表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハーレムは寝て待て  作者: 紗夢猫
40/56

第四十話 失われた記憶

「終わったな、流星!」


『うん。 やっと自分の体に戻れるよ! レオ! 助けに来てくれて本当に有難う!』


「なあにいいって事よ! 俺の目的は元々お前の感情を取り戻す事だったからな! これでめでたくミッションコンプリートって訳だ!」


 意気揚々と扉のレバーを下げる。 今度は抵抗も無く簡単に下がった。 扉を閉めた後フュージョンを解除したレオは、流星の魂に再び魔力が戻り、従来の人型――魂が宿る本体に戻る様を嬉しそうに見上げながら、とてとてと可愛いらしい足音をさせ、意気揚々と一つ目の階段を下り始める。


「さあて、元の体に戻ったら、ビシバシ鍛えて元の体の感覚を取り戻さねえと! あ、そうか! 桃子の指南をまた再会すればいいのか!」


 満足そうに笑みを浮かべ、小さな歩幅で懸命に階段を下りようとするレオは、何処なく急いでいる様にも見える。 その理由に気付いた流星は答えを心に止めておく事が出来ず、思わず口に出してしまった。

 

「あははは! やっぱりレオは桃子さんの事が気になってるんだね? なんといっても一番のお気に入りだからね」


「馬、馬鹿野郎! べ、別にと、桃子の事なんか、こ、これっぽっちも考えてねえぞ!」


 足元の可愛い縫いぐるみ――ぷく丸君の姿をしたレオが見事なまでのツンデレを披露する。 どうやら図星だったようだ。 拗ねる様にぶつぶつと流星に文句を呟きながら、レオの足が最後の一段に触れた。


 ――その時だ。 レオの頭の中にふと、夢空間で桃子に思いっきり投げ飛ばされた時の映像が浮かび上がる。 記憶の映像はまるで蝋燭の炎の様にゆらめいていたが、次第に小さくなって最後に儚く消えてしまった。


「――ん?」


「どうしたんだいレオ?」


「……いや、何でもねえ、行こう」


 刹那、レオは何か大事な物を失った感覚に襲われたが、多分気のせいだろうと下りた先の廊下を歩き始める。 刹那、生命維持装置を稼働する時にメリッサに忠告された言葉が脳裏をかすめた。


『レオ様……このま行ってしまって本当に宜しいのですか? 此処に戻ってきた時、今までの記憶が全て消えてしまうのですよ――』


 今までの記憶が消える? そんな事は無い、その証拠に俺の記憶には確かにあいつの姿がちゃんと刻まれている。 姫さんは大嘘付きだ。 戻ったら一言言ってやらねば――。


 他愛の無い会話を流星と交わしながら次の階段を下り始める。 そしてまた最後の一段に足が触れたその時、今度は道着を来た桃子に指南する映像が浮かび上がった。


「お?」


 再び蝋燭の炎の様に右へ左へと揺らぎ始める。 炎の動きに合わせレオは「お? お?」と、奇怪な声を上げていたが、先程同様その映像が消えた時、「ん?」と不思議そうな声を漏らした。


「……レオ? 大丈夫?」


 レオの異変に気付いた流星が心配そうに声を掛けるが、レオは「大丈夫だ」と短い手を上げて見せたが、内心では必死に桃子との記憶を手繰り寄せている。 思い浮かべた映像はデートらしきものをした時の物。 問題は無い、確かに俺は覚えている……このまま俺が戻れば全てが解決するのだと、自分に言い聞かせながら次の階段を下りていく。 足を進めながらも幾度かデート以外の映像を思い起こそうとするが、何故かデート以前の桃子の姿を思い出す事が出来ない。


「クロノスとの戦いで少し疲れてしまったか……心配すんなって。 俺はまだ……お前の事はちゃんと覚えてるからよ。 待ってろ、あともう少ししたらお前に――」


 自分に言い聞かせる様にしてレオが最後の一段を踏みしめた刹那、突如桃子の屈託無い笑顔が大きく揺らぐ。 レオはそれを今までの様に消されない様、懸命に「忘れない、覚えている」を呪文の様に繰り返し呟くが、映像の炎は無情にも次第に小さくなっていく。 


「おいおい、馬鹿桃子、勝手に消えていくんじゃねえ! これじゃまるで本当に――」


 全てが消滅したと同時、玩具の電池が切れる様にレオが固まった。 


「レオ!? いきなり桃子さんの名前を口にして叫び出すなんて本当に大丈夫かい?」


 暫く沈黙していたレオがやっと反応して、小さな口から漏らした言葉を聞いた流星は、思わず自分の耳を疑う。


「は!? れ、レオ! それって冗談だよね!?」


「冗談だ? 俺は至って真面目だ」


「う、嘘だろ……もしかして桃子さんの事を本当に忘れてしまったのか!?」


「流星……先程言ったろ? 桃子とは一体何者何だ?」


「――っ!?」


 一番最後の階段を下り終えた時、レオ脳裏にクロノスに捕まった見知らぬ女が、首を締めあげられながらも「負けないで」と気丈に振舞う姿が浮かび揺らいだが、レオにはもうその女が桃子であるという事が分からなかった。


――俺は今、何か大事な物を失った気がする。 だが、それが何だったのかは分からない。


 呆然としている横で、何やら流星が驚きの顔を見せながら叫んでいる事に気付く。


「わわ!? レ、レオ!?」


――何だ? 流星、お前は何で俺を指してそんなに慌てているんだ?。


挿絵(By みてみん)


