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ハーレムは寝て待て  作者: 紗夢猫
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第三十九話 決着

――レオの持つ魔力はベルム王国で一目を置かれる程、威力のある物であったが、魔喰を自身に取り込んだ今のクロノスの圧倒的な魔力には、到底足元にもおよな無かった。故にレオは一瞬の隙を突き、接近戦で直接クロノスに大ダメージを与えねばならない。だが、残念な事にレオの拳で、よしんばクロノスを殴れたとしても、大ダメージどころか、「ぽふん」と、可愛らしい音しかしないのは目に見えていた。


 また、本体と繋がった流星は、魔力を殆ど奪われた上に封印され、己を動かす事さえも困難な状態、そんな八方塞がりのレオ達だったが唯一クロノスの弱点でもあるトライダーの歌を歌う事によって、魔力を低下させ、なんとか攻撃を交わし逃げ続けていた。


「ククク! 無様ですねえ! 私から逃げるのが精一杯ではないですか!」


「し、仕方ねえだろ! 情けないが援軍が来るまで時間を稼がないと、どうしようもねえんだよ!」

 

「援軍? まだそんな物――っ!?」


 突如、クロノスが胸を押さえながら膝を付いた。息苦しそうにゆらり立ち上がると、両眼から血の涙を滴らしながら怪訝そうに言い放つ。


「ググ、私にとってはとても不名誉な事ですが、これ以上ここで貴方達と時間を費やしている余裕は無くなりました。この究極魔法で、今度こそ貴方方確実に死へ誘ってあげましょう。 まあ、無力でありながら、ここまで私と健闘した事は褒めてあげますよ」


 クロノスが両手を高く翳し、高速回転する魔法陣がゆっくりと上昇し、レオ達を捉えるかの様に角度を変え始めた。


「それではベルム王国の『元』英雄殿――ご機嫌よう!」


 ――刹那、レオの両腕に眩い光が渦巻いた。遂に反撃の狼煙を上げる時がやってきたのだ。


「おおっ! この光! ま、まさか、この俺に――!?」


「ど、どうしてそれがこの様な所にっ!?」


 怯むクロノスに対し雄々しい咆哮を上げ、高々と拳を翳すレオ。だが、何かを忘れてはいないだろうか。そう、今のレオは可愛い縫いぐるみが本体なのである。故に次なる主人のレオに籠手が装備される筈が、大きさ的にも土台無理な話で、迷いに迷い上げた籠手はすうっとレオから離れてしまった。


「はいはい! どうせ、そんなオチだと思ってたよ!」


「クカカカカ! 今の姿が仇になりましたねえ! そのまま自分の運の無さを後悔しながら死んでください!」


 魔法陣から何百体ものの悍ましい魔物が出現し、瞬く間にレオ達を埋め尽くしてしまった。魂毎食い尽くされたであろうとクロノスは自身の勝利を確信し、歓喜の叫びを上げる。


「レオおおお! 私の勝ちですううう!」


 刹那、視力を失い掛けている眼に、重なりあった魔物達の隙間から眩い閃光が走り、次から次へと魔物達が消滅していく様が映った。


「な、そんな馬鹿な――!?」


 この場で動揺しているのはクロノスだけではない、レオが真ん丸な目を更に広げ唖然として流星の方を見ている。 力弱い魂の姿で揺らめきたっている傍で籠手が呼応するかの様に浮いていたからだ。


「レ、レオ……これは……何?」


 今にも消えて無くなりそうな声を漏らした刹那、陽炎の様に揺らめいていた流星の魂が人形へと変化し始める。 籠手はその時を待っていたかの様に嬉しそうに回り始めた。


「――っ! 流星に掛けた呪いが、その籠手の力によって打ち消されたというのか!?」


 信じられないとといった表情で、元に戻っていく流星を睨みつける。 やがて浮いていた籠手はゆっくりと流星の両腕に納まっていった。 一瞬の出来事から、我に返ったレオが「流星! チャンスだ! あいつに一発ぶち込んでやれ!」と叫ぶも、魔力が尽きかけている流星は応じる事が出来なかった。


「レオ、僕……苦しくて……もう動けな……い……ごめん」


「馬鹿野郎! しっかりしろ! 流星!」


 レオはこの時、自分の今の姿を心底悔やんだ。流星の籠手は魔法陣を常時出現する事が出来るが、装備した者の魔力を膨大に吸い上げる魔喰の特徴にも似た神器の一つであった。本来であれば頼もしい装備だが、今の流星が装備する事は逆に命取りとなるのだ。


 「もう駄目なのか!?」レオの心が折れそうになったその時だった、周りの時間がまるで停止したかの様に緩やかに流れ始め、レオが幼い頃ゼルから聞いた言葉が頭の中を駆け抜けた。


