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ハーレムは寝て待て  作者: 紗夢猫
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第四十六話 ブラキオとの戦い~前編

 レオ達がブラキオの両腕に装着された黒い籠手を呆然とみている中、ブラキオは此処にくる前、「寄り道」の様を頭に過らせていた。


「た、助けてください! な、何でもします! い、命だけは!」


 現世界の一角がブラキオの魔法によって「異次元」へと捻じ曲げられ、その「籠の中」に閉じ込められた者達は恐怖に身を震わせながら、必死に命乞いをしている。中にはその籠から到底脱出など不可能だというのに、何度も己の体を体当たりさせるという報われない努力を繰り返しながら、何とか脱出を試みようとしている者もいた。 ブラキオはそんな醜い後ろ姿を冷ややかに見つめている……そんな場面からブラキオの映像が動き始めた。


「糧如きがこのわしに命乞い等、何とも愚かしい事か……」


 ステージに立った指揮者がタクトを掲げる様に、ブラキオがゆっくりと片手を翳すと、逃げ場の無い者達の頭上に「死の宣告」を告げる様な魔法陣が現れた。


「ああ……っ!」


 言葉と悲鳴が混ざり合った様な声が重なり合い、やがてそれが捕えられた者達へ更に恐怖を生んだ。


「――魔魂葬天まぎそうてん


 ブラキオが感情を表に出さぬまま――只の糧としてしか見ていないので興味が無い。目の前の者達へ呟くと回転する魔法陣から禍々しい闇の手がぞぞぞ……という音をひきずりながら伸び始めた。 現れた闇の手には手先から伸びた腕の部分至るまで、獲物でも探しているのだろうか、黒い炎の様に怪しく揺らいだ闇が、波打つかの様に蠢いている。


 上空でうねうねと何かを探す動きを見せていた闇の手は、真下にいる者達の存在に気付くと半ば閉じていた掌を少しづつ開きながらその中心にある大きな「一つ眼」をゆっくりと開き始めた。


「あ……っが!」


 悍ましい眼に補足された一人が、恐怖の余り口が乾き過ぎて唾も通らないというのに、思わず喉を鳴らす。闇の手に口は付いていなかったが、黒い目の中心で縦に割れた黄色い瞳孔がミツケタ……そう嘲笑っているかの様に見えた。 その後の光景は一瞬で周りの者達に晒される事となる。闇の手は標的ターゲットを確認すると、再び瞼を閉じてその者を鷲掴みにしたまま魔法陣の中へと引きずり込み始めたのだ。


「あああ! 嫌だ! お、俺は、まだ、し、死にたくない! 死に――」


 その者は最後まで言葉を口にする事が叶わなかった。そこにもう先程まで狂った様に泣き叫んでいた姿は無い。存在しているのは無情に回転している魔法陣だけだ。


ブラキオはその様を憂いの表情を浮かべながら見つめると、下らぬ……と呟いた。今ここで捕えた者達は自分と対等な生き物では無く、只自分の魔力を増幅させる糧に過ぎない。背後に飛び交う断末魔の声を聞きながら、ブラキオは退屈そうに闇の手が全ての魂を回収するのを待っているだけであった。 だが、それが今――。


「おおう……なんと素晴らしい! ベルム王国最強と謳われたお前が、わしに見せる絶望感に満ち溢れたその顔おおお……!」


 ブラキオにはレオが一緒にいるメリッサ、そして神の拳を持つ流星と力を合わせこの自分が倒されるという考えを心の奥底に抱えていた。 それがたまたま近くにいた桃子を取り込んだだけでブラキオにとてつもない快感を与える程迄に、レオが見せた悲痛に歪む表情。 


 今まで孤独を孤高という文字にすり替え、長々と生きて来たブラキオには到底理解し難い内容だったが、「これが大切な者を奪われたくない」という感情の表れである事を初めて理解するとともに、ブラキオと対等、否、それ以上の魔力を持っていると思われる者共をその牙を奮わせる事も無く、屈服させらるという考えを巡らせる。


