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ハーレムは寝て待て  作者: 紗夢猫
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第四十二話 クロノスの再来

――学校の校門では、気の知り合った者同士が気軽に朝の挨拶を交わしている。そんなありふれた光景だが、今日は少し違った。


 つい先程校内に入って来た人物に周りの者達は思わず挨拶をするのも忘れ(主に女生徒)、好奇心一杯の視線を一斉に注ぎ始める。


「ねぇ……うちの学校にあんな格好良い人いたっけ?」


 女子生徒の一人が顔を赤らめ、溜息交じりに言葉を漏らした。


「それより、その横に並んで一緒に歩いてる人ってさ、もしかして天野川君なんじゃない?」


 もう一人の女生徒が「もしかして」と言ったのは仕方が無い事。以前とは違い、前髪を全面的に上げた流星の容姿は魔法で若返っているレオに決して劣る物では無い。更に普段無口な流星が、レオと対等に感情を表に出して会話を交わしている姿はその女生徒達にとってそれはとても新鮮な物に見えたのだ。


「レオ、本当に大丈夫なのか? 先程からやたら僕達、注目の的になってる気がするんだけど」


「ああ? そりゃ、気のせいだろ?」


「……そうなのかな?」


 気のせいなどではない。流星が感じている通り、女生徒の中には既に携帯を取り出し、そのレンズを流星達に向けている者も何人か出てきている。黄色い声の間を抜ける様に通り抜けなんとか自分の教室の前へと辿くと、教室内で燥ぐ生徒達を叱る担任の怒鳴り声が聞こえてきた。


「先生がもう教室に来てるみたいだけど、まずいんじゃないか?」


「お前は見た目そこそこなのに、どうも心配性過ぎるな。まぁ、見てろって」

 

 流星の心配をよそに扉の取っ手に手を掛け、勢いよく扉を開け放った。瞬時にレオを視界に捉えクラスの担任――藤沢純一郎(40歳)は訝しそうな表情を見せたが、次第に目が虚ろになり始めると、「お……お? やっと来たか。おーい、お前達、さっさと席に着きなさい」と生徒達を席に促し始めた。


 担任の様子が変わった事に気付いた流星は、不安を抱きながらも自分の席に座った。


「では――」


――おや? この生徒は何者だ?


 ぼんやりとレオを見た純一郎は、その思考を朝へと遡らせた。


――確か、朝の職員会議中に突如メリッサ君が現れて……その後は……。


「そうそう、朝早く校長に呼ばれて、言われていたのをすっかり忘れていた!」


「では、今から転入生を紹介するぞ。はるばる――から――やって来たランフォリン・レオ君だ」


 よく聞き取れなかった部分は恐らくレオが適当な事を純一郎に言わせているのだろう。周り者も特に気を留める事も無く、それよりもレオの整った顔立ちを見るのに夢中らしく(特に女生徒が)心此処にあらずといった感じでレオを見つめている。


 教壇の前に立ったレオが、適当な言葉を並べながらだるそうに自己紹介をし始めたその時、周りのざわめきを切り裂く様に椅子が横転した音が鳴り響いたと思うと、レオの懐を目掛けまっしぐらにメリッサがダイブした。


