第四十一話 地獄の始まり
――ゆっくりと瞼を開いた先に眩い光が差し込み、ぼんやりと模っているものが次第にがはっきりと見えてくる。 あれは……そう、僕の机、そして僕の椅子……最後に僕自身を包み込んでくれているこの暖かい物は、間違いない、僕の布団だ。
「……帰ってきたんだ」
今まで止まっていた時間を取り戻すかの様に、流星は自身の温もりを感じ取り、顔をほころばせながらこれまでの記憶を蘇らせる。
まさかこんな日がくるとは……こんなにも周りの視界が眩しく、希望に満ち溢れているなんて……成程、これが感情――嬉しいという気持か。
感極まっていた刹那、すぐ近くで猛獣が唸っている様な音に気付く。 その方向に目を向けると、大柄な男が、背丈にも合わない布団から耳と尻尾を出し、高鼾を上げている。 流星はすぐにこの男が自分を救ってくれたレオ本人である事を理解すると同時に昨晩の事を思い返す。
互いに魔力を極限まで消耗し、肉体的にも、精神的にも疲れていたため、感動の対面は一旦お預けにして、部屋に入るなり、そのまま倒れこんだ……と、いう所までは覚えているのだが、そこから後の事は全く覚えていない。 恐らく本能的に布団を求め、泥の様に眠ってしまったのだろう。
改めて容姿を確認する。 流星が想像に描いていたような意志の固さ――石頭を示す太い眉毛、 獲物を簡単に金縛りにしてしまいそうなキレのある瞳(今は閉じているが)。 そして決して弱音を吐きそうにもない――不機嫌そうな口元。 もっと良い表現もあるだろうが、この時のレオは何か嫌な夢でも見ているのだろう、時折への字に口元を歪めている。
「この人が……レオ……流石貫禄のある渋い顔……ではないな。 どちらかといえば童顔で僕らと同い年に見えない事もない」
『ぐぉおおおお……!』
「そしてこのレオこそが、僕をこの世界に再び戻し、救ってくれた恩人だ」
『ぐおおおおおおおおお!』
「……例え今、目を反らしたくなるような阿保顔で豪快な鼾をかいていてもだ」
『ぐがあああああああああああっ!』
「阿保顔…………」
『ごああああああああ!』
「ていいいっ!」
今日まで何事も無かったかの様に、爆睡しているレオを見た流星は、何となくだが急に魔が差してその恩人に対し、鼻を摘まむという行為に及ぶ。
「ごっ!? ごがががが!?」
暫くしてレオの両耳と尻尾がぴくぴくと動き始める。 やがてその動作は次第に大きくなって「むっがあああ!」等と悲鳴を上げながら、豪快に起き上がるも、その反動で見事な一回転を流星の前で披露した後、壁際に頭を打ち付けてしまった。
「――痛いいっ!? な、何だ何だ!? 敵襲かっ!?」
「レオ! 急に立ったら危な――!」
時すでに遅し。 今度は天井からぶら下がっている蛍光灯の傘の角に思いっきり頭を打ち付けた。 幸い蛍光灯は割れなかったようで、傘だけが斜めに大きく外れただけであった。
「れ、レオ、大丈夫!?」
涙目で頭を摩りながら「ふん、何ともねえよ」と、答えるレオ。
「ぷっ、レオって確か隊長……だった筈。 それにしても見事に隙だらけだね。 もしも昨日誰かに襲われたりでもしたら、簡単にやられていたかもよ?」
「煩え。 流星に言われなくとも昨晩倒れ込む寸前に結界魔法を仕掛けておいたつーの、俺を見くびるんじゃねえよ」
「――結界魔法?」
「ああ……ある程度の魔力の高い奴――敵に限るが、万が一この部屋に侵入してきた場合こんがりいい感じになる奴だ」
「う……御免レオ。 さっき言った事は白紙に戻すよ。 あ、そう言えば、昨日は何で飛行艇で寝なかったの? 僕と一緒に帰ると言い出した時は少し驚いたよ」
「ん? ああ、それはだ――」
