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ハーレムは寝て待て  作者: 紗夢猫
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第三十七話 導かれる魂

――レオは静まり返った夢空間の中で、此れまで自分と出会った人達を思い返しながら、その切っ掛けとなった扉をじっと見つめている。


「ふっ……ここが全ての始まりだったな」


 レオの口調はいかにもここでの出来事を全てを美化した感じであるが、この男、クロノスに操られていたというものの、学校中の異性にあーんな事やこーんな事をしでかした悪党なのだ。例えこの空間が本体ではない、人に具現化した魂同士が接触する空間だとしても、相手が体験した感覚は全て本体側に通じる訳で、当然異性の胸を揉みしだけば、その感覚はそのまま本体に伝送される仕組みなので、セーフと言えば、セーフだが、アウトと言えばアウトだ。


 その仕組みは当人も良く理解してるようで、だんご虫の様に床に横たわり「うわあ……俺は、俺は何て事をを!!」等と頭を抱えながらのたうちまわっている。


「い、いや! お、俺は悪くない! 悪いのはみんな、あいつ――クロノスなんだあっ!」


 今度は声を荒げて、現実逃避に走り出す。暫くして落ち着いたのだろうか自我を取り戻したレオは「……そろそろ行くか」と、すっと立ち上がった。そして高くジャンプして、扉のレバーに愛らしい手を引っ掛けようとした刹那、初めてここに桃子が入ってきたあの不機嫌そうな顔が残像になって現れた。


「――ったく、油断してたとはいえ、見事なまでにぶん投げられてしまったな……」


 今頃あいつはどうしてるのだろうか、と桃子の身を案じながら、レバーの先端にぶら下がる形で思いっきり引き下げると、扉は何の抵抗も無く簡単に開いた。


「……まぁ、ここを通して色々な奴と出会った訳だが……まさか自分の方から繋がってもいない相手の所へ行く等と、普通ならこんな事、誰も思いつかないよなあ」


挿絵(By みてみん)


 苦笑しながら目の前に広がる途方も無い数の階段を眺める。 久々に目にした夢空間は招かざる者を否定するかの様にしんと静まり返っていた。 一番上にある天井と一番下にある床は一体どこにあるのかも不明。 ずっと上の方――下の方には続いているであろう階段がまだうっすっらと見える。


 そして階段を上って――下って行きつく先には、別の階に繋がっているか、もしくは相手側の扉に繋がっている。 まぁ、今までの経験だと相手を呼び寄せるのに膨大な時間を費やす必要が無かった事から、相手の扉とは軽い散歩程度な距離で繋がっている仕様なのだろう。 故に自分の扉から相手側の扉まで階段を延々と上って――下ってと、魂を削りながら辿り着くという事はなさそうだ。

 

 だが、それは本来であれば――という注釈付きである。 今からレオが実戦しようとしているのは、繋がってもいない流星をこの空間から探しだそうとしているのだ。 一体どれだけの階段を上り下りせねばならぬのかレオも予想する事が出来ない。 しかも下手をすればこの「巨大迷路」の中で、魂が尽き欠けない危険性も伴っている。 


「一度迷い込んじまったら最後、二度と戻る事は出来ない、ここはそういったシビアな空間なんだぜ? なぁ、流星」


 丸い顔から緊張の汗が流れ落ちる。


「ま、最悪引き返すっていう手もあるが、それは絶対に避けたい所だな」


 下の階に辿り着いたその時だった、ふと違和感を感じたレオが後ろを振り向いた瞬間、可愛らしい顔が引き攣った。


「――か、階段が消えただと!?」


 つい先程まで背後にあった上りの階段は消え、代わりにどこまでも続く廊下に変わってしまっている。 夢空間の存在は知っていたレオだが、その詳しい仕様までは理解していない。 そもそもデュエル――一方通行か、後は使用しない――他の女、メリッサに幾度か呼ばれても着信拒否だったからだ。


「成程。 通じ合った者同士なら階段の両脇にある物――門灯らしき物が点灯してくれるという訳か」 


 以前レオがデュエルの際、入口と出口側にこれと同じ物があり、先端が点灯していた事を思い出す。 だが今見ている物は消灯している事に気付いた。


「はは、これで本当に後戻りが出来なくなったぞ。 もし俺の考えている事が失敗した場合、俺は一生この空間で彷徨った挙句、くたばるって話だ……俺の命、流星お前に預けたぜ。 なあに、繋がり合っている俺達なら、きっと成功する筈だ!」