「レオよ……わしもお前等同等の力を得た。これ以上の争いは無意味じゃ。素直に降伏せい、さすれば先程飲み込んだ二人、否、ここに居た者達の全ての魂を返してやろう……ひっひっひ」


「な……何だと!? そ、そんな事が出来るのか?」


「可能じゃ。大魔法使いでもあるわしを侮るでない」


「取り込んだ何千人もの匂いと味をか!? か、考えられん……!」


 レオは半信半疑だったが、もしそれが可能なら……とういう考えが沸々と沸き始めていた。 この後のブラキオの話によれば、本来ならばそんな芸当は不可能だが、レオ達が接触したこの空間だけは唯一可能だと言う。 レオはブラキオに向かって更に問い出す。 すると魔力とは本来自然に住まう精霊達より生み出される物であり、ブラキオはそれぞれ精霊達から魔力を授かる際、殆どの精霊達の匂い、魔力の味を覚えていると自慢そうな顔をして答えた。 よってレオ達が持っている魔力もそれに順じており、長い間この空間に滞在していた事でその判別が可能となった――魔法を放った者の魔力――残り香が空間に居た者達の魂にべとべと纏わりつく……と。


「精霊達の匂いと味なんて……これまで一度も考えた事もねえ」


「ふん。 所詮お前等はその程度。 何も考えずただ吸収した魔力を使うだけ。 美食家のわしとは雲泥の差じゃ」


「まぁ、この空間でお前達が魔法を使っている事が大前提だったのじゃが、ここに来た時から染みこむ位、お前の匂いが充満しておったからのう。 ひっひっひ」


「ほっとけ!」


「……さてと、お前さん達が降伏をするにあたっての条件じゃが」


 レオ達の降伏を前提にブラキオは何やら考え事をする仕草を見せていたが、結論が出たのだろう、レオ達を愉快そうに見つめると、ゆっくり口を開いた。


「そうじゃのう。 レオ、お前の命と……その後ろに立っているメリッサ姫、 それに天野川流星の命。 その全てをわしの前に差し出せ」


「――なっ!?」


「はて? レオ、わしの声が聞こえなかったのか? 二度も同じ事を言わすでない」


「ちょっと待て……ちょっと待てっ! この俺の命はくれてやる! だが、姫様と流星の命はどうにか助けてやってくれ! 頼む!」


 命の秤に姫様と流星を乗せる訳にはいけない。 俺一人で十分。 上手くこの場を凌げば、ここで俺がくたばったとしても、直ぐに俺の後に続く猛者達がブラキオを倒す筈。 それに姫様には立派なベルム王国の王女となって貰わねば困るし、ましてや感情を取り戻した流星の人生はこれからだ。 その考えからレオはブラキオに願い出る。


「そ、そんな! 駄目ですレオ様! ブラキオ! 私の命と引き換えにどうかレオ様と流星は助けてあげてください!」


 直ぐにメリッサがレオの申し出を却下し、二人の命と引き換えに代わりに自らの命を差し出す事を申し出る。 普段気丈で強気なメリッサだが、レオの命が目の前で消える事を思うと、今にも発狂しそうになった。 その感情は涙の滴と変わり、メリッサの頬を伝う様に零れ落ちていく。 レオを必死に庇おうとするそんなメリッサの姿を無言で見ている流星は何を思っているのだろう、ブラキオの結界魔法により薄暗くなった空間は、その表情を読み取る事が出来なかった。


「先程から何を戯言ばかり言っているのじゃ? レオ、お前如き一人の命でこのわしの積年の恨みの重さと釣り合うと思うたか?」


「足りぬ! 足りぬのじゃ! お前等の命を以てしても、このわしの恨みの重さには到底足元にも及ばぬ!」


 ブラキオの口から漏れた憎悪の塊は、古の恨み辛みを物語っているようだった。 当然そのような譲歩等を容認する筈も無い。 このままブラキオと戦えば、弾として撃鉄の前に晒された桃子が、その引き金が引かれた瞬間、銃声――レオにとっては桃子の悲鳴。と同時に消えて無くなってしまう。そんな無残な光景が一瞬レオの脳裏に浮かぶ。


