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ハーレムは寝て待て  作者: 紗夢猫
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第三十八話 託されし者

――流星の魂を助けた代償に、クロノスの「呪い」に掛かり、魔力を無効化されてしまったレオ。戦う術を失った今、クロノスの容赦ない攻撃から必死に逃げ惑うしかなかった。


「ククク、愉快ですねえ! 我が国が誇るつわものの貴方が、溝鼠の様に無様に逃げ惑う姿は、実に愉快です! さあレオ! この窮地を凌げるというなら、見せてください!」


「うるせえ! 少し黙ってろ! それを今、考えてる所だろうが!」


 降り注ぐ矢の様に闇の手を必死に掻い潜り、文句を言い返す。


「あれ? レオ、僕……何だが急に熱くなってきた」


 胸に抱えていた流星が突如異変を訴えたその時だった、流星同様レオの方も全身に熱を帯び始め、更に大きな力によって意識が根こそぎ引き剥がされそうな感覚に襲われた。


――ちいっ! 何が起こりやがった!? くそっ! こんな大事な時に! ……いや待て! これって――!。


 レオはここで大事な事を思いだす。元々流星の魂と本体との繋がりはクロノスの施した壁によって強制的に切り離されていた。本来であればこの壁が有ろうが無かろうが、生気を失った流星の魂ではまず再び本体と繋がるという可能性はあり得ない。だが今はコンセント側でもある本体をレオが目の前まで引っ張ってきた事になる。よって――。


「ピンチの後にチャンスありい! 流星がこの本体に繋がるって事は、この俺も当然元の体に繋がるって事だ! って事は、クロノス、ずる賢いお前ならもう分かっているだろ!?」


「ククク、ああ……成程。そういう事ですか」


「そうだよ! 俺が元の体に繋がれば当然魔力が使える! って事はだ! 今までの借りを何千倍にしてお前に返せるって事だ! 覚悟しとけ!」


 その刹那、流星の魂とレオの姿が光の粒子となり、二手に分かれると、再び集結し始めた。レオの本体はレオが辿ってきた経路を追う様にして轟音を伴いながら一気に繋がる。形勢逆転といった場面であるが、クロノスは「『元の』体に……ねえ」と、苦笑した。


「おしゃあああ! 此処に俺様完全復活! 宣言通り今からお前をぎったぎたのけちょんけちょんにって、あれ? クロノス、お前、そんなにデカかったか?」


 レオの視界には巨人となったクロノスが、悍ましい目で見下す様に自分を睨んでいる。


「ん?」


 今度は横を向くと、これまた巨人となった流星が困惑しながら自分を見ている。レオは腕を組み暫く「うーむ……」と唸っていたが、突如やけくそ気味に「ミラー」の詠唱を始めると、鏡に映った縫いぐるみを見て、手で顎を押さえながら「うんうん」と感慨深く頷いた。


「って、本体ってこれかーい!」


 そして、漫才の突っ込みの様に鏡を叩きつけるレオを見て、クロノスが指差すや否や、突如笑い声を上げた。


「クプププ! いい忘れてましたが、貴方と初めて流星の世界に訪れた時、少しばかし貴方の本体には『呪い』を施させて頂きましてねえ、それを解くにはこの私を倒すしかないのですよ! その滑稽な姿でね! クプププ!」


「てっ、てめええええ! 汚ねえぞ!」


 その場で「むきー!」と、可愛らしい顔で、ぴょんぴょんと飛び跳ねるレオ。


「クク、それは最高の誉め言葉ですねえ、そうそう、確か貴方は接近戦に長けてましたね。 そんな貴方に少しハンデを与えて上げましょう」


 魔法陣から大剣を出現させ、レオの目の前に差し出す。レオはその大剣を無言のまま可愛らしい両手で握ると、その重さで手をぷるぷるさせながら、右へ左へとよろめいた。


 そのまま、大剣を横の流星に手渡すと「駄目だこりゃ」の仕草をして見せる。続いて流星がまだ馴染んでない体で剣をぎこちなく構え振り上げるがそのまま後方に「うわっ!」と、言いながら後方へバランスを崩す。そのまま重たそうにして大剣をゆっくりと地面に置いた流星は、レオと視線を合わせると同様に「駄目だこりゃ」の仕草をする。


