前の流星が態勢を低くして戦闘モードに入った事に気付く。何だこいつは? 持つ魔力も同じで、人質もいると言っておるのにまだこのわしと闘おうとしている。頭が足りぬのか、余程の愚か者か、何れにせよ悪魔の拳をこの者に知らしめす必要があるようじゃ……。仕方くブラキオも戦闘態勢を取った。


「……奴の一撃を軽く躱して、さっさと退散させて貰おうか。人質は……今後、上手く有効活用させて貰おうとするかの、ひっひっひ!」


 思考を張り巡らせていた刹那、目の前の流星が拳を振り上げながら自分に向かって来ている事に気付く。懲りない奴、このわしに無駄な労力を使わせおってからに。まぁ、良い。さて、奴が繰り出す魔力の匂いは何じゃ? どの精霊かの? と……相殺する魔法を検索するが、流星の拳に込められた魔力はこれまで自分が知り得た情報に何処にも該当しなかった。


「な、無い……じゃと!?」


 次第にブラキオと流星の距離が縮まっていく。慌てながら頭をフル回転させ、なんとか該当する魔力を探そうとするがやはり見つからなかった。


「無い! 無い! 無い! 何で無いんじゃ!? ちょっ!? 待て! 止まれ流星! 止まるのじゃ! さ、さもないとお前の仲間達が――」


「トライダーパーンチ!!」


「ぐぼおおっ!?」


 ばこーん! ヒーローが悪者をやっつける時、良く耳にする心地よい音を伴い、口から何かを吐き出しながらブラキオは吹き飛んだ。外に吐き出された物は暫く何かを探す様に浮遊していたが、床に横たわっていた体を見つけると、溶ける様に吸い込まれていった。


「う、ううん……私、何か変な夢を見ていた様な?」


 一人の女生徒が頭を横に振りながらゆっくりと起き上がると周りの異常な光景を見て「な、何これ!?」と叫び声を上げた。その驚きの声は体に戻った者から次から次へと上がり始める。中には互いの無事を確認し、抱き合って泣きだす者も出始めた。吐き出された魂には栄三郎と純一郎達もいた。二人は自分の体に戻ると、未だ癒えていない傷も省みず、大声を上げながら、魂を取り戻した生徒達を安全な場所まで誘導し始めた。


「ぐっぞおお! わ、わしが集めた魔力ごあああ……ふざけおってえええっ!!」


 憤りを露わにして、何とか立ち上がったブラキオは反撃しようと悪魔の拳を流星に向けて振り翳す。


「ひっひっひいい! もう、お前の仲間の事など知った事か! 残りの魔力をこの一撃に全て込めてやる! さすれば神の拳とて粉々に打ち砕かれよう!」


 ブラキオが魔力を込めようとした悪魔の拳に流星の神の拳が重ね合った。


「このわしの力、思い知れえええええええ!」


「おおおおおおおおおおっ!」


 悪魔の拳の間と流星の神の拳の間に一閃が走る。薄暗い空間は眩い光で真っ白に染まり、二つの影が重なった姿が壁に映し出された。刹那、片方の拳が粉々に砕け飛び、床に膝を付く影から断末魔の声が上がった。その声の持ち主はブラキオの方だ。間髪入れず魔法陣を自分の右足へ移動させた流星は、魔法陣を高速に回転させながら紅蓮の炎を渦巻かせる。


「トライダーキイイック!!」


「ひぎっ――!!」


 豚の鳴き声にも似た悲鳴を漏らしたブラキオは火達磨となりながら床を滑っていく。


「あづ……! あづい! あづい! わしの、手に入れた体が、体が燃えていぐうううっ!」


 じりじりと溶け始めた体から、取り込んだ魂が漏れ始め出す。助けてくれる者も居ないという事も分かっているというのにブラキオは焦げ臭い匂いをまき散らしながら床を這いずり救いの手を求めた。そして失った右手の代わりに左手が何らかのかの感触を得た。もしかして、誰かが助けて――もはやまともな思考は出来ていない。と、顔を上げ左手の先を確認した刹那、期待が一瞬にして絶望に変わった。


「あ! あ! あああああっ!!」


 もはや動かぬ事も出来ない状態のブラキオが手を伸ばし必死に掴んだ物は流星が床に投げ捨てた小型のタブレットだった。恐る恐る見つめるタブレットは先程の不協和音を奏でてはいない。振り払う様にタブレットを手放し、焼ける痛みに耐えながら、ブラキオが何とか前に進もうとしたその時だった。沈黙していたタブレットから突然トライダーの主題歌が流れ始めた。


