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ハーレムは寝て待て  作者: 紗夢猫
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第二十五話 蘇った記憶

――流星の自室。クロノスの手によって隠されていた飛行艇とレオの本体が見つかった旨をメリッサはレオに報告する。だが、全てを聞き終えたレオは喜び半面、少し複雑そうな顔を見せていた。メリッサはその理由が桃子である事を直ぐに理解し、その内の心を嫉妬心で煮えくり返していた。


「おや? レオ様はこの報告を素直に喜んではくださらないのですか? 元の自分に戻れるのですよ?」


 将棋の駒を一手指す様に問い、メリッサはレオの顔色を伺った。


「ば、馬鹿な事言うな! う、嬉しいに決まってるだろ!」


 自分の思惑通りに駒を指してきたレオに対し、顔を伏せて唇を噛みしめたメリッサは、次の一手を指す。


「……そうですよね。では明日、私と一緒にその場所に行って、ご自身の体に戻って頂けますか?」


「あ……そ、それはもう少し後に……」


「へえ……そうしないといけない理由か何かおありでも?」


「そ、それは今、流星の体を離れてしまったら、クロノスの思う壺になってしまうじゃないか……」


(詭弁ですね……)


「今、何か言ったか?」


「何でもありません! とにかく自分の体に戻ろうが戻るまいが、明日は確認の為、私に同行して貰います! 良いですね!?」


「メリッサ……お前、何か怒ってないか?」


 女心に鈍感なレオであるが、畳み掛けてくるメリッサの強い口調に、自分へ向けられた怒りに気付かない訳が無い。その態度が更にメリッサの機嫌を損ねたのだろう、メリッサは抱き抱えていたクッションをレオに向けて力一杯投げ付けると、


「ふん……何時までも私の事を思い出せない癖に、その心の片隅に『誰かさん』を住まわせている事でも反省して欲しいものですね! では、お休みなさい!」


 怒りをぶつける様に扉を思い切り閉めて出て行った。









 ――次の日。メリッサは何かと理由付けて一向に家から出ようとしないレオに業を煮やし、強引に耳たぶを引っ張りながら現場へと向かっていた。


 だが、その様子を車中で偶然見かけた者――加奈がいた。


「あれはメリッサさん……それに嫌がる駄々っ子の様に無理矢理引きずられている男、あれは――流星?」

 

 加奈は暫くその様子を見守っていたが、二人から何やら只ならぬ電波を感じ取ると、「怪しいですわね……」と、お抱え運転手に二人の後を尾行させ始めた。


「あの者達の報告だと、確かこの辺りだった筈」


 人気の無い山奥の少し切り開かれた場所で、メリッサが手を翳すとクロノスが張ったであろう、結界が姿を現れた。


「ふふん。あやつめ、この様な場所にレオ様を隠していたのね。でも、こんな生温い結界なんてこの私に掛かれば楽勝です!」


 そのままの姿勢で結界解除の詠唱を始めると、雁字搦めに結ばれていた結界がいとも簡単に解け始めた。その様を見ながらレオは心の中で「どうりで俺が部屋の扉に何重もロックを掛けても、簡単に外される訳だ……」と納得していた。


 やがて全ての結界が解けると、二人(と、草葉の陰から見ている加奈)の前に大きな飛行艇が姿を現した。


――あれは何なのっ!?。


 心の中で驚きの声を上げたのは無論加奈の方である。外出仕様の洋服は、山中に自由奔放に伸びる枝に切り裂かれ、山道には不適応な高価そうな靴は泥まみれになっていた。

 

 そんな事等加奈は一切気に留めてはおらず、それよりも目の前にある飛行機でも、ヘリコプターでも無い飛行艇に夢中だった。


 その飛行艇のフォルムは加奈が昔見たアニメに出てくる様な感じで、その船体からは赤や緑、紫の光が所々不気味に点滅している。


「あの二人って……何者?」


 訝しそうな顔をして、その様子を覗き込んでいる時に変化が起きた。船体の一部が大きく開いて、その中に二人が入っていったのだ。


「け、携帯は!? こんなスクープ、カメラに納めない手は無いですわ!」


 だが残念な事に肝心の携帯は、山の麓で待っている車の中にバッグ毎、置き忘れていた。


「オーマイ、ゴッド!」


 洋服の裾を悔しそうに噛みしめながら加奈は再び二人が飛行艇から出て来るのを待つのであった。










 ――飛行艇船内。 レオはコールドスリープの中で静かに瞼を閉じて眠っている自分の姿を呆然と見ていた。


挿絵(By みてみん)