 流星が驚くのも無理は無い。 縫いぐるみだったレオの姿が本来のレオの姿に戻り始めたのだ。 意識が朦朧とする中、レオは心の中にぽっかりと開いた穴に底知れぬ寂しさを感じながら、最初に開いた扉のレバーに手を掛けた。








 ――艇内。レオ達が帰還した事を確認したメリッサが嬉しそうな声で叫んだ。


「レオ様が戻ってきます!」


 慌ただしくパネルを操作し始めるメリッサ。


「あいつが……レオが此処に……流星と帰ってくる! ど、どうしよう!?」


 最初に何と声を掛けようかと、「レオ君、じゃないさん付け?」と、おたおたしながらその場を行ったり来たりし始めた桃子。


「桃子……貴方は何も言わず此処から早く立ち去った方が良いと思います」


「え? 何で? だって、あいつと流星が此処に戻ってくるんでしょ?」


 レオ様が万が一桃子の事を忘れずに覚えていたとしたら……唇を噛みしめ、辛そうな顔を浮かべてパネルを操作していたメリッサは、複雑な心境になり、思わず桃子に冷たくあたる。


「良いですか、桃子はこの世界の住人、そして私やレオ様はベルム王国の住人、更にレオ様は何れ私と我が国を担う国王となられるお方なのです。そもそも貴方とは身分が違うのです」


「――っ!? だっ、だからって何!? レオが国王になる事と、私がレオの近くにいる事は関係無いじゃんよ!」


 桃子も引かず、負けじと言い返した。


「本当に腹立だしい人です桃子は! どうせレオ様は貴方の事なんか、微塵も覚えていないに決まってます!」


「――!? ちょっと、待てそれってどういう――」


 「ゴポン!」横並びになったカプセルの中で突如、酸素の泡が浮き上がった。


「も、戻られました!」


 艇内で機械音が響くと、ガラスにシールドが掛かり始め、次第に向こう側が見えなる。暫くして液体を排出する音の後、カプセルが開かれる音が聞こえた。


 時間もある程度経過した事もあり、メリッサが「そろそろレオ様達、着替えを終えられた頃ですね」と、シールドを解除したが目の前に晒されたのは裸の男二人が抱き合ってる姿であった。


「『っきゃああああああ!!』」


 指の隙間を開けながら、見る者はしっかり見る二人。すぐさまシールドを掛け直し、今度は着替えを済んだ事を確認して、シールドを解除する。そして豪快に笑いながら流星の体をばんばん叩きながらレオ達が姿を現した。


「お、お帰りなさいませ……、お帰りなさいませ! レオ様あああっ!」


「うわっ! とっと、ひ、姫様!?」


 ダイブしながら、メリッサは思いっきりレオに抱き付いた。流星達はかしこまった様な感じで「た、只今戻りました」、「お、お帰り」等と社交辞令をしている。そして――桃子は遂に本来の姿を取り戻したレオと目を合わせた。


「よっ、よお、レオ、お帰り……遅かったから何かあったかのかと思わず心配しちゃったよ」


 どんな言葉が返ってくるのだろう? どんな風に自分へ微笑み掛けてくれるのだろう? 恥かしさに耐え切れなくなった桃子は堪らず視線を床に落とす。


 だが、自分の耳に飛び込んで来たレオからの初めての言葉は信じられない物であった。


「……おまえは誰だ? 此処で何をしている?」


「――え?」


 レオの目は依然の桃子を知る優しい瞳では無かった。明らかに警戒し、その口調からは尋問の様にも聞える。


「な、何言ってるんだよ、レ、レオ? ほら、私だ、お前の一番弟子の紗月桃子だってば。って、帰ってくるなり最初に冗談言うなんて、お前も冷たい奴だな――な、なんてね!」


「一番弟子? お前はさっきから何を不明な事ばかり言っている? にしても、姫様とあろうお方が簡単に『部外者』をこの艇内に招き入れる等と、一体どうされたのですか?」


「……ぶ、部外者……」


 この時、先程メリッサから言われた「桃子はこの世界の住人、そして私やレオ様はベルム王国の住人」が、頭を過った。桃子は胸の奥が急に苦しくなると、自然と瞳から一滴、また一滴と泪が溢れ始めた。


「そ、そうかよ……わ、悪かったな……レオ。どうせ私は、部外者だよっ!」


 潤んだ瞳で、レオを睨み上げた桃子は踵を返すと、泪を拭いながら逃げ去る様に立ち去った。


「れ、レオ! 君は何故あんなに酷い事を桃子さんに言ったんだ!」


 温厚な流星が声を荒げて、レオに抗議するも、訳が分からないレオは「り、流星、ちょっと落ち着けって――!?」と動揺するしか出来なかった。


「桃子!」


 リッサが遠くなっていく桃子の背中越しに向けて声を掛けると、一瞬足を止めた桃子だったが、すぐにまた駆け出した。メリッサは思惑通りになった安堵感と居た堪れなくなった罪悪感が交差し、たまらず叫ぶ。


「桃子! だから私は言いましたよね! きっとこうなりますよって! レオ様が記憶を保つ事等、そんな奇跡等、起こる筈ないのですと!」


 その言葉は自分に言い聞かせてもいるのだろう、目を伏せながら寂しそうに「起きないのです……桃子」と、寂しそうに呟くのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