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ハーレムは寝て待て  作者: 紗夢猫
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第十八話 離れられない運命

 学校の屋上で互角の勝負をしていたメリッサと桃子だったが、その勝敗は自分の「くまさん」が流星――レオに丸見えになっている事に気付いた桃子が、突如情けない悲鳴を上げてあっけなく幕を閉じた。


「お、お前なあ、此処にいる男が天野川だから良かったものの、これが他の男だったら互いの醜態を晒す所だったんだぜ!」


 真っ赤な顔でレオを指差しながらメリッサに文句を言う桃子だが、レオは『残念だが桃子、お前はくまさんをおもいっきり俺に晒していたんだよ……にしても、今回は俺が流星であった事に感謝するぜ。そうでなかった場合、俺は今頃どうなっていた事か』と、小刻みに震えていた。


 確かにレオは命拾いをしたといっても過言では無い。もし仮に此処にいた者が一般の男子生徒であった場合、おそらくその者は、くまさんの天国を見た後に、地獄を垣間見る事となったであろう。


「あらあら? 貴方、武術の腕は中々のつわものとお見受けしましたが、殿方の事になるとからっきしですのねえ」


 鼻で笑ったメリッサが悪戯っぽい顔を見せながらレオに近付くと、両腕をゆっくりと伸ばし始める。レオは『てめえ! 俺が何も反応出来ないからといって、ほいほい近寄るんじゃねえ! あっちへ行け!』と念じたが、そんな念動力は起こる筈も無く、あっさりと捕まってしまった。


「そういえば昨日、貴方このレオさ……この殿方と一緒に行動を共にされていましたね」


「あ、お前! もしかして、昨日あの場所に居たのか!? ってそうじゃない! あ、天野川からさっさよ離れろよ!」


 頭から一気に湯気を吹き出した桃子が力任せにメリッサからレオを引き離した。


「成程。その殿方は貴方にとって大事な方……という事ですね」


「ちっ、違う! 私はただ、感情を取り戻す様、あいつに頼まれただけであって――」


「――あいつとは誰の事ですか?」

 

 そう問い掛けるメリッサであったが、実はこの時、全てを把握していた。


「あ、あいつとは、その、あいつであって……ああ、もう! お前には関係の無い事だろ! いちいち詮索してんじゃないよ!」


「そうも……いかなくなりましてね」


「――!?」


 再び桃子から強引にレオを奪い返すメリッサ。


「貴方お名前は? ここのメス豚達とは違って、少々骨がありそうですから、貴方には特別に私の事を『メリッサ』と呼ぶ事を許可しましょう」


「それはとてもとても光栄だな! 私の名は紗月桃子、お前もまぁまぁやるみたいだから、私の事を特別に『桃子』と呼ばせてあげますのことよ!」


 メリッサの口真似をしながらまたまたレオを奪い返す。


「では桃子。貴方に早速言っておかなければなりませんね」


「い、一体何をだよ?」


 「それは」と言い出した所で、突如屋上の扉が開き、三人を探していた担任が「お前等、こんな所に」と、姿を現した刹那、メリッサは再びレオを奪い返すと妖艶な顔を見せた。


「このメリッサが、天野川流星――流星様に一目惚れしたという事、でしょうか」


「「『――何ですと!?」」


 と、驚いた声を発したのは、桃子と扉を開けたまま固まってしまった担任の二名。一名は心の中で叫んだレオである。


「従ってこれより、私のこのしなやかな体は勿論の事、私の血の一滴残らず全てを、ここに居る流星様に捧げる旨、宣言します」


「「『――何だとうっ!?」」


 と、再び驚いた声を――以下略。ここで三人と担任の目が合う。「あ……」と、何とも言えない雰囲気が漂った後、担任はわざとらしい咳払いをしながら、「お前等……異性のいざこざはさっさと解決して早く戻ってくる様に」と開けた扉をそっと閉めて戻っていってしまった。


 水面から浮かび上がった鯉の様に口を動かしながら、何かを言おうとするも言葉に出せない桃子。


「桃子は流星様とお付き合いしてないと先程言われてましたから、何も問題はありませんね?」


 レオの腕を強引に掴んだメリッサは教室へと戻って行く。一人取り残された桃子は言い返す事も出来ず、「あ……」と、右手を二人の背中に向けて伸ばし、空の空気を掴んだ後、その拳を固めたまま「うーっ!」と唸った。