「レオ様っ! お待ちしておりましたあっ!」


「うおおっ!? 姫さ――」


 刹那、上目遣いで「違います」というメリッサの仕草に気付いたレオは慌てて「メリッサ」と言い直した。


 純一郎がメリッサの大胆な行動に呆気に晒されたと同時に男子生徒共の発狂した声が上がった。


「くそっ! またかっ! またなのかああっ!?」


 その羨ましい様を見せられた一人の男子生徒が椅子から崩れ落ちて膝を折ると、右手をばんばん床に叩きつけた。


「何故だあっ!? 何故このクラスには流星といい、我々の脅威となる上級ランクのイケメーンが沸々と沸いてくるのだあっ!?」


 別の男が泪を流しながら、両手を広げて天を仰ぐ。


「おお神よ! 全ての女子は全ての男子に平等に分け与えられるものではないのですかっ! 何故我々ににこの様な辛い試練をお与えになるのですかっ!?」


 等と意味不明な事を言い出す者も出始める始末。教室がパニック状態に陥った中(特に男子生徒)、レオは複雑な表情をしながら自分の方をじっと見つめている桃子に気付く。


 今のレオには桃子と共有した時間は零であり、またその記憶も完全に消えてしまっている。それでもレオは本能的に何かを感じ取っていた。


――……あの女、先程から俺に何か言いたそうにずっとこっちを見て睨んでやがる。 そういや確か飛行艇に居たな。 女の名前は確か桃子とか言ったか――。


「れ、レオ様! 自己紹介はこの位にしてそろそろ席に付きましょう!」


 嫌な予感がしたのだろう、メリッサは首を傾げ始めたレオの思考を断ち切るかの様に腕を引っ張ると、自ら自分の隣の席へと誘導し始める。


「え? 此処、俺の席なんだけど――っ!?」


 刹那、男子生徒の両手を握り締めたメリッサはにっこりと微笑みながら「貴方の席はあそこですよね?」と後方の空いた席を指差す。


「そ、そういやそんな気もしてきたような、しないような……」


「もう、嫌ですね。ほら、ちゃんと思い出してください」


 更にメリッサが男子生徒の手を強く握り締めると、加えた力の分程、男子生徒の表情が緩んだ。


「い、いやーっ! 俺、座る席を間違えてた! ごめんごめん! すぐに移動するから!」


 男子生徒はだらしない表情を浮かべながら、嬉しそうに後方の席へと移動する。


「お待たせしましたレオ様、どうぞお座りください」


「お、おう。すまねえな」


 騒動が一段落着いた所で、担任が授業を開始する。


「でだ、ここがこうなるという事は結果どうなる? ――天野川、答えられるか? っ――!」


――し、しまった! 天野川の雰囲気がガラリと変わっていた物だから、何時もは避ける所をついピンポイントで当ててしまった!。


 刹那、「はい――」と、椅子から立ち上がった流星はしっかりとした口調で回答をし始めた。そして流星が全て答え終わった時教室の中の空気の流れが一瞬停止した後に「おおおー」と周りから驚きの声が上がった。


「あ、あ、天野川……せ、正解だ……というか、本当にお前、あの天野川流星なのか?」


「え? そ、そうですけど、僕の態度、何処かおかしかったですか?」


「い、いや、これまで見た事も無いような素晴らしい回答だが……そんな事より――ああっ!?」


 純一郎は漏らした声を両手で必死に押さえる。勢い余って握っていたチョークを思わず口に突っ込んでしまったが、それどころでは無い。何故なら純一郎は今まであれ程鉄壁だった魔のトライアングルの陣形が見事に崩れている事に気付いてしまったからだ。


――馬鹿な!? 何故メリッサ君は天野川の方を見ずにレオ君の方に熱い眼差しを向けている!? 更にだ、後方の加奈君だが何故か一線を引いて二人を観察している様に見えてならない。そして最後に右側の桃子君だが、無表情にして夥しい程の……怒りと悲しみを全身から感じてしまうのだが!?。


 緊張の余りふらついた純一郎は握っていたチョークを手放してしまい、床に落下したチョークは、一度だけ跳ね上がり、乾いた音を立てながら転がった。口に着いたチョークを拭いつつ、純一郎は今この時間、自分がとてつもない場面に立たせている事を改めて痛感した。


「くっ、こいつはとんだビックウエイブがいきなり訪れやがったもんだぜ! 果たして俺はこの時間の波を上手く乗りこなす事が出来るのか!? 否あっ! 憶するな、純一郎! 何といっても俺はこのクラスの担任なのだからなあっ!」