レオは此処に来た理由ついて答え始めた。 何でも元に戻った流星に異変が起きないか、傍で暫く監視をする必要がある事、また邪魔者を追い出したメリッサが、何時寝こみを襲ってくるか警戒した、という事らしい。
「ってな訳で、暫く厄介になるぜ、流星」
「うん、それは構わないけどさ、どうして僕がクロノスに捕まっていた事がレオに分かったの?」
「んー……そいつはなあ」
顎に手に当て、少し悩み顔を見せたレオだったが、「まぁ、いいか」と呟くと、「ちょっと左手を出せ」と、流星に促す。 言われた通りに流星が左手を差し出すと、レオは詠唱を始めると同時に右手を左手の上に翳した。
「今度はこっちの番だ。流星、俺は何で向こうの世界でお前が感情――魔力を失った事に気付いたと思う?」
と、質問を投げ返してきた。
「……ごめん、分からないよ」
「それはな……俺が流星と初めてあの場所で出会った時点で、俺はお前の『管理者』になっていたからだ」
「――管理者?」
ゆっくりとレオの右手が離れると、流星の手の甲に何やら記号の様な文字が浮かび上がっている。
「レ、レオ、何だい、この変な記号は?」
「――それはな、俺がお前に付けた管理コードだ」
「か、管理コード?」
「ああ。流星、お前、子供の頃俺と別れる時、熱い握手を交わしたな。その時にそいつを俺が付たんだよ」
そこからレオが「これは国家機密なんだが、今回の件、長い年月もの間、ずっとお前を助けられなかったのは俺の責任だから――」と、管理コードについて語り始めた。このコードは、別世界で自分らと同等の魔力を持つ者に対し、親密な仲となり、いざという時に魔力を供給して貰う為に付ける物であるという事、また付けた者に異常があった場合、管理者側――レオにその情報が伝わる仕組みである事を説明する。
「まぁ、別世界で得られる魔力は希少だからな。でだ、流星、お前の桁外れな魔力は特に別格で、一人で千人以上に値する、とんでもねえ魔力の魔持ち主で、当然俺は喜んでお前をマークした」
ここで流星は何だか海を泳ぐ海豚に、タグを付けて放流するイメージが頭に浮かんで、思わず苦笑いをしてしまう。レオは流星の甲に浮かんだ管理コードを元に戻しながら言葉を重ねた。
「その後、直ぐにお前と接触するつもりだったんだが、お前の異常を検知したその時、俺は敵との交戦中で一歩も動けない状態でな」
「で、ようやく帰還した俺はクロノスを同行させ、直ぐにお前の世界に向かったが、まさかそこで飼い犬に噛まれて『いた』とは、夢にも思わなかったぜ」
「『いた』ってレオ、僕を助けた事は覚えてないのか?」
「ん? ああ、非常に不本意だが、部下の報告書によると、この俺はクロノスに記憶操作された挙句、本体を別の物に移し替えされちまったようだからな。 自分の体で行動していない部分はきれいさっぱり覚えてねえよ」
「覚えてないって……これは?」
初めてレオ――タブと出会った小型のタブレットを流星はレオの目の前に差し出した。
「何だ? このちっちゃい箱の様な物は?」
「残念……覚えてないんだね。じゃあこれは?」
今度はレオが器にしていたぷく丸君の縫いぐるみを差し出す。
「おお、これか! 報告書にもあった俺が別の器として使ってたやつ――っていうか、クロノスの阿保が俺の体を奪ってそいつに移し替えやがったやつかだな!」
「そうか、その情報も報告書からなんだね。 本当に残念だよ。 クロノスとの闘いの最後は、レオとの共同作業で倒したのに……トライダーになってさ」
「トライダー? ああ、確かお前が一番気に入っていたヒーローの名前だったな! お、そうだ! 今、思い出したぜ!」
「ぽん」と、手を鳴らしたレオは再び詠唱を始め、出現させた魔法陣の中に手を突っ込むと掌サイズのトライダー人形を取り出した。