「……お前、さっきわざとやっただろ!」


 桃子の目から解放されたレオが溜まっていた怒りを爆発させた。


「あら? 一目惚れしたというのは本当ですよ? と、いっても流星様の姿を成されたレオ様に――ですけど」


「ややこしいな! って、ええい、今はそんな事はどうでもいい! どうすんだよ、こんな騒動を巻き起こしやがって!」


「もう。野暮ですね、そんなの分かり切ってる事じゃないですか……あ、あそこに人がいますよ。いいんですか?」 


「――ちっ!」


 レオは慌てて顔を無表情に戻す。メリッサが教室の扉を開け、レオの腕を掴んだまま入室すると、周りから様々なオーラを放つ視線を一斉に浴びた。そんな事等全く気に止めないメリッサは、冷ややかな表情をしながら周りの女生徒達を見据えた。


「ああ……ついでにここにいるメス豚達にも言っておかないといけませんね。今日から私はこの流星――」


 と、言掛けた所で突如自分の右肩を息を弾ませて後を追いかけて来た桃子に鷲掴みされている事に気付く。


「桃子……今、私は貴方に構っている場合では無いのですが」


「く、クラスの皆、き、聞いて! わ、私、ずっと黙っていた事があるんだけど、じ、実は、わ、私は――」


「こ、この、さ、紗月桃子は天野川君、否、流星と付き合っている、とてもとても深い仲なのでしたああっ!」


 ここで一斉に「え、ええええええええっ!? ×ここに居る生徒数」の驚きの声にレオの『なっ、にっ、おおっ!?』心の叫び。そこから素の顔に戻ったメリッサを差し引き、最後に「お前達、俺はさっき解決して戻って来いってちゃんと言ったよな?」と卓上で頭を垂れたまま落胆する担任の声が上がる。


「桃子、今言った事、本当の事なんでしょうね?」


 と、何事も無かったかの様に問いただすメリッサに桃子は力強く首を縦に振った。


「そ、そういう事だ! だから気安く私の流星に近寄るなよな!」


 顔を真っ赤にし、両目をなると状態にしながら桃子がやけくそ気味に言い放った。


「そうですか……そうであれば私達、一人の殿方奪い合う、良き好敵手ライバルという事になりますね」


 ここでメリッサは屋上で宣言した台詞を再び周りの者に知ら示す。大半の者が唖然とし、男子生徒達からは妬み恨みが一杯込められた視線の矢が流星に向けて一斉に放たれた。


「の、望むところよ! やってやろうじゃない! ふふ、ふははははっ!」


 桃子の投げやりな笑い声が教室中に響き渡る。この騒動で既に始まっていたであろう授業時間の大半が大幅に削られてしまった事は、当然言わずもがな、である。










 ――昼休憩。食堂では誰もが皆、遠慮がちにうどんの汁をすすっていたり、おかずの品をそーっと口に運んでいる光景が見受けられる。それもその筈、その一角で、うどんの湯気を立ち昇らせたまま両手を膝元に置き、テーブルに何度も頭を打ち付けている桃子の姿があったからだ。


「あー…… あー…… なんで私、皆の前であんな事を言っちゃったかなあ……」


ごんっ!。


 打ち付けた刹那、顔を横に向け「じろり」と一点を睨み付け、敏感に反応した者達の動きが一瞬にして固まった。


「うーっ。それもこれもぜーんぶ、いきなり現れたあの女のせいだ」


ごんっ! ごんっ! じろりっ!。


 またもや周りが「だーるまさんがころんだ」状態で固まった。桃子が睨んでいる先には向かい合って座ったレオとメリッサが食事を摂っていて、これでもかと言わんばかりにおかずの品を取ってはレオの口に「あーん」と運んでいたからだった。


「ええ、そらそうでしょうよ、貴方がその手を打ってくるのは予め予想していたわ……そして、こうも思ってるのでしょう? 早くこの土俵に上がって来いと。その自信満々の目はそう私に訴え掛けているのでしょう!?」