『レオ、こいつはなあ、自分が強く願えば何時だってヒーローにしてくれるんだぜ!』


――ヒーローにしてくれる……そうだ!。


「流星っ! 今お前が成りたい強くて格好良いヒーローは何だ!? 言ってみろっ!」


「ぼ、僕が……成りたくて、強くて格好良いヒーロー……?」


「ああ! そうだ!」


「そ、そんなの……一人しか……いないよ」


 意識朦朧の中、流星はそのヒーローの名を口にする。


「僕は……と、トライダーに……な、成りたい……っ!」


「流星っ! 良く言った! その言葉を俺は待っていた!」


 レオが床を力一杯蹴って舞い上がった時、時の歯車が動き始め、急速に秒針が回転する。 


「ク! 今さら何をしようとしても無駄な事!」


 止めとばかりに極限魔法を撃ち放った轟音の中でレオの叫び声が響き渡る。 それは「ヒュージョン!」と、気高く力強い声であった。


 次元空間毎消滅せんとばかり悍ましい音を響かせながら、炎の渦と雷が交互に混ざり合いながら、レオ達の居る場所の地面を削り取る。


「はぁ! はぁ! やった、やりました! 遂に私はレオを仕留め――」


 勝利を確信したクロノスだが、爆炎の中から両目が鋭く光り、圧倒的な覇気に気圧され、思わず後ずさってしまう。


「グググ! これは何かの間違いです! あれをまともに受けて、生きている者等存在しません!」


 クロノスの現実逃避は目の前に現れた者の姿を目にする事で、強制的に連れ戻される事に成る。その者は黒い鎧の様な物を身に着け、マントを爆風に靡かせながら一歩、また一歩とクロノスに向かってくる。


挿絵(By みてみん)


「ま、まさか!? 貴方はレオなのですか!?」


 両腕に装備された赤い籠手。 答えなくともそれが全てを物語っている。 正義という名の覇気を全身に纏い、静かに近付いてくる――トライダーに変身したレオ達であった。


 彗星仮面トライダー――弱気ものを救い、悪しき者を打ち倒す、流星の世界の何処かで存在すると言われた伝説のヒーロー。 昔、流星が幼少の頃に子供向けの番組として編集して再現されていた。 仮面の頭部にはトライダーを指す大きなTのマーク。 仮面の両側には髭を思わせる横三本の穴。 どうやらここから酸素が送られるらしい。


 また、トライダーの特徴でもある常に 引き締まったへの字の口。 ちなみにこの口が怒ったり笑ったりと変化する事は無い。 よく見ると穴が開いているので髭と同じ役目をしているのだろう。 


 では、トライダーは常に無表情で、声でしか喜怒哀楽を表現出来ないのか? 答えは否。 胸元に存在する大きな彗星マーク――決して炎とか魂とか、ましてや雲マーク等ではない、あくまでも彗星マークである。 これが、トライダーの喜怒哀楽を変わって表現する。 今はにっこりと笑っているみたいなので、レオと流星がトライダーの変身に成功した事を喜んでいる……と、思われる。     

       

「馬鹿馬鹿しい! 如何様な姿になろうとも、私の持つ力には到底及びません!」


 クロノスは、低い唸り声を上げながら、両手を翳す。


「もうこの様な隠れ家等、私には必要ありません! すぐにその体が私の物になるのですからねえええ! クククク!」


 レオに狙いを定めた巨大魔法陣は、中をくり貫いた様に一回り小さい分身を作りながら間隔を開けて横へ広がると、やがて小さい方から大きい方へと連動する様に、回転し始めた。