「これだ、ガキの頃のお前を手懐けようと、プレゼント用に俺が用意した物だったが、あの事件が起きてからずっと渡しそびれちまってな、ほら、やるよ!」
「わーい、ありがとう! ……って、そういう事じゃなくて! レオ、本当に何も覚えてないの!? その、紗月桃子さんの事とか!?」
流星は再度桃子の名前を口に出すが、レオは淡々と「桃子? ああ……あの女の事か。そいつは報告書の中に何も記されてなかったが、昨晩飛行艇の中に居たって事は、今回の件で何か特別な人物だったというのか? だが、報告書には――」と、事務口調で、興味無さそうに軽く流してしまった。
「……何か僕、凄く納得いかないんだけど、レオは本当にそれで良いの?」
「良いも悪いも、過程はどうであろうが、今この時点で、元に戻ったお前が俺の目の前に居る。流星、お前の方こそ一体何が不満なんだ?」
「だってレオは桃子さんの事がす、す――だったじゃないか」
肝心な部分を濁す。それを伝えたからと言って、それはきっと今のレオの耳には届かないと思ったからだった。 流星は大きな溜息を吐きながら、机の上にある籠手を手に取ると「これは返すよ」と言ってレオに手渡した。
「おう! やっと自分の所に戻ってきたか!」
懐かしむ様にして、籠手を装着しようとするレオ。 だが、籠手はそれを拒否するかの様に魔力の電撃を飛ばし装着を拒む。
自分の手に息を吹きかけながらそまま籠手を流星に手渡す。 今度は流星が装着を試みると、何の問題も無く、籠手が装着される。 再び外し「はい」と、レオに手渡す。 レオが「おらあっ!」と勢いを付けて装着しようとするも――電撃&悲鳴と、同じ結果になってしまった。
「――ってえな畜生! 流星、そいつはどうやら、自分の主をお前だと判断しているみたいだぜ?」
「え? ぼ、僕!? な、何で!?」
「それは、こっちの台詞だ。 まぁ、ともかくだ、こうなってしまってはそいつはどんな事があっても、絶対にお前以外の者には装着させてくれねえ」
残念そうに籠手をみつめるレオだったが、やがて両手で「駄目だこりゃ」の仕草を見せると、流星に籠手を手渡した。
「もう、これはお前の物だ。 だから教えておいてやる。 こいつはな付けたり外したりする代物じゃねえ。 本来は『心』で扱うモノなんだよ。 ま、騙されたと思ってその籠手を自分の中に取り込むイメージをしてみろよ」
「僕の中に……取り込む? うーん、とにかくやってみるよ」
流星がレオに言われた通り、籠手に向かって「戻れー、戻れー」という感じで不器用に念じていると、その思いが伝わったのか、籠手は光の粒子に分散すると両腕の中へ吸い込まれていった。
「今度は装備するって、念じてみな」
再度流星がレオの言う通りにすると、再び流星の腕の中から現れた光の粒子が瞬く間に籠手へと変化し、籠手の頭上に現れた魔法陣が心地良さそうに回転し始めた。
「な、便利だろ、そいつ」
「――凄い! って、これ本当に僕が貰って良いの!?」
「良いも悪いも、そいつがお前から離れてくれねえよ」
苦笑したレオは「さてと……」と、言いながら、今度はちゃんと蛍光灯を避けながら姿勢を正す。 何をするのだろうと流星は見ていたが、「ふんぬ!」と、レオが気合を入れたその瞬間、レオの耳と、尻尾が一気に引っ込んだ。
「え? え? えええっ!?」
驚きの声を流星が上げた時、美月の「流兄、朝だよー!」と、元気な声が扉を挟んで聞えてくる。 レオの曲芸? と美月の襲撃、二倍の驚きを食らった流星は慌ててレオをクローゼットか布団の中に隠そうとするも、当然大柄なレオが収まる筈も無い。
「いきなりの対面はまずいよ!」