「ひぎゃあああああああ!!」


 狂った声を上げ、床の上をのたうち回りながら、ブラキオはタブレットから離れようとするが今度はそうはいかない。焼けついた皮膚が爛れ床に張り付いたのだ。目の前に転がる流星のタブレットはこの場所がお前の死に場所である事を示すかの様に鎮座したまま、お経を唱え続ける。ブラキオは火傷の痛みからは解放されたが、吐き気を催す不協和音を聞きながら、今度は見えない「何か」に魂を鷲掴みにされた恐怖に襲われた。


「ま、待つんじゃ! わ、わしにはまだやり残した事が! わしには積に積もったこの恨みがあああ!」


 必死に叫ぶブラキオだったが、やがて肉体と魂が「何か」によって切り離されそのまま宙に浮か……ない、ブラキオの魂は床の下へと引きずり込まれ始める。


「いっ、嫌じゃ! やっと外に出れたんじゃ! お願いじゃ! 連れていかんでくれえええっ!」


意識朦朧とする中、ブラキオは自分を引きずり込もうとする物から逃れようと必死に抗おうとするが、肉体を失った今、どうする事も出来なかった。くそ! くそ! と何度も心で叫びながら沈んでいく。やがて自分の魂をひきずりこもうとする「何か」の姿が微かではあるが見え始めた時、ブラキオは言葉を失った。


「ま――!?」


 雁字搦めに自分の魂に絡みついた「何か」それは魔魅樹だった。魔魅樹はケケケケ! と奇妙な声を発しながらブラキオを床の下、否、恐らくは地獄へと連れていくのだろう。ずるずると引き込んでゆく。


「まっ、まみきがぁ、このわしをおおお、ひいいいいい!! や、やめろ!! い、いやじゃああああ!! まだわしはやりたい事が――!!」


挿絵(By みてみん)


 流星達はその哀れな最後を黙って見つめている。 最強の魔力を欲した愚か者を、引きずり込む魔魅樹達の目はどことなく笑っているかの様にも見える。


 悍ましい音を響きかせながら魔魅樹は完全に沈み、そして最後にブラキオの両眼にあった魔法陣が空しく回転して――静かに闇の底へと沈んでいった。


 やがて静寂を取り戻した空間に、突如無数の魂が出現し自分の体を求め一斉に飛散し始める。その儚くも美しい光景に見とれながら流星はヒュージョンを解除した。猫型から元の人型に戻ったレオはブラキオに勝利した事等微塵も気に留めず、真っ先に屋上に向かって駆け出す――桃子の安否を確認する為に。 必死に階段を駆け上り鉄の扉を開け放った。


 レオの頭上に眩しい光が差し込み、優しい風が頬を撫でながら吹き抜ける。先程まで闇に覆われていた学校はブラキオの死と共に結界が解除され、すっかり元通りの光景が広がっている。レオは桃子が倒れていたであろう場所に目をやるが、そこに何故か桃子の体が無い。大丈夫だ、絶対に間に合った筈だ。高鳴る鼓動を抑え、レオは必死に桃子の姿を探す。何故自分が真っ先に駆け出し、桃子を探しているのか知る由も無い。だが、これだけははっきりしている。桃子は自分にとって大切な人だという事。右に左へと目まぐるしく視線を流していたその時――。


「……レオ」


 背後から何者かに……いや。この特徴のある声を俺が忘れる筈が無い。ゆっくりと踵を返しその姿を確かめる――目線は足元へ。ふむ。足はある、幽霊では無さそうだ……鍛え抜かれ引き締まった腰に……程良い胸の大きさは不満など無い。次第に視線が上へ上と移っていく。風に靡く艶のある黒髪がとても眩しい……意志が強そうな口元。そして……レオの視点と桃子の視点が自然と重なった。互いの瞳には相手の姿が映っている。


「……あ」


 奇妙な声を発したのはレオの方だった。何か違和感を覚えたからだ。俺は桃子という女を知っている。それは飛行艇中で見て知ったから。違う……そうじゃない、目の前で桃子が二つにずれ始め、突如片方の桃子が色んな仕草をし始めた。喜怒哀楽。様々な表情をして見せる。俺はこの場所で何度もその顔を……分かれた桃子がゆっくりと重なり始める。もう少し、もう少しで何かを思い出せそうなんだ。


 刹那、自分の懐に桃子飛び込んできた。


「良かった! レオが無事で本当に良かった!」


 目を見開きながら、自分の腰に腕を回し力強く抱き付く桃子にレオは、うお……うと、今度は動揺の声を漏らす。どうする? 俺はどうすりゃいいんだ? 俺も桃子を抱き返す? おいおい、そんな事俺が出来る訳ねえだろ。だが、だ。このままっていうのも何だ。恐る恐るレオの腕が桃子の腰へと回り込み始める。


