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ハーレムは寝て待て  作者: 紗夢猫
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第二十二話 女達の戦い~後編

「で、あるからしてこの文章は何を指しているか、石川、答えて――うっ!?」


 国語の担任――長塚栄三郎(五二歳)は思わず息を飲んだ。席替えの時期でも無いのに、何時もそこに座っている筈の石川が見当たらず、その代わりに何故か紗月桃子が座っている。確実に仕留めていただろう獲物を外してしまった気分に捉われた栄三郎は、興を削がれ、急遽獲物を変更する事にした。


「ちっ……じゃあ、磯山、お前が答えて――ばっ!?」


 国語の担任――長塚栄三郎(五二歳)は思わず息を飲んだ。席替えの時期でも無いのに、いつもそこに座っている筈の磯山が見当たらず、その代わり吉崎加奈が座っているではないか。


 そして栄三郎は気付いてしまった。今担任同士で話題の渦になっている生徒――天野川流星を魔のトライアングルを描くかの様に、左側には紗月桃子、右側にはティモル・メリッサ、そして後方には吉崎加奈が座って、何やら悍ましい殺気を放ちあっている事を。


「ま、まぁいい。この文はだな――くっ!」


 栄三郎が黒板に背を向けた刹那、背後に危機感が走った。握り締めた白のチョークに自身の指先から汗が伝わり、じわじわと染みていくのを感じながら「何者かがこちらを見ている」と、頭の中で激しく警報が鳴り響いたのだ。


 数少ない頭の髪を激しく靡かせながら、慌てて振り返ると、一瞬だったが、廊下側の僅かに開いていた窓の隙間から何者かの頭部に付いているであろう髪飾りが、光に反射したのが目に入った。


 恐怖と緊張の渦に駆られながら恐る恐る扉の取っ手に手を掛け、決死の覚悟で開き、勢いよく廊下側へと躍り出る栄三郎。


「そ、そこにいるのは、だ、誰だあっ!」


 ――返事は返って来ない。そして、先程背後に向けられていた殺気も既に消えていた。


 授業を無事終えた栄三郎は、顔面蒼白で蹌踉めきながら教室から出てくると、乾ききった口を重そうに開きながら、


「私は今まで何十年という長いキャリアを積み、授業をしてきましたが、あれ程緊張した授業は無かった……」


 と、光る額を何度もタオルで拭っていた。既にこの魔のトライアングル形態を把握していたクラスの担任――藤沢純一郎(三十歳)は、


「……ノーコメントでお願いします」


 出席簿で顔を隠し、逃げる様にその場を去って行ったという。








 昼休憩。ここでも今、周りの視線を浴びながら女達の熱く、激しい戦いが幕を開けようとしていた。


 レオの口の周辺には合計4組の割り箸がそれぞれの食べ物を掴んで差し向けられている。


「さぁ流星様、ここは私を選ぶ所ですよ?」


 にっこりと微笑みながら更に口へと近付けるメリッサ。


「な、何を言っている? 勿論私を選ぶよな、流星?」


 顔を引きつらせながら、負けじと口へと近付ける桃子。


「皆さん先程から何をおっしゃってるのやら。当然私を選びますわ。そうでしょう、流星?」


 髪をかきあげ、色気を振り巻きながら口へと近付ける加奈。


「ち、違うよ! 流兄はこれが大好物だから、美月のを選ぶんだよね? ねっ?」


 健気に頑張って口へと近付ける美月。


 そんな究極の選択を迫られながら、レオは彼女達の背後で大熊に巨大うさぎ、更に大蛇と、可愛らしい小リスが火花を散らし合い争っているのが見えていた。


――ったく、今俺は目立つ訳にはいかないのに、何とも面倒臭い事になってしまった。


 周りの男子生徒の目から見れば、その光景は誰もが羨むハーレム状態と言って良いのかも知れない。だが、レオはそう思ってはいなかったのだ。 


――メリッサ、加奈、そして美月の食べ物の選択については何も問題は無い。だが、桃子、お前だけは間違っている! 何でまた、熱々のうどんを選択してんだよ! 本当、馬鹿なのか!?。


 意を決したレオは己が決めたおかずに向けて口をゆっくりと開き始める。だがレオに「選択」等という権利は最初から与えられていなかった。その空間が開いた瞬間、彼女達は当然自分を選択した物と信じて疑う筈も無い、一斉にそれぞれの食べ物がレオの口の中に押し込められたのだ。