「ん? 流兄、まだ寝てるの!? もう、しょうがないなあ! 美月、部屋に入っちゃうからね!」
「ちょ! ちょっと待ったあああああ!」
「おっはよう! 流兄いっ!!」
流星の想いは見事に裏切られ、無情にも扉は開け放たれてしまった。 にっこりと微笑む美月の目の前には大柄な男――レオが鋭い眼をしながら見下ろしている。 この後の展開は簡単だ。 美月が悲鳴を上げ、異変に気付いた母親が直ぐに駆けつけてレオとご対面。 二つ目の悲鳴が上がった後、直ぐに家の周りにパトカーの群れが押し寄せてきて、やがて玄関から手錠を掛けられたレオがカメラのフラッシュを幾度も浴びて出て来る。 そんな最悪な場面が流星の脳裏を走馬灯の様に駆け抜けていった。
もう駄目だ、もう御終いだと堪らず瞼を閉じた流星は両手でレオを隠すという全く無駄な行動に出るも、観念したのだろうか、やがて恐る恐る瞼を開き始め、美月の悲鳴に備えて両耳を塞いだ。 それから一秒、二秒と秒針が重い空間を刻み始めて――。
「もう! 流兄も、『レオさん』も、早く下に降りてきて! でないと何時まで経っても朝ご飯にならないよ?」
「――え?」
予想だにしなかった展開に思わず呆然とする流星。 考えられる結論はレオが咄嗟に美月を洗脳したから……という訳ではなさそうだ。 レオは「俺じゃない」という表情で首を横に振っている。 では先程何が起こったのか? その答えは流星の両腕に装着された籠手にあった。
流星が「まずい! 何とかしなければ!」と、心で念じた言葉が眠っていた籠手に伝わり、姿を見せるや否や、無詠唱で美月を洗脳していたのだった。 美月は引き込まれる様に魔法陣を恍惚の表情で見つめながら、「二人共、待っているから早く下りて来てね」と、何事も無かった様にそのまま部屋を出て行ってしまった。
「やるな流星! 俺の方はギリ、詠唱が間に合わなかったぜ!」
「な、何で、どうして、こうなったの!?」
「そいつだよ! 普段そいつは主の命によって現れたり、消えたりするんだが、主が窮地に立たされると、主の心を読んで己の意志でベストな魔法を選択して対処してくれる最高な奴なんだよ、くっそう、やっぱりいいな、そいつ!」
「それって……凄く反則気味な気が……」
「その分、そいつは大量の魔力をお前から吸い上げるんだが、無尽蔵の魔力を持つお前にとちゃあ、そんなもん蚊に刺された程度にしか感じねえだろうよ。 全く恐ろしいタッグが完成したもんだぜ……」
「まぁ、後の事は俺に任せておきな。 家の環境と、学校の環境はこっちの方でやるからよ。 それからそいつと一心同体となった今、むやみやたらに動揺しねえこった。 そいつは忠実過ぎる故、トラブルの元になりかねないからな」
「う……うん、良く肝に銘じておくよ」
流星と同様の制服を魔法で復元したレオは、どことなく楽しそうな笑みを浮かべ「流星、飯いこうぜ! 飯!」と流星の腕を引っ張りながら部屋を出ていくのであった。
クロノスを倒し、魔喰もレオが踏み潰し、粉砕してこれから穏やかな日々が始まろうとしている。ベルム王国では、その事件の報告が部下によって執り行われている最中だった。
「こ度の他世界への遠征、誠に大儀であった」
ベルム王国国王――ディモルが報告しにきた兵士に労いの言葉を掛ける。
「ははっ! 国王自らの勿体なきお言葉、誠に痛み入ります!」
いかにも任務を熟した様な口調であるが、この者は全てが終わった後に到着していたので、結局何もしていない。 夢空間を行ったり来たりしただけである。
「――で、魔喰はどうした? ちゃんと回収してきたのであろう?」
「ぎくっ!?」