 ――そして訪れる暫くの沈黙。

  

「こ、こんな物に頼らなくとも、お前なんか簡単に捻り潰してやらあ!」


「ほう! それは何とも頼もしい! 是非私に見せてください!」


 魔法陣を回転させながら、愉快そうにクロノスは笑った。


「さあレオ! どうしたのです!? 大口を叩いた割には、先程から貴方、私の攻撃から溝鼠の様にちょろちょろと逃げているだけではないですか!」


「くっそー! このままじゃ拉致が開かねえ! どうするよ!?」


「レオ! あいつの足を止めるには、やはりこの手しかないよ!」


 流星がクロノスに向かってトライダーの主題歌を歌い始めると、途端にクロノスの表情が苦痛に歪んだ。レオも流星に続いて大声で歌うと、クロノスの魔法陣が大な歪みを見せた。


「ググ! また、それですか! 詠唱でもないのに何故その不協和音が、私の魔力に大きく干渉してくるのか、とても興味深いですねえ! ですが、その悪足掻きはせいぜい私の足止程度にしかなりません!」


 言葉の通り、レオ達が歌う攻撃はクロノスを倒すまでの攻撃力など落ち合わせて居ない。だが、レオは歌い続ける間、この歌を、否、この音程を幼い頃、何処かで聞いた覚えがある気がした。きっと勇気と力を与えてくれる、何処かそんな気がしてならなかった。だから必死で歌い続ける。この声が再び「何か」へ届く様に。


 クロノスはその苦痛から逃れようと、一端後方へ退いて、拡散していた魔法陣を集結させると、巨大な魔法陣に変化させ始めた。


「レオ! いい加減、諦めなさい! 何も変わらないのです! 故に奇跡も起きない! 貴方の負けです! クククク!」


 魔法陣はレオに最後の止めを刺すかの様にゆっくりと回転し始める。


「まだだ! まだ俺は負けてねえ!!」


「そうだよレオ! 僕達は負けていない!」


 ――絶対に諦めない、そう思うレオ達の気持は音ととなり、次元の狭間を光の速さで走り抜けていく。









「じいや、これは一体何なのですの!? 突然光り出しましたわ!」


 加奈が驚いた顔で指差した物――それは十蔵がクロノスとの闘いで装着していた赤い籠手であった。


「何と、これは……!」


 十蔵はこの現象を目にするのは初めてであったが、それが何を意味しているのかについては、レオの父親――ランフォリン・ゼルから籠手を譲り受けた日に聞かされていた。光を放つ籠手を懐かしそうに見つめながら十蔵はその日の事を思いだしていた。


 それは十蔵が戦闘用のアンドロイドを相手に修行をしている時だった、急に両腕が光に覆われ、見た事も無い赤い籠手が勝手に装着されている事に気付いた。「何だ?」と、首を傾げていると、背後で「うむ、引き継ぎ完了!」と、聞き覚えのある声が聞えた。


「お前か……こんな恥ずかしい物を俺の腕にハメやがったのは……!?」


「おいおい、恥ずかしいとは随分じゃねえか、十蔵ちゃんよ」


「ちゃん付けをするな。それよりも何なんだこの籠手は?」


「ふふん、良くぞ聞いてくれた。そいつはなあ、物凄いんだぞ!」


「…………そうか、そりゃ何よりだ。俺は見ての通り、修行中でとても忙しい。悪いがお前に構っている暇は無い」


 言いながら、籠手を外して投げ返し、踵を返した十蔵が再び稽古を続けようとアンドロイドに対峙したその時、自分の耳の近くを唸る様な音が突き抜けていくや否や、目の前のアンドロイドが一瞬にして消し飛んでしまった。