「やっと会えた! これがレオ様なのです! どうです!? 超絶、男前でしょう!?」


 久々に目にするレオの顔を嬉しそうに見つめながら、メリッサはガラス越しにレオの口元を優しくなぞった。 


「……これが、俺……だと?」


 レオはまるで別人を見る様な感じで自分の顔を見ている。それもその筈、自分の事を思い出せていないレオにはどうしても他人の様としか捉えることしか出来なかったのだ。


 その様子を横目で伺っていたメリッサだったが、やがて意を決し、予め考えていた事を実行に移し始める。


「レオ様……せっかくここまで来たのですから、どうでしょう、元のお体に戻られては?」


 メリッサの提案にレオは驚きの表情を見せて首を激しく横に振った。


「ば、馬鹿な事を言うな、そんな事出来る訳ないだろ! じゃあ聞くが、空っぽになっちまった流星はどうするんだ!?」

 

「――肉体を消し去ります」


「だろ。だから無理――って、メリッサ、お前今何て言った!?」


「だから、クロノスが流星様の体を乗っ取る前に、その体を完全に消し去るのです」


「待て……それって俺には流星を殺す。そう言ってる様にしか聞こえないのだが?」


「その通りですが、何か問題でも?」


「お、おい……ふ、ふざけんな! そんな事絶対に出来る訳ないだろ!」


「では、何か別の方法がお有りでしたら遠慮なく仰ってみてください」


 その声は低く、冷酷だった。


「そ、それは、だから今考えて――」


「そんな時間がレオ様に残されているとお思いでも?」


「――っ!」


「……とても第一魔空戦機隊を率いる隊長の言葉とは思えません。優柔不断過ぎます。昔のレオ様でしたら躊躇せずご自身の体に戻る事を選択されたでしょう」


「昔だろうが、今だろうが俺は俺だ! 大事な友をそう簡単に殺す事なんか絶対にするものか!」


 レオの言葉に嘘偽りなど微塵も無い事をメリッサは当然理解している。それ故に心が痛んだ。だがそれは一つの理由であり、もう一つの理由をレオはずっと黙っている。メリッサにとってそれがとても悔しく、また、切なかった。 


「……そうですか。では、妥協案を言いましょう。レオ様がどれ程時間を費やそうとも、クロノスを見つけ打ち倒すまで、このコールドスリープ内で流星様を永久保存いたしましょう。これ以上の名案はございません」


「た、確かにそうだが……だがそれでは――」


 それでもレオが首を縦に振らない事にメリッサの苛立ちが頂点に達した。


――何なんですか! 自身の体に戻らない理由が、レオ様には他にある癖にっ!。


「何故駄目なのですか? 此処まで申し上げているのに、何故レオ様は元の姿に戻ってはくださらないのですか?」


「そ、それは俺が――」


 レオが意を決し、遂に重い口を開こうとしたその時、眉を切なそうに歪めたメリッサの瞳から溢れんばかりの涙が零れ落ち始めた。


「駄目ですよ……レオ様……その言葉を私の前で仰るつもりですか……?」 


 長き時間を共にした記憶さえも忘れられ、それでも尚、体を震わせながら健気に俺の事を思ってくれている。そんな強気で、強引な女が感情を露わにし、普段見せない顔を自分の目の前で曝け出している。


 何故そこまで自分の事を!? 俺は何故こいつの事を思い出してやる事が出来ない!? 

 そんな思いが心の中で一杯になったその時、


「……ディモル……メリッサ」


 レオは自然とその名を口に出した。その刹那、頭の中に消し去られていた記憶が一気に流れ込んで来る。それは少し幼なさが見えるメリッサの姿と、自分に向けられた数々の言葉であった。


『レオ様、レオ様! 今日は早く学校が終わりました。なので、これからメリッサとお茶をいたしましょう!』


『レオ様、レオ様! 何方にお出掛けですか? 待っててください! すぐ支度するのでメリッサもお供いたします!』


『駄目です! レオ様がデュエルに挑む等、ぜーったいにこのメリッサは認めません! もし……もし、レオ様が敗れでもしたら、誰がこのベルム王国を私と「継いで」くださるんですか!』