思わず「ぎくっ!?」と声に出す兵士。 その態度に不信感を抱いたディモルは、訝しそうな表情を浮かべ言葉を重ねる。
「どうした? さっさと我の前に差し出さんか」
「……そっ、それがですね。 レオ隊長殿と合流する筈が……ごにょごにょ……」
「貴様、何をいってるかさっぱり聞えん! 一流の兵と心得ておるのであれば、はっきりと物申さんか!」
「ひゃああっ! こ、国王様! 実は私どもが現場に到着した時、そ、その、ま、魔喰が奇妙な格好をした者に踏み潰されてしまいまして……!」
「な、何だとおおおおおっ!!」
玉座から思わず立ち上がったディモルはその兵の元まで慌てて駆け下りて来る。
「い、今一度申してみよ! 我の、き、聞き間違えかも知れぬからな! 貴様何と申した!?」
「は、ははっ! ですから奇妙な格好をした者が突如現れ、その足で粉々に踏み潰されてしまったと――!」
「うひいいいっ!」
奇妙な悲鳴を上げ頭を抱えたディモルは、「うわわわ! どうしよう! どうする!? 我どうするよ!?」と、周辺をおろおろと行ったり来たりと奇妙な行動を取り始める。 やがて我に返ったディモルは咳払いを一つ残しまた兵士の元まで戻ってきた。
「ねえ君、もっかい聞くよ? 魔喰、本当に踏み潰されちゃったの? 本当の本当に? 嘘言ってないよね? 本当は、なんちゃって、実はここに――! 何て事はないのかな?」
もはや国王の風格など微塵も何処にも無い。 兵士はどん引きしながらも「ざ、残念ながら!」と、答えた。
「……そうか。下がって良い」
よろよろと重い足取りで再び玉座に座ったディモルは兵士に退室を命じる。 誰も居なくなったの見届けたディモルは、両手を頬に当てると「ひいいいいいいっ!」と、悲鳴を上げた。
「ま、魔喰が破壊されただと!? ま、まずい! あれは魔力を蓄え、強大な魔法を放つ神器等では無い! 破壊されたという事は間違いなく『封印』していたあいつ――ブラキオが解き放たれてしまうではないか!」
同時刻、流星の世界側で生命維持装置の中で眠るクロノス――魂は消滅しているので今や死体の前で黒い影――ブラキオが不気味に浮遊している。
『何者かのお蔭で、ようやくあの器から解放された……ディモルめ、何百年もこの俺を暗くて狭い器の中に閉じ込めおって……絶対に許さんぞ』
悍ましい声を無人の艇内に響かせ、恨めしそうに呟いた。
『ふむ……この者、わしの器にするには少々物足りぬが、ディモル一族を全て消し去るには十分かのう……』
ブラキオは特殊ガラスの中に消え入る様に入り込むと、徐々にクロノスの体を覆っていった。 クロノスと繋がっていた生命維持装置の画面に映された数値は全て零を示し、波長も横一線であったが、ブラキオが全てクロノスの体内に入り込んだ瞬間、その数値と波長が一気に跳ね上がる。
刹那、大きな水泡がクロノスの口から吐き出されると、連続して口と鼻から水泡が浮かび上がっていく。 やがて生命維持装置が異常を検知したのか、中の液体を排出し始めた。
「……小賢しい器め……」
悍ましい声と同時、二つの魔法陣が激しく回転すると、生命維持装置の特殊ガラスが粉々に砕け散り、中の液体が一気に溢れ出た。
「わしは二度と閉じ込められぬ……」
激しい風が艇内に吹き荒れ、クロノスの両目で魔方陣が悍ましく回転する。 魔方陣の制御と肉体の制御が偏っているのだろうか、クロノスの口からはだらしなく舌が伸び、体内に残っていた胃液が床へ向かって不気味に滴り落ちた。
「このわしでも完全に肉体を制御する事は叶わぬか……ふん、まぁ良い」
低く悍ましい声を漏らし、粉々に砕け散った特殊ガラスの中からブラキオがぬるりと出てきた。
「さてさて……地獄の始まりじゃぞ……ひっひっ、ひっひっひっ!」