 ゆっくりと口を開けたレオは、夢空間の中で彗星仮面トライダーの主題歌を歌い始めた。


――聞こえるか? 流星! 俺達が大好きな無敵ヒーローの歌だ!。


 だが、流星がレオの歌声に反応する兆しは見えない。それでもレオは諦めようとはせず、声を大にして歌い続ける。


――駄目なのか? いや、駄目じゃない! 諦めるな俺! 届け! 届いてくれ! 流星!。


 その刹那、遠くに見える階段の両脇でぽうっと街路灯が優しく灯り始めた様に明るくなった。 


「やった! やったぜ! とうとう点きやがった! お前の、否、俺達の……正義の炎が!!」


 レオを導く階段を一段、また一段と力強く踏みしめ、歌いながら駆け上がる――駆け下りる。 迷いなく進み始めた状況は飛行艇に居るメリッサと桃子の二人に画面を通して伝り、二人は驚きの表情を見せると共に感激の声を上げながら嬉しそうにレオの存在を示す一点の光を見つめていた。


「――彗星の如く現れては、あっという間に悪い奴等をなぎ倒す!」


 レオが歌う度、「僕はここだ」と流星がレオを導く様に進む先々の階段が光り始める。


――今から、俺が……いや、俺達が悪者をバッキバキにぶっ飛ばしてやろうぜ! なぁ、流星!。


 最後の階段を駆け上がり、長い廊下を走り抜けた先に黒い扉が見えた。 レオがゆっくりと近付くと、その扉から悍ましい魔力が漏れているのが分かった。間違いない、クロノスと流星は此処にいる! 確信したレオは、大きく深呼吸をすると開錠の詠唱を終えながら、レバーに飛び付くと勢いよく扉を開け放つ……事は出来なかったが、なんとか中に入る事が出来た。


「流星っ!」


 突如レオが入ってきた事に気付いたクロノスは、流星とレオが共鳴する不協和音によって苦しめられ、頭を抱えながら鬼の形相でレオを睨む。


「ググググ、れ、レオ!? な、何故この場所に!?」


 レオはクロノスの顔等見ていない。それよりも高く掲げられ、呪術の魔法によって拘束されている流星の姿を唖然として見上げている。通常であれば魂は具現化し、人の形を成すのだが、長い間ずっと拘束されていた流星は、殆どの魔力を奪われ、今にも消えそうな小さな白炎と化して、力弱く揺らいでいた。それでも流星は、最後の力を振り絞り、レオが此処に辿り着いた今でも懸命に歌い続けている。


挿絵(By みてみん)


「クロノス! 貴様、流星があんな姿になるまで、魔力を……命を奪っていたのか!?」


 怒りを放ったレオは丸い手をぐっと固めた。


「そうですが何か? 今更貴方が此処に辿り着こうが、あの様な哀れな姿になってしまってはもはや手遅れです。 どう足掻いても天野川流星は助かりませんよ?」


 冷ややかな目で見下してほくそ笑む。 先程まであんなに歌で苦しめられていた筈なのに? レオは一瞬考えたが、その答えはクロノスの右手にあった。 いつの間にか魔喰を取り出し握りしめている。 そこで魔喰の周りに張り付いた血管らしきものを蠢かせ、歌――クロノスにとっての不協和音を吸収させていたのだ。


 ――ティラノ・クロノス。 この男は相手の隙を突く事に掛けては誰よりも秀でている。 別の何かに気を取らせている間にその水面下で静かに剣を抜く。 計算高く、プライドは極めて高い。 一部の者からはその実力故、尊敬する者さえもいた。


 そんな冷静なクロノスが己の本能を剥き出しにする時がある。 それには必ずレオが絡んでいた。 戦でレオに同行していた際、何かとレオを意識して単独行動を起こし、部隊が窮地に立たされるという場面がしばしばあった。       


状況的にも今はクロノスの方が優位な場面だ。 だが、クロノスの心中は穏やかでは無い。 レオを見下ろしているのは自分の方だというのに。 それは圧倒的不利な状況を覆そうとするレオの眼にあった。 例えそれが小柄な体型で縦長の可愛い瞳であったとしても、クロノスにとっては自信に満ち溢れたレオの瞳に何ら変わりなかったからだ。