 初めて駅前で抱き付かれた軍服姿のメリッサから、制服姿のメリッサへと変わり、最後に足元から白いドレスの裾が爽やかに靡き、頭に威厳あるティアラが眩い光を放った後、満面の笑顔をしたメリッサの姿が鮮明に映った――。


「うあ……メリッサ……ひ、姫様!」


 レオが水面に浮かび上がった魚の様に口をぱくぱくする姿を見たメリッサが、口を押えて大きく目を見開くと、


「ずるい……レオ様ったら、何でこんなタイミングで記憶を取り戻すんですか?」


 と、涙を拭いながら慎ましく微笑んだ。


「ど、どうしてその事をもっと早く俺に伝えてくれなかったのですか?」


 慌てて態度を一変させたレオの脳裏に今度は、纏わりついてくるメリッサを邪険にしたり、ベットの上で力でねじ伏せられ迫られた時の様子が鮮明に浮かび上がった。


「うああああ……俺は、俺は姫様に、姫様にあんな事を……ああああああ!」


 顔面蒼白で頭を抱えたまま、その場で崩れ落ちる。


「だって、普段見られないレオ様の姿がすぐ近くで見れるのが楽しくて……つい本当の事を言いそびれてしまって……」


 口を手に当てて、悪戯っぽく微笑む。


「酷い……酷すぎる!」


――そうだ。俺は、俺は……!。


 そして芋ずる式に蘇ってくる記憶。本来の自分は常に単独行動を主とし、女性が苦手で、口下手であった事を。そんな自分がメリッサと出会い、一国の姫君でありながら「レオ様」と今日までずっと慕ってくれていた事を。

 

 更にベルム王国にそびえ立つ城を背景に第一魔空戦機隊の旗が雄々しく風にはためく様が浮かび上がり始める。今、その隊を率いるその者の名は――。


「ランフォリン・レオ……この俺だ……」


 改めて自分の名を口にし、これまで自分がしていた事をゆっくりと思い出し、静かに立ち上がったレオはメリッサの顔を見て肝心な事に気付いた。


「あれ? 俺は確か女が苦手だった筈だ……」


「はは……嘘だ。そんな俺が流星の学校中の女を次から次へと空間部屋に呼び出して……あんな事等出来る訳が無い……」


「はい。見てて気持ちが良い程、見事な人格改ざんぷりでしたね」


 にっこりとメリッサが微笑んだ。


「う、うわあああああ! な、何でこんな余計な改ざんがあああ!」


 その答えを明確にしてメリッサが答えてくれる。


「良く考えてみてください。レオ様は今、流星様のお姿です。で、その流星様は今や学校中の女性に好意が向けられている状態。ですが、何れその体はあのクロノスに乗っ取られる訳ですね、と、いう事は――」


「結局、その全ての女が「あの野郎」の餌食になるって事か……!」


 「あの野郎」と口に出したレオは、その男――クロノスの事を完全に思い出していた。他国との戦いが一旦落ち着き、無理を言ってずっと心残りだった流星に会う為に、暇を貰ってこの世界へと一人旅立とうとしていた矢先、あからさまに微笑みながら、「その者に会いに行くのであれば、自分も是非お供させてください」と、強引に付いて来た男がこのクロノスであった。


「くそ! あの野郎の事をはっきりと思い出したら――怒りが込み上げてきた!」


 怒りを露わにしたその時、自分に微笑み掛けてくる桃子の姿が目に浮かんだ。


「待て……このままだと、桃子は……桃子は……」


 そして、クロノスに乗っ取られた流星とそんな事も露知らず、互いに見つめ合い顔を赤らめながら、衣服をはだけさせ、あられもない姿を曝け出す桃子の姿が――。


「うわああ! ちょっと待て! 今の無し! 無しだあっ!」


 そこに無い妄想を掻き消す様に、レオは慌てて両手を交差させた。そんなレオをメリッサは諦め顔で見ていたが、


「そんな様子では、とても元の体には戻ってくれなさそうですね」


 と、溜息交じりに呟いた。


「すまない姫様、俺は全て片付けた後、白黒はっきりさせないといけない事があるんだ」


「……桃子の事ですか?」


 メリッサの目は真剣だった。


「自分の記憶から桃子が消えるというのに、レオ様はそれでも尚、その思いを伝えようというのですか?」


――それが桃子にとってとても残酷な事だという事をレオ様は分かっているのですか?。


「ああ、そうだ。それでも俺は……この気持ちを桃子に伝えなければならない。自分を鍛え上げる事しか考えていなかった俺が、あいつを見て……あんな穏やかな気持ちになったのは初めてなんだ」 