 そして今度は悲痛の叫びを上げたメリッサが、ブラキオの放った魔法で肢体が大量の血をまき散らしながら吹き飛び、その後を追う様に悪魔の拳で首を掴まれ掲げられた流星が、骨の砕ける音と共に首を圧し折られる姿が浮かんだ。


 打つ手無し。 回避不能。 絶体絶命。 完全敗北。レオの闘争心を根こそぎ奪う文字が浮かんでは消え、浮かんでは消える。


「どうした? さっきからずっと沈黙を守りおって。 さぁ、早く結論を出すのじゃ! お前の大切な者を助けたいのじゃろう? と、言ってもメリッサ姫は無理じゃがのう! ひっひっつひいいい!」


 答えることなど出来ない。選択する事等出来ないのだ。 ブラキオは己の勝利を確信していた。 心中でもがき苦しみ泣き叫ぶレオをナイフで切り開き覗き見る――最高の快感を味わう為に。 万が一、レオが桃子を選択し二人の命を道連れにして自害を決意した場合、レオを拘束した後、流星の神の手を取り上げて、弄り殺しにする。 


 次にメリッサを血祭りにして惨殺する。 待て待て。どうせ殺すのだからメリッサ姫の肉付きの良い体を弄ぶのも一興か。……最後だが約束通り桃子の魂を取り出してやる。 だがそこからレオの目の前に晒した後、最高の笑みを見せながら悪魔の拳で握りつぶしてやる。 その時の狂気に歪んだレオの顔を見るのが楽しみだ。 ……早く口を開けレオ。 さぁ、早く! ……息を荒くし、興奮しながらブラキオは両眼――魔方陣を回転させる。


「う……、が、お、俺は、俺はどうすりゃいいんだ!?」


 絞り出す様にレオが言葉を発した刹那、カラカラ……と何か小さな物が回転しながら廊下を滑っていったのが目に止まった。 それは流星が日頃所持していた小型のタブレットだった。 音がした瞬間、思わず動揺し、一瞬視線を流したブラキオだったが、転がった物に攻撃性が無いと判断すると、くそ、脅かせおって……と、視線を元に戻す。 


 そして再び哀れなレオの姿を拝もうとした時だった、突如視界が揺らいだかと思うと、腹部に強烈な痛みが走り抜けた。


「が――は!?」


 理解出来ない。 だが、何故か自分の体が宙を舞っている。 何だ!? 何が起きた!? 答えを考える余裕も無いまま、すぐに衝撃と激痛が襲った。 


 ブラキオだけではない、レオもまたその状況を受け入れる事が出来なかった。 いきなり流星のタブレットが床を転がったかと思うと自分の横を勢いよく飛び出した流星が、魔力を込めた右拳をブラキオの懐に思いっきり打ち込んでいたからだ。


「ば、馬鹿な……!? 攻撃じゃと!? こ、こんな愚かな選択をする奴がいる筈が…… ごふっ! ごふっ!」


「立て……ブラキオ」


挿絵(By みてみん)


 無表情でブラキオを見下ろす流星。 だが、今の表情は以前の物とは全く異なる。 それを一番痛感させられたのはブラキオであった。 数ある種族の中で人間が一番弱小な生き物であると認識している。 その筈なのに。 戦況はどうみても自分の方に分があるというのに。 それなのにこの者は自分をまるで雑魚を見るかの様に見下している。


「くそ、こ、この様な事……認めぬ!」


 立ち上がろうとするが足に力が入らない。 その答えは頭部にある獣耳がだらしなく垂れている事で示されていた。


「な!? わしが……このわしがこの者を、たがが人間風情の天野川流星を……恐れているというのかあっ!?」

 

「うううっ……り、流星! お、お前は今、わしに何をしたのか分かっておるのか!? お前達の命は今、わしが握って――」


 まだ言い終わらない内にまるでサッカーボールを蹴り上げる様にブラキオを蹴り飛す。 流星の顔は無表情であるが故、ブラキオには流星が今何を考えているのかが全く読めない。 