 眩し過ぎて、忌々しい眼。 クロノスはそれが吐き気がする程嫌だった。 魔喰を持つ右手に思わず力が入る。 落ち着け。 目の前にいるレオは今、只の無力な縫いぐるみだ。 何の問題も無い、あと少しで無限の魔力が我が手に入る。 脳裏を霞めた不安を打ち消すかの様にレオを威圧する。


「馬鹿な考えは起こさない事です。 私の呪術はそう簡単に解けない上、それを解こうする者は呪われてしまいますよ?」


 クロノスが警告する通り、何十にも覆われた結界の中に流星は幽閉され、恐らくは監視しているのだろう、悍ましく巨大な魔法陣がその手前でゆっくりと回転していた。だが、レオはそんな事も気にも止めず、詠唱を始めると、ゆっくりと手を翳し始めた。


「レオ、貴方も諦めの悪い人だ、先程から私は何度も――!?」


 クロノスはそこで固まった。間違いなく自分は常人では解けない程の魔力を以て結界を張っているにも関わらず、レオはそれを力任せに破壊し始めたのだ。


「貴方は馬鹿ですか!? 幾つもの術式を重ね、計算し尽くした結界を力任せで破ろうとするなんて――!?」


「俺はどうなってもいい! こいつ邪魔なんだよ! くそがあああああ!」


 結界に大きな亀裂が走り、やがてガラスが砕ける様な音を響かせながら弾け飛んだ。レオは必死に流星の魂へと手を伸ばすが、魔法陣から闇の手が伸びてそれを阻み、巻き付かれたレオの両腕はその部分が呪いによって黒く染まり始めた。


「誰が、誰が諦めるかああああ!」


 それでもレオは染まった手を懸命に伸ばし、しっかりと流星の魂を掴んだ。すると、役目を終えたのか先程の魔法陣がすうっと消えた。レオは誤って握り潰さない様に流星の魂を優しく胸に抱え込む様にして、床にそろりと着地した。


「流星! おい、流星しっかりしろ! 俺の断りも無しで勝手に消えるんじゃねえ!」


 クロノスから取り戻した流星の魂に話し掛けると、レオの存在に気付いたのか、ようやく歌うのを止めた流星は掻き消える様な声で応えた。


「レオ……やっと見つけて……くれたんだね」


「ああ! 遅くなって悪かった! だが、もう心配するな! 今直ぐお前を、元居た世界に戻してやるから――」


 レオの力強い言葉を突如、クロノスの冷ややかな声が遮った。


「――元居た世界に戻る? 如何にしてですか?」


「あ? 何をほざいてやがる。 クロノス、お前はもう何処にも逃げられねえ! 今頃はきっと姫様がこの場所を特定して、がっちりとお前をマークしているだろうからな! すぐに仲間がこの空間にわんさかやってくるぜ! 覚悟しとけよ!」


 「今度会ったら覚えてろよ!」と、いかにも負け犬が残しそうな台詞を言いながらレオはそそくさと扉の方へ向かう。はなからレオの狙いは流星の奪還であった。それを果たせば、クロノスと闘う必要は無い。流星を元の体に戻してからでも逃げ場の無いクロノスをぼこぼこに出来る。と、いう考えだったのだ。


「――そんな訳で、俺達はとっとと帰らせて貰う! じゃあなクロノス!」


 扉のレバーに手を掛け、通って来た道を戻ろうとしたレオだったが、予想した通り、扉はしっかりとロックされている。


「……だよな。お前がそう簡単に俺達を見逃がしてくれる訳ねえか」


 だが、俺は開錠に掛けては一等級。こんなものすぐにこじ開けてやる! と、詠唱を終え「完璧!」とレバーを握って扉を開けようとしたが、ビクともしない扉に嫌と言う程、顔を打ち付けると、ふんぞり返って転んでしまった。