「分かったわよ! そっちがその気ならその土俵に上がってやろうじゃないっ!」


 うどんを両手にして勢い良く立ち上がった桃子は二人の元にづかづかと足音を立てながら近寄って来た。


「メリッサ、ちょっといいか?」


「あら桃子。私達は今、仲良く食事中なので邪魔はして欲しくないのですけど。はい、流星様。あーん」


 「ふふん」と勝ち誇った顔をしながら、おかずを口に運ぶが、レオは「くっそー! 何で俺がこんな羞恥プレイを周りの奴らに晒さなければならないんだあ!」と心の中で叫んでいた。


「わ、私も今から流星に餌を与えるつもりだよ!」


 すごい剣幕で自分の横に座って来た桃子を見たレオは『俺はペットかよ!』と心の中で突っ込んだが、それよりも桃子のチョイスした食べ物に先程から嫌な予感がしてならない。


「じゃ、いくよ!」


 まだ冷えていないうどんからごっそりと麺を掬い上げると、「ふーふー」の冷却動作も無しに「ほらほら、遠慮しないで口を大きく開けなさい!」等と恐ろしい事を口に出し始める。


 レオの「馬鹿かてめえ! その手を止めろ! 頼むから止めてくれ! お願いだ桃子! 止めて!」と泣き叫ぶ心の声等聞こえる筈も無く、うどんは無情にも口の中に放り込まれた。


『あんぎゃああああああああ!!』


 ぎこちない表情で「どう? 美味いか?」と、微笑む様を見た男達は青ざめたまま誰一人、桃子と視線を合わせなかった。










 ――その日の帰り道。人気が無い場所で、背後からメリッサを襲ったレオが茂みへと引きずり込む。そのまま押し倒し、馬乗り状態になったレオはメリッサに向けて思い切り怒りを爆発させた。


「いい加減にしろよメリッサ! お前のせいで俺は今日散々な目にあってるんだぞ! 見ろ、この悲惨な口を!」


 見事なたらこ唇に変化した自分の口を見せつけながら激怒する。


「いやーん、レオ様。私をこんな所で押し倒して一体何をなさろうと?」


「何もしねえよっ! ただ、お前にはっきりと言っておこうと思ってな!」


「レオ様……愛の告白なら、もう少しムードというものを考慮して頂ければ……」


 口を手の甲に添え、頬を赤らめながら視線を横に反らした。


「ば、馬鹿かお前! そんな甘いイベントは今もこれからも未来永劫、起きやしねえよ!」


 と、慌ててメリッサから離れて立ち上がった。


「あら……では何用でしょうか? 残念な事に、私ちょっとした手続きがありまして、直ぐに行かねばなりませんので」


 スカートに付きまとった枯れ葉を払いながらメリッサもゆっくりと立ち上がった。


「大丈夫だ、時間は取らせねえ。なあに、簡単な事だ。明日朝一で今日言った事を全て白紙に戻せ。それで桃子も白紙に戻して何もかも元通り。全て解決だ。いいな? あと、いちいち俺にべたべた纏わりつくんじゃねえ! 空気を読んで俺から離れてろ、分かったか!?」


 茂みから立ち去ろうとしたメリッサはその場で足を止め、レオに背を向けたままポツリと呟く。


「ええっとですね。それは少し無理な相談かと……」


「な、何でだ!?」


「それは……レオ様が私から決して離れられない運命にあるからです。では、後程……」


 一瞬だけ怪しい笑みを漏らしたメリッサはその場から立ち去って行った。


「ま、待て! メリッサ! 今俺が言った事を――! ん? 今あいつ、後程って言ってなかったか……?」


 メリッサが残した謎の言葉は、レオが「ただいま」と、玄関の扉を開けた瞬間に明白となる。その出来事はレオが手に持っていた鞄を思わず手放してしまう位、動揺するものであった。


「あう……り、流兄い……この人」


 震えた声で美月がとある人物を指さしながら訴え、目の前に大きな荷物が置かれたその傍らに立つ女の後姿を見たレオは言葉を失っていた。


「お帰りなさい流星様。私、本日からここでお世話になります――って、もう自己紹介は不要ですね」


 と、振り返ってにっこりと微笑むメリッサの銀髪が軽やかに靡いた。


『メリッサ……お前、何でここに居やがる!?』


 こうしてレオはまた一つ、とても大きな厄介事を抱え込むのであった。


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