 攻撃も防御もままならぬまま脇腹を蹴り飛ばされたブラキオは、苦痛の表情を浮かべ、思い描いていた展開が撃ち砕かれてれいく恐怖を感じた。


 馬鹿な!? 兵のレオでさえ心を折って、わしに首を差し出そうとしたんじゃ! それが何で異世界に住む、それも只の人間如きの流星が抗う? 分からぬ、理解出来ぬ! お前と同等の力を持つ悪魔の拳の力を持つわしに、いままさに消えていかんとする命をこのわしが握っているといのに!!。


「こっ、このわしを舐めるな! 小童があっ!」


 連続攻撃を仕掛ける流星の拳を今度は悪魔の拳で完全に防御する。 互いの拳がぶつかり合い、その間から赤と黒の魔力が火花となって激しく散った。 それでも流星は拳を振り下ろすのを止めない。 攻撃は全て躱している。 その筈なのにブラキオの恐怖心は徐々に膨れ上がる。 その感情から逃れる様に、流星が劣勢な立場である事を理解させようと必死に話し掛ける。


「み、見ろ! お前の攻撃はわしには通用せぬ! 通用せんのじゃ!

わしは全ての世界に存在する魔力の匂いと味を知っておる! 直ぐにそれに見合う力でお前が繰り出す攻撃を打ち消す事が出来るのじゃ!」


「そ、それよりもいいのか、流星? 取り込んだお前の大事な仲間の匂いがどんどん強くなってきているぞ!? お、お前がわしに攻撃をすればする程、仲間の命が近付く! よ、良く考えるのじゃ!」


 傍から見ればブラキオが無様に流星へ命乞いをしているかの様にも見える。 ブラキオの方が条件的にも優位な立場にいたとしてもだ。 悲鳴にも似た言葉がやっと流星に届いたのか、突如振り下ろしていた拳がピタリと止まる。 それを降参の意として受け取ったブラキオは、感情を表面に出さない様に、安堵の溜息を漏らした。だが動きを止めた流星は踵を返すとレオの方を向いて、ゆっくりと口を開いた。


「……ヒュージョンだ」


 その瞬間、レオの心に眩い光が差し込んだ。 既にレオの足は流星に向かって走り出し、光に包まれたレオの姿は人型から猫型へと変化する。床から跳ねる様に高く飛躍したレオはちょこんと流星の肩に乗った。


「『ヒュージョン!!』」


 その刹那、床に転がっていたタブレットの液晶画面が明るくなると、大音量でトライダーの主題歌が流れ始めた。 流星がこのタイミングを狙ったいたのかどうかは不明であるが、クロノスを苦しめた――実際は魔喰の中にいたブラキオ。 表情が一瞬にして険しくなり、耳を塞ぎながらながらよろよろと後退する。


「この音を止めてくれ! っひ、頭が割れそうじゃあっ!」


 耳を押さえながら手を伸ばし、タブレットから流れる不協和音を何とか止めようとするが到底無理な事だった。 直ぐ目の前に原因の元は転がっているというのに、半径二メートルまで近付くと、ブラキオの体、というよりも魂の方が消滅してしまいそうな危機感を本能で感じていたからだ。 

 

 不浄な魂はお経により浄化され天に召される。 トライダーの主題歌は魔族であるブラキオにとってのレクイエムを意味する。 故にその音に耳を傾けるとたちまち死後の世界へ――ブラキオの場合は地獄へ直行するかと思われる。 いざなわれてしまうのだ。


「く、くそ! こいつは堪らん! 一度撤退じゃ!」


 耐えられなくなったブラキオはタブレットから大きく距離を取った。 苦痛からなんとか逃れ、片目を開けたブラキオの前に人なのだろうか、その顔は面妖な被り物で確認する事は出来ない。 その体には鎧にも似た漆黒の防具を装備し、背中には悪魔の羽……では無い、何処からか風が入り込んでいるのだろう、赤いマントが力強く靡いている。 


 その者が両腕に装備しているのは、見間違える筈も無い神の拳だ。 ブラキオはこの姿をした者をはっきりと覚えていた。 魔喰を取り込んだクロノスを凌駕し、圧倒的な魔力で魔喰を破壊した者であるという事を。


 突如目の前に姿を現したトライダーを見たブラキオは、忌々しそうに眉を歪めた。


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