「いっでえええ! 何だ? 何が起こりやがった!?」


 再び詠唱を終え「今度こそ!」と、レバーに手を掛けるも結果は同じ。激しく顔を打ちつけ、再びすっ転んだ。


「――いっってえ! 何故だ? 何故開かない!?」


 ここでようやく自分の魔法が全て無効化されている事に気付いたレオ。その場で呆然とするレオを見ながらクロノスは愉快そうに笑い始めた。


「クフフフ! だからぁ、私は予め警告したではないですかぁ、『呪われる』とぉ!」


「――っ!!」


「レオぉ。再び貴方に問いますぅ。 魔法も使えない貴方がどうやってぇ、元の世界に戻ろうと言うのですかぁ? クプププ!」


 クロノスは暫く高笑いをしていたが、ふとその行為を止めると、鋭い目で見据えながら冷ややかに言い放つ。


「何処にも逃げられないのは貴方の方なのですよ……レオ。 感動の再会を祝して祝杯を上げたいのはやまやまですが……残念ながらそれは叶いません。何故なら――」


「――貴方は此処で流星共々、死に絶えるのですからねええっ!」


 クロノスは魔喰を胸の辺りまで空宙に浮かせる。


「さぁ! 良く見ておきなさい! 今から私がこの魔喰を自身に取り込み、真の神となる姿を!」


 両手の掌で魔喰を挟みそれを押し潰し始めた時だった、魔喰からどろりと液体状のものが溢れ出し、聖杯の形を失いながら魔喰はやがて全て液体化した。クロノスはその液体を水を掬う様な形で収めると、その中で不気味に蠢く液体を見ながら嬉しそうに微笑んだ。


 そしてその液体をそのまま口に当てると、喉を鳴らしながら全て飲み干す。その刹那、幾度か体を大きく震わせたクロノスは、突如重苦しい咆哮を上げ始めると、全体から軋む様な音を伴いながらその体を変形させた。


 「ぶはあ」と、白煙の様な魔力を口から漏らし、ふら付きながら唸り声を上げるクロノス。レオはその悍ましい姿を見て愕然とした。


「ああ……魔力が、巨大な魔力が私の中で無限に溢れているのを感じます。 ……如何ですかレオ。神になった私の神々しい姿は? 成程。成程。その表情からして、恐れ多くて言葉を失ってしまった、という所でしょうか。貴方のその気持、良く分かります」


「クロノスよ、お前のその姿は間違っても『神』でなんかじゃねえ、何方かで言うと――『悪魔』だぜ?」


「んん? レオ、貴方は一体何を言っているのです? この私が悪魔だ等という冗談――」


 クロノスは自身の手を見て言葉を失った。長く伸びた鋭い爪。恐る恐る顔に手を近付けてなぞると、明らかに今までの輪郭では無い事が嫌でも理解出来た。更に頭部に違和感を感じ手を伸ばすと「角」の様な感触を覚えた。クロノスは無言のままレオを見つめるとゆっくりと口を開いた。


「再度確認します、レ、レオ。……わ、私は美しい姿ですよね?」


「いいや、その姿は完璧に悪魔だな。此処に鏡が無いのが非常に残念だ――」


 それには及ばなかった。何故ならクロノスがレオの言葉を聞くや否や「ミラー」の魔法を使って、直ぐに自身の姿を確認していたからだ。


「こ、これが私の顔……そんな、そんな馬鹿なあ! ――がふっ!」


 体を震わせながら、口から魔力を吐き出す。床に零れた魔力はやがて湯気を立てながら蒸発して消えた。クロノスは「ああ……!」と、言葉にならない声を漏らしながら後方に退き始めた。

 

「な、何と言う事でしょう! 魔喰と一体化した私の魂に、本体が受け切れていないという事ですか!? うぷっ!」


 また口から魔力を吹き出しそうになる。そればかりでは無い、いきなり襲ってきた苦しみに加え、魔法陣と化した両目が白目を剥きそうになった。


「ググググ! ど、どうやら本体が後少ししか持たない様です! やはり、この膨大な魔力に耐えうるには、流星、貴方の体を頂かないといけないようですねえっ!」


 クロノスがくわっと口を開いた瞬間、無数の魔法陣が出現した。 レオは開く筈も無い扉のレバーに必死でぶら下がり、ガチャガチャと空しく上下させている。


「レオ……これから、どうするの?」


 心配そうな声でレオに問い掛ける流星。


「はは……肝心な魔法も使えねえ。 目の前には人外と化したクロノス、おまけに援軍は未だ見えずときたもんだ。さてさて、どうしたものか……って、どうするよ? 俺?」


 と、言いながら未だ未練がましくレバーを上下させているレオであった。


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