「やってやる! やってやるぜええ! いくぜ、お前達いいっ! 俺に付いて来いYEEEA!」


 テンションが一気に上がった純一郎は無事に授業を済ませ、頭から湯気を立ち昇らせながら「同士達に……同士達に報告せねば」と教室を出て行った。









「納得いきませんわね!」


 ――昼休憩。四人を屋上に呼び出した加奈が、怪訝そうな顔をして睨みつけている。


「あら? 加奈、納得行かないと仰られても、これが今の現実なのです。ここは素直に御認めになるべきでは?」


「姫様、さっきから俺に引っ付き過ぎだ。これじゃあ任務に支障が出かねるからちいとばかり離れてくれねえか」


「いえいえ、ご心配なくレオ様。私は全然気にしませんから」


「いや、姫様が良くても俺が困るんだってえの」


 レオの腕を絡み付けたまま、メリッサが意地悪そう眉を歪め、その様を見せられた桃子は思わず視線を反らす。桃子の心中を察していた加奈は余計にも苛立った。


「全く……貴方方の文明はどれ程優れているかと思いましたが、まさか桃子との大事な記憶を欠落させてしまうようなお粗末なものでしたとわねえ」


「桃子……そこにいる女との大事な記憶だと……? そりゃあ一体どういう事なんだ? 今回の俺の行動記録には流星を元に戻す事以外何も記されていなかったが?」


 魔法陣からノートらしきものを取り出したレオは右手でぱんぱんと叩いた。


「おや? ……そうなのですか。ちょっとそれを私に見せて下さらない事?」


 加奈がノートを開いた刹那メリッサが気まずい表情を見せた。


「……何が記されているか全く読めませんわ。申訳ないのですがレオ、これちゃんと読める様にして貰えます?」


「おう」


 レオに翻訳して貰った後に加奈が再びノートに目を通す。此処には桃子と関わった事全てが抹消されている。明らかに何者かに改竄されていた。加奈はこれに該当する人物の名を口に出した。


「メリッサ……貴方って意外と子供でしたのね」


「――っ!?」


「まさか、此処まで徹底して桃子の隠滅を謀るなんてねえ。まぁ、私は元に戻った流星は容姿についてはは合格圏内としても肝心の性格が頼り無さ過ぎてダメダメですわね」


「……あうう」


「そしてレオ。貴方は以前流星の姿をして、一度私を救って頂いた事がありますわね。本来の容姿も、その男気も私が囲っている精鋭達の群を抜く程に素晴らしいですわ。ですけど、私――」


「――『両想い』のレオと桃子の仲を引き裂く程、無粋な女ではありませんから」


「お、俺と桃子が両想いだと!? い、意味が分からねえ!」


「そうですよ加奈! 勝手な事を言ってレオ様を混乱させないでください!」

 

 既に追い込みモードに入った加奈の瞳は冷ややかにレオを捉えた。


「レオ、貴方分かってらっしゃいますの? 貴方が今まで桃子にしてきた数々を」


「ごくり。俺が……桃子に一体何をしたってんだ」


「止めろよ加奈! 急に何を訳分からない事を言い出すんだよ!」


 慌てて桃子が飛び出して加奈の言葉を遮ろうとするも、ひらりと交した加奈は言葉を重ねる。


「……何ってそれは男と女が絡めば行きつく所は只一つ、ですわ」


「馬鹿加奈! や、やめろってばあっ!」


 刹那、レオは自分の頭が石の金槌(十t)に打ち付けられた感覚を覚えた。


「こ、この俺が桃子をお嫁に行けない体だにしちまっただと!?」


「レオ様! 騙されてはなりませんよ! 加奈が言っている事は全部口から出まかせなのですから!」


 レオは呆然としながら桃子の方を見つめると、その真意を確かめる。


「おい、と、桃子……お、俺は本当に、その……何と言うかだな」


 はっきりと問うことも出来ず、しどろもどろでいると桃子は顔を赤らめたままぷいっと視線を反らしてしまった。その答えを「真」と受け取ったレオは先程の金槌が二、三個立て続けに打ち付けられる感覚に捉われた。


「お、俺はそんな大事な事を忘れちまったのか……!?」


「いいですかレオ! 男ならちゃんとけじめを取りなさいな! おーっほっほ!」


「ううう、れ、レオ様! その女の言う事に耳を傾けては駄目です――」


 その時だった、先程まで穏やかな風と少し温もりのある日差が差し込んでいた屋上が突如闇に覆われた。否、屋上だけでは無い。校舎全体が闇に覆われたのだ。


「こ、これは高度な次元移送魔法じゃねえか!? 一体どこのどいつがこんな事を!?」


「加奈さん! 桃子さん! その姿――!?」


 流星が驚くのも無理は無い。桃子と加奈の肉体は床に倒れ込んでいたからだ。ただ、魔力が強い者達には影響が及んでおらず、メリッサ、レオ、流星の三人だけは何ともなっていなかった。