――ああ。駄目だ。この男はもう止まらない。


「……そうでした。レオ様は昔から、決めた事を絶対に取り下げない性分でしたね。ですが、他の女性に対する思いを、私の目の前でに口にされているのはどうかと思います。レオ様は少し女心を知る必要がありますね」 


 両頬を膨らませてそっぽを向くメリッサ。  

 

「す、すまない姫様、俺は――」


「もう。そんな顔を見せないでください。ますます焼きもちを焼きそうになりますから。それよりも私の事は何時も通りメリッサって呼んでください」


「分かった。メリッサ、分かってくれ。俺は、自分のけじめだけはどうしてもつけておきたいんだ」


 真剣な眼差しで正直な気持ちを伝えると、


「はいはい。分かりました」


 レオから背を向けたメリッサは大きく背伸びをした。


「さて……クロノスの考えでは、レオ様をずっとあの可愛らしい器に閉じ込めておくつもりだったのでしょうが、その思惑は潰してやりました」


「レオ様のお体は、これから私の付き人がしっかりとお守りしますので、どうかご安心ください」


 メリッサが突如「姿を見せなさい」と言った刹那、物音もさせず、黒い衣装を身に纏った二人の男が現れて「我々にお任せを」と、レオの前で平伏した。


「こいつらは確か、皇族直属の隠密部隊……これは頼もしいな」


「と、いう訳で私達は此処で少し仕事をしますから、レオ様は先に行っててください」


「ああ。頼んだぜ、姫――じゃない、メリッサ!」


 屈託ない笑顔を見せ、片手を上げたレオは飛行艇から出て行く。メリッサは遠ざかっていくレオの背中に向けて「馬鹿……」と小さく呟いた。


 暫くして飛行艇から出てきたレオが、一瞬足を止めて振り返り、再び踵を返して「よし!」と決意新たに力強く足を一歩踏み出そうとしたその時だった、ぼろぼろの靴でどてどてと走り寄ってきた加奈が「ちょおっとお待ちなさい!」と、レオの腕を強引に掴んだ。


「流星、これは一体どういう事ですの? 何故貴方がこんな得体の知れない乗り物から出てきたのか、私にも分かる様にちゃんと説明してくれるかしら?」


「お、お前、加奈か!? な、何でこんな所に居るんだ!?」


「そんな事はどうでもいいですから、私の質問に早く答えなさい!」


「あ、えーっと! こっ、これはその、あ、あれだ!」


 この場を凌ぐ言葉等、この様な状況で出てくる筈も無い。それどころか余りにも動揺してしまったが為に、普通に受け応えをしてしまう。「しまった!」と、慌てふためている所へ加奈が止めを刺す。


「成程……貴方、初めから会話が出来たのですね。というか、もしかして貴方の中身――宇宙人なのかしら?」


 その刹那、飛行艇が再び結界を張ったのだろう、二人の前から忽然と姿を消した。それを呆然と見る二人。


「成程……宇宙人確定ですわね」


 どや顔でレオを追い込む加奈に否定する事など出来無い。レオは観念して本来の名を名乗り、全てを打ち明けた後、この事は暫く桃子には内緒にしてくれと、懇願した。   


 全てを聞き終えた加奈は、暫く何かを考え込んでいたが、意地悪そうな顔を見せると、


「そうですわね……貴方の言う通りにしてあげてもいいですけど……」


 言いながらレオに腕を絡めながら体を寄せるが、女好きから一挙に苦手に戻ってしまったレオは顔を真っ赤にして慌てて加奈から離れようとする。


「あら? あの時の貴方とは思えない程、本来の貴方は初心うぶですのね」


 更に腕に力を込める。


「や、止めろ! 俺から離れろ! い、今は俺であって俺じゃないんだ!」


「ふふ、何を訳の分からない事を……。でも、これで立場逆転ですわね。なんて愉快なのかしら。そうそう、先程の件ですが、桃子にこの事は知らさないでおいてあげますわ。その変わり――」


 ぐっとレオに顔を近づけた加奈は、


「一日私に付き合いなさい。無論貴方が断る理由なんてありませんわね?」


 と、上から目線の強い口調で威圧し、レオは加奈の交換条件を断る事等出来ず、黙ったまま頷くのであった。


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