 その後直ぐにレオが口を押えながら席から静かに立ち上がり、疾風の如く食堂から消え去ったのは言うまでも無い。



 





 午後の授業。と、言っても本日は全学年クラス対抗で男子バレーの試合があり、この時レオは、コートの中に立たされていた。


「おい、天野川、お前は何時もの様にぼーっと突っ立っているだけでいいんだからな! 俺の邪魔だけはするなよ! いいか、分かったな!?」


 バレー部にも所属しているあづまは、女子生徒達の熱い視線をここぞとばかりに得ようとレオに念を押す。


――馬鹿かお前、誰がこれ以上目立つ事なんかするか。


 無言で頷くレオ。


「良し、俺の力で決勝戦まで来た様なものだからな! お前はそこで指を咥えて黙って見ていろ!」


 決勝戦は勝負が拮抗し、マッチポイントにまで縺れ込んだが、双方勝利を譲らない状態が長く続いた為、時間制限もある事から、何方が先に点を入れた時点で終了する事となった。


「はぁ、はぁ、はぁ! もう一度俺にトスを上げろ! 次で決めてやるっ!」


「おう、俺に任せろ東っ!」


――おうおう。青春してるねえ。まぁ、どうでもいいから、さっさとこの試合を終わらせてくれ。


 レオはネット際で、思わず欠伸が出そうになるのを我慢した。


「行けえっ! 東っ!」


 綺麗なトスが東の頭上で高く上がる。


「おおおっ!」


 東が左足に力を込めたその時、バランスを崩して後方に転倒してしまった。


「馬鹿めっ! 優勝は俺達がもらったあああっ!」


 相手側が逆にアタックを仕掛けようとジャンプの態勢に入ったその時、


「頼む! 打ってくれ! 天野川っ!」


 後方から突然声を掛けられたレオは、思わずその声に反応してしまい、床を蹴ってしまった。


――く、思わず飛んでしまった! だが、まあいい。先に飛んだ相手の奴にボールを打たしてしまえば……。


 レオの考えは大きく裏切られる事になる。それもその筈、レオのジャンプは力を押さえて飛んだつもりが、先に飛んだ者を遥かに凌駕し、その高さはネットよりも半身以上超える高さに達していたからだ。その異様な光景を誰もが皆、信じられないといった顔をして見ている。


――こっ、この力は!。


 レオが動揺したその時だった、流星の体から無理矢理、別の力に弾き飛ばされそうな感覚を覚えた。


――っ! ひ、引き離されるっ!?。


 レオは流星の中で不安定になった力の制御をしながら、目の前にあったボールを相手コートに叩き込んだ。


 刹那、ボールは異形な形を見せながら唸る様に風を切り、相手のコート側で激しい音を床に響かせると、白煙を伴いながら傍に立っていた者の横を突き抜けていった。


「やったぜ! 天野川! 俺達のクラスが優勝だあっ!」


 同時に周りからは女子生徒達の黄色い声が一斉に上がり、レオの周りにクラスの男共がレオにわらわらと集まってきた。


「凄いよ、お前! 何で今までこんな力を隠していたんだ!?」


「さっきのジャンプ何だよ! マジかよ!?」


「あんなアタック、プロでも出来ないぞ!?」


 方々から称賛の言葉を浴びながら、次へと次へと握手を求められる。その足元では膝をがっくりと落とした東が「……そんな馬鹿な、俺の『目立ってモテまくり』作戦がぁ……」等と呟いていた。


 校内で話題の中心となっていた天野川流星の存在は、この日を境に更に全校生徒へと知れ渡る事となる。その帰宅中レオは、メリッサ、桃子、加奈、美月の四人に囲まれながら、複雑な心境に陥っていた。


――魔力だけじゃねえ、流星の力が俺その物の力に変わってきてやがる。これは流星の魂自体が消えかけている何よりの証拠だ。早く流星を探し出さないと本当にまずい。


――それに何だ、一瞬だったが俺を流星から弾き飛ばそうとしたあの力は?。 いや待て。俺はあの力を何処かで……。


 レオは何かを思い出しそうだったが、メリッサと加奈が突如抱き付いてきて、再び珍獣同士のバトルが始まった為、その考えは一瞬にして吹き飛んでしまった。


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