「えっへん! おっほん! 見てるこっちがこっ恥ずかしいのでそこら辺で止めて頂けません?」


 先程から呆れ顔で二人の様子を伺っていた加奈が溜まらずわざとらしく咳き込んで見せる。途端に二人は「ひゃあっ!(うわあっ!)」と声を

重ねぱっと飛び退く。そこに遅れて流星とメリッサが姿を現す。レオに声を掛けるメリッサの声は何処か少し震えている様にも思える。もしかして先程の二人を見ていたのだろうか、レオに近づくメリッサの様子は何処かぎこちなささえも伺えた。


 再び集い合った四人は互いの無事を確認すると、緊張の糸が途切れて今まで蓄積していた疲労感がどっと押し寄せた。加奈は疲れた表情で爺やに報告しないとと、懐から携帯を取り出した時、メリッサが即座に詠唱を始めた。それが何魔法であるかレオは直ぐに理解する。桃子達に起こった事態は決してこの世に存在させてはならない。メリッサが長く紡いだ言葉は、やがて形となって校舎全体を覆い始めた。


 先程まで青空だった空が濁り、上空から一滴、また一滴と滴が落ち始める。次第にそれはザーという強いノイズを立て、雨となって降り注いだ。誰もが目にする自然現象の一つだが、そうでは無かった。屋内に入った加奈は電波を拾う場所で再び携帯を取り出し電話を掛ける。入力した番号は十蔵へ繋がる直通の番号だ。どうかなさいましたか? 加奈お嬢様と年齢を思わせる渋い十蔵の声が携帯から聞えて来る。加奈は少し興奮気味に声のトーンを上げて携帯に口を近付けた。


「爺や、良く聞きなさい。たった今私は――私は……」


 加奈がの言葉が急に詰まった。異変を感じた十蔵は心配そうな声で加奈に話し掛ける。お嬢様、大丈夫ですか? と。やがて我に返った加奈は不思議そうに首を傾げた。


「あら? 私今、十蔵に何を話そうとしたか、すっかり忘れてしまいましたわ。ま、忘れてしまう位ですから、そう大した用事で無い事は確かですわね」


 そして掛け間違いという事にして、加奈は十蔵との会話を終えてしまった。この現象は加奈に限った事では無い。この学校いる者達全てに及ぶ物だったのだ。あれほど泣き叫び逃げ惑っていた生徒達も雨が止むと同時に、一瞬不思議そうな顔を浮かべたが、何事もなかった様に帰り支度を始めだした。桃子もきょとんとした顔で目の前に居るレオを見ながら、不思議そうな顔を浮かべた後、ふと、自分の用事を思い出すと足早にレオの元から去っていってしまった。桃子の後ろ姿を目で追いながら、嫌な記憶は消えた方が良いのだ。とレオは自分に言い聞かせる。


「レオ様、良くわかったでしょう? これが現実なのです。この世界の人間達は先程の悍ましい出来事さえ簡単に忘れてしまう生き物なんです」


 突如背後からメリッサがポツリと呟いた。その意図はレオにとって桃子の事を思わせる口振りだ。ああ……そうだな。それはそれで別に問題は無い。というレオの返事を聞いたメリッサは先程呟いた言葉に隠された想いを繋げた。


「私は今までこの世界で関わった者達の記憶を全て消し去るべきと……考えます。れ、レオ様に向けられた桃子の想い等、所詮幻の様な物」


 メリッサの言うこの世界で関わった者達が、突如桃子に限定される。


「レオ様の許可さえ頂ければ……桃子からレオ様の記憶を完全に消し去る事も簡単に出来ます……が」


 その答えはレオの顔を見た瞬間に嫌と言う程、理解させられた。今まで自分に見せた事の無い表情をレオがしたのだ。明らかに困惑し、動揺するレオを見ながらメリッサは心の奥底から熱く煮え滾る嫉妬感を覚えた。


「レオ様……私達がこの世界に滞在出来る期間は残り僅かです。それまでに身の周りの『整理』をしておいてくださいね」


 冷たい口調で言い放ったメリッサは踵を返すとレオに見えない様に唇を噛み締めながら立ち去る。レオは次第に小さくなっていくメリッサの後ろ姿を見ながら、俺達はもうすぐ母国へ帰還するのか――心に引っ掛かるもやもやが晴れるまで桃子とは別れたくない。と、深いため息を吐いた。


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