「まぁ、これはとても身が軽くなりました事」


 呑気そうに加奈が掌をひらひらさせる。


「レオ様! これは何者かが校舎全体を覆い、瞬時に夢空間を創り出したとしか考えられません!」


「こんな事ってあるのかよ! クロノスの野郎は確かにくたばった筈だぜ!?」


「レオ! クラスの皆が心配だよ。一旦教室に戻ろう!」


「ああ、そうだな。此処に居ても何も解決しねえ!」


 急いで教室へと向かう。その際廊下に転々と横たわる生徒達と慣れない姿にパニック状態へ陥いってしまっている者達が居た。


「な、何だよ、これ!? 俺、死んじゃったの?」


「わ、私の体が……私の体が足元に……いやあああっ!」


 刹那、レオ達は悍ましい魔力を感じ取った。すぐさまその方向に目をやると、レオの視界に信じられない光景が飛び込んで来た。


「クロノスっ!?」


 レオ達が倒した筈のクロノスが何故か目の前にゆらりと立っているではないか。クロノスは生霊の生徒達を両手で掴み高々と掲げると不敵に笑い始めた。


「ひっひっひい……やはり魔力の回復には若い生霊が何よりじゃて」


「な、何をする!? 止めろ! 放し――」


 じゅるるるる、とクロノスは捕まえていた生徒の一人を飲み込んでしまった。


「おお、美味じゃ。感じる、感じるぞ、生霊の養分がこの体に満ちていくのを。


「て、てめえ! 何てことしやがる!!」


 レオ達が反撃に出ようとした刹那、足が鉛玉を科せられた様にビクとも動かなくなった。


「小童……足掻くだけ無駄じゃ、お前達は何も出来ず、指を咥えてそこでわしの魔力が回復するのを見ておく事じゃな、ひっひっひい」


 そして、捕まえていたもう一人の生徒の悲鳴を上げさせる事も無く、瞬時に飲み込んでしまった。


「おおう……美味、美味じゃ。力が漲ってくるわい」


「……クロノスを器替わりにしているてめえ、一体何者だ!?」


「わしか? わしはなぁ、死したこの愚か者と、お前さんによって長き封印から解かれた古の大魔法使い、ブラキオという者じゃて、ひっひっひい」


「な、何だと!? じゃあ、お前はあの魔喰の中に閉じ込めれていたとでもいうのかよ!」


「――如何にも」


「にしてもだ、その時代遅れの大魔法使い様が今更のこのこと現れて一体何をやろうとしてやがる?」


 レオの言葉の後、ブラキオの顔が苦痛に歪むと、怒りを露わにして言い放った。


「知れたこと……わしの願いは唯一つ。お前さん達ベルム王国の壊滅じゃて、ひっひっひい」


「壊滅だあ!? ふざけた事を抜かすな! そんな事は絶対にさせねえ!」


「まぁ……この身でベルム王国へ出向き、先に壊滅させてもよかったのじゃが……丁度良い事に邪魔者が三人程、此処におったからのう、ちょいと寄り道をしたまでよ」


「ご機嫌麗しゅう、ベルム王国第一王女ディモル・メリッサ姫。貴方の事は魔喰の中から常に拝見させて頂いておりました――」


「――っ!?」


「そして、人間の身でありながら異世界の者を凌駕する程の魔力の持ち主。天野川流星。クロノスが器に欲しがったのは無理の無い事よ」


「…………」


「最後にベルム王国第一魔空戦機隊長、ランフォリン・レオ。この三人の屍を手土産に王の元へ出向くとしようぞ、ひっひっひい!」


「――ちいっ!」


 ブラキオという者が只ならぬ魔力の持ち主である事をレオは本能で感じ取り、現に自身の足が今だ微動だにしていない歯がゆさに激しく苛立っていた。一時の平和から突如訪れた最大のピンチ。ブラキオの呪縛から何とか抜け出そうと必死に足掻き続けるレオであった。


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