「見てください! この素晴らしい力をを! これこそが全てを屈服させる力なのです! さあ! 何もかも消してしまってくださいっ!」


「――行くか? 流星!」


『……うん。行こう! レオ!』


 地面を強く蹴り、高くジャンプしたレオは、高速回転する魔法陣に向かって体を捻りながら横蹴りを入れる。


「愚か者めっ! そんなお粗末な蹴りが通用する筈――」


 刹那、巨大魔法陣は大きな破壊音を伴いながら、大きい方から、小さい方へと連動する様に崩れ落ちていった。


「なああああっ!?」


 格好良く地面に膝を曲げ、片手を付きながら着地を決めたレオは手を叩きながら、ゆっくりと立ち上がった。


「信じられ……ません! 今のは……私の持つ最強の魔法だったのですよ!」


「勘違いするなクロノス! 最強はお前ではなく、トライダーとなったこの俺達だ!」


 親指で力強く自身を差すレオ。


「ク……何を戯言を! ……認めません! そんな馬鹿な事等……絶対に認めません!」


 後ずさりしながら震える声で、魔喰に呼び掛ける。


「魔喰よ! 応えなさい! お前の力はこの程度の物ではないでしょう!? さぁ! もっと、もっと もっとお! 力を、力ぶおおおおっ!?」


「ぶっ飛びやがれ! トライダあああーパあああンチ!」


 先程まで目の前に立っていたレオは一瞬にして消え、何故か今は自分の顔面にレオの繰り出した拳がめり込んでいる。


「ぶおんな、ぶぁかなああああああ!」


 クラブでフルスイングされたゴルフボールの様に豪快に吹っ飛ばされ、人形の様に体をくねくねさせながら数えきれない程跳ねては、嫌と言う程地面に叩きつけられた。


「よっしゃあ! トライダー、最強!!」


 再び距離を詰め、「ふんっ!」とガッツポーズするレオ。 岩に埋もれたクロノスはそれを取り除きながら何とか立ち上がる。


「グググ……お、幼かった私が、とても尊敬していた父が、レオの父――ゼルに無様に敗れ、観衆の目の前で醜態を晒した時より、私は力を欲した……!」


「そして、私は魔喰……最強の力を手に入れたというのに、それでもレオ、貴方は私の上を常に行ってしまう! 何故私は二番手にしかなれないのです!? 隊長を選定する試合でも私は貴方に敗れ……そして今も――!」


「馬鹿かお前は。 どんなに最強の力を手に入れようが、使い方を間違えてしまったら意味がねえんだよ」


「使い方を間違えた……この私が?」


「ああ、そうさ。お前はとんでもない力を『己の欲の為』だけに使い、俺達は『正義』の為に使った。その時点で勝敗は決まってたんだよ」


「な、何を!? ま、まだ勝敗は決していません! 魔喰の力を侮らない事です!」


「やめておけ。 例え魔喰が馬鹿みてえな力を持っていたとしても、俺達はそれ以上の力でねじ伏せる。 ただそれだけの事だ」


 肩を小刻みに震わせたクロスは、レオから大きく距離をとると天を仰いだ。


「ああああ! 煩い! 煩い 煩い! 煩いいいいっ! 何が正義だ! 何が使い方を間違えただああ!」


「全ては力! 圧倒的な力ああああ! う、疎ましいいっ! お前の生き様が! そして我等親子をどん底に突き落とした、その忌々しい籠手えええっ! ふ、ふぐううっ!」


 口から血を吐きながら、言葉を重ねる。


「レオオオオ、お前さえ、お前さえ存在しなければ、我が父が貶めてしまったティラノ家の名誉も、そしてお前を密かに想っているメリッサ姫、しいてはベルム国さえ、私の思うがままになるのですっ! まぐううよおおお、もっと、もっと私にぢからをおオオオオ!!」


「……哀れだな。 お前はまだその力を己の為に使おうとするのか」


「うるざああああいいっ! さっさと応えろおお! まぐウウウウ――ううううっ!?」


 狂気の叫びが突然止まる。


「レオ隊長おおおっ! ご無事ですかああっ!」


 同時にメリッサの援軍がようやく辿り着く。


「遅え! つうか、今こっちに来るんじゃねえ! クロノスの様子がどうもおかしい!」


 ふらふらと覚束無い足取りで不気味に笑いながら歩き続けるクロノス。やがてビクンと体が波打った。


「ああ……吸われる! 魔ぐうにずわれるうううう!? だずげ――て」


 断末魔の声を上げたクロノスが見る見る体がしぼみ始めたのだ。肉は内側にへこみ、魔法陣を映していた両眼も奥の方へと吸い込まれていった。


「あっぶぶうう! ぶううううっ!」


 首側へ頭が解ける様に吸い込まれ、残った口だけが必死にぱくぱしている。そこからは見るに堪えない状況となり、魔喰は元の形に戻りつつ、クロノスをどんどん吸収していったのだ。


 最後に「カラン」と、陶器の音を残し、魔喰が地面に転がった。レオはそれを黙ったまま拾い上げた。


「レオ隊長! 遅くなってすみません! って、あれ? クロノスとレオ隊長は何処なんだ? 先程遠くで声がしたのだが……?」


 様子を伺いに来た一人の部下がきょろきょろと辺りを見回すも、居るの仮面を被マントを羽織った訝し気な人物のみ。しかもその者は魔喰を手に持っている。


「な、何だお前は! それは我がベルム国の神器だ! 今直ぐそれを此方に渡せ!」


 一斉にレオは「これ?」という風に指差すと、部下は大きく頷く。そしてレオはそれを静かに地面へ置くと、右足をゆっくりと上げ始めた。


「ちょ、ちょ、お、お前一体何をする気――待て! あっ! あっ! あああああっ!!」


 叫び声と同時にレオは右足で魔喰を思いっきり踏み潰した。破壊された魔喰は自己再生しようと何度か蠢いていたが、やがて蒸気が抜ける様な音を伴いながら、完全に消滅してしまった。部下は両目を見開いたまま、口を押えてそのまま固まってしまった。

 

 動かなくなった部下にデコピンを食らわせて遠くへ吹っ飛ばし、何事も無かった様に踵を返すのであった。


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