 これには流石の十蔵も驚き、慌てて振り向くと、ゼルは装着した籠手を翳しながらにかっと笑った。大きく溜息を吐く十蔵。しぶしぶゼルの話を聞くことにした。


「いいか、よく聞いておけ。俺はこの籠手をお前に託す事にした。何故なら! それはだな! うーん、何でだろうね、十蔵ちゃん?」


 腕を組み首を傾げるゼルに十蔵は「俺に聞くな、それと、ちゃん付けするな」という突っ込みは入れておく事にした。


「ま、まぁ、ともかくだ、この籠手は……聞いて驚くなよ? 実は真のヒーロー達から受け継いだ代物でな、その前はこの俺が受け継いで、そして今回は十蔵、お前の番って訳だ」


「はぁ……ゼル、いい歳こいた大人が何がヒーローだ。まさかお前の口からそんな乳臭い言葉が出るとは夢にも思わなかったぞ」


「お前が信じる信じないは別として、こいつはなあ、自分が強く願えば――だから俺もな――」


 その後、ゼルは何やら熱く語っていたが、その内容まではいちいち覚えてはいない。正直、非武装でも最強を誇っていた十蔵ににとってはどうでも良い事だったからだ。ただ、最後にゼルが言った「絶対に覚えろ!」という呪文の様な言葉はなんとなくの気紛れだったが覚える事にした。


 我に返った十蔵はその時の事を懐かしむ様にして目を細めると、今は亡きゼルに向けて皮肉を言い放つ。


「ほっ、ほっ、ゼルよ、お主はよほど人を見る目がなかったようじゃのう。お前がわしに余りにも期待の目を向けるもんじゃから、逆に、とことん使ってやらんかったわい、ざまー見晒せじゃ」


「……じゃが、これをお主がわしに託したのは、どうやら正解じゃったようじゃのう、こうなる事をお前が読んでいたかどうかは知らぬがな」


「じいや、先程から何をぶつぶつと独り言ばかり言ってますの?」


「なんと、これはこれは大変お見苦しい所をお見せしてしまい、誠に申し訳ありません。ところでお嬢様、このじいや、ひとつお願い事をしてもよろしいですかな?」


「? ええ、構いませんわ」


 動けない十蔵は、ゆっくりと体を起こすと、地面に魔法陣を出現させ、光り続ける籠手をその中心に置く様、加奈にお願いする。


「信じられない……じいや、こんな芸当、何時身につけましたの?」


「ほっ、ほっ、ほっ。 なあに、昔ひょんなことから知り合った悪友に、少しばかり指南をして貰ったまでです」


「で、これからどうなりますの?」


「はい。私がこの籠手を託すに相応しい者へ、これを送り届けるのです」


「……そう。私、じいやがそれを誰に託そうとしているのか、なんとなくですけど分かる気がしますわ」


 十蔵は黙ったまま加奈を見て、にっこりと微笑むと、魔法陣に置かれた籠手へ手を翳した。


――まさかこんな日を迎えようとはのう……。


 息を大きく吸い込んだ十蔵は、ゼルから教えて貰った言葉を詠唱をし始める。


「ディーアリル、ラビエル、サウザリ、レネブ、ザファイヤ(真っ赤に燃える太陽が俺の心を熱くする)」


――何の意味かは分からんが、やたら「これはリズムが肝だからな!」とか抜かしおって。そもそもわしは音痴なんじゃ!。


「ベルデ、ムザスト、レヴァイ、ジャステルア、ライザネス(夜空に輝くお月さまが、正義の道を優しく照らす)」


――しかもやたら流いし、何となくじゃがこのリズム、何処かで聞いた事が有るような、無い様な気がしてならぬ。やれやれ、全く面倒事じゃわい。


 十蔵が唱える詠唱とレオ達の歌声が共鳴し合った刹那、魔法陣の中にあった籠手が突如消えて無くなった。否、無くなったのではない。次に託された者の元へ転送されたのだ。


「ゼルよ、預かり物、確かに返したぞ……お前の……に」


「じいや! しっかりして!」


 ようやく肩の荷が降りたのだろう、十蔵は満足そうな顔を浮かべると、加奈が支えるか細い腕の中で、安堵感を感じながら再び深い眠りに就くのであった。


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