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ハーレムは寝て待て  作者: 紗夢猫
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第十七話 招かざる転入生

桃子とのデートを終えたレオはその晩、何時も通り夢空間の中に居た。但し、今夜の桃子への指南は無い。レオの周りで色んな事が起こり過ぎた為、精神的に混乱したレオは帰宅後直ぐにタブを名乗り、携帯で桃子に伝えていたのだ。


 レオはその文章の中に「今日のデートはどうだった?」と、質問してみると、桃子からは「凄く楽しかったよ」と返ってきたのを見て、レオは心の内が急に切なくなるのを感じた。


「ふん、強がりやがって……今日は散々だったじゃねえか」


 誰もいない静かな空間でレオは眉をしかめながら呟く。


「にしても……今日は視野がやたら低いな。まるであの器の縫いぐるみと同じ視点じゃねえか」


 レオが試しにその場で、全力疾走をしてみると「とてとてとて」と可愛らしい音が後から付いて来るだけで、全くスピード感が得られない。


「うーむ……」


 おもむろに手鏡で自分を映してみると、其処にはあの「ぷく丸くん」の姿があった。


「……どういう事だ? 感情の原型が流星でなく、俺じゃねえか! もしかして、元通りになったのか?」


 ならば流星が現れるのかも知れない、そう思ったレオは暫く待ってみるもやはり流星は現れない。


「さっぱり分からねえ……何が一体どうなっちまったんだ?」


 ここでデート中に自分が使用した魔法の事をふと思い出す。


「そうだ……魔法だ!」


 可愛い姿のままで手を翳し詠唱に入る。


「これより我が名、天野川流星の名を以て、己の力を示さん――」


 レオは周りを明るく照らすとういう簡単な光魔法を用いてみたが、全く発動しない。


「どういう事だ? 流星の魔力が全然俺に宿らねえじゃねえか!」


『貴方は我がベルム王国で知る人ぞ知る、第一魔空戦機隊所属、SSSランクにして誇り高き隊長、ランフォリン・レオ様なのです!』


 刹那、自分にいきなり抱き付いてきたメリッサという女の台詞を思い出す。


「俺がランフォリオン・レオ……? なら、確かめるまでだ!」

 

「これより我が名、ランフォリオン・レオの名を以て、己の力を示さん――」


 すると今度は、空間の中で無数の光の輪が出現し、自分の掌に集まると拡散する様に広がって、周りが明るくなった。


「――嘘だろ? 本当に俺はランフォリオン・レオだっていうのか……待てよ。って事は俺はここから今直ぐ外に出れるじゃないか! やったぜ! ならばすぐ目覚めて元の器に戻れば、本体探しも可能だな!」


 慌てて目覚めようとするレオだったが、ふと嫌な予感がしてその動きを止めた。


「落ち着け俺、良く考えろ。何で世界を消滅させる程の魔力が急に消えちまったんだ。それに抜け殻の流星から俺が飛び出したら……流星自身はどうなる? もしかして死んじまうって事も考えられるんじゃないのか?」


「それに、俺が本体に戻っちまったら……」


 その後に続く言葉をレオは口に出さなかったが、その険しい表情からおそらく、本体に戻れば桃子との記憶が消えてしまうという事を言いたかったのであろう。









 ――次の日。美月から「流兄! 昨日の桃子先輩とのデートはどうだった!? 楽しかった!? 楽しかったんでしょ!? ねえ? ねえってば!」等と絡まれながらも無表情で登校する。


 教室の扉を開こうと、扉の引手に手を掛けた時、同時に別の手が重なった。


「あ……」


 驚きの声を漏らし、少し恥じらいを見せたその女生徒は桃子であった。


――桃子!?。

 

 と、もう少しのところで驚きが伝染してレオも顔と口に出そうな所だったが必死で耐える。


「昨日は色々あったけど……ありがとね。それで……あいつは何か言ってた?」


 ふるふると首を振って応えるレオに、桃子は「そっか」と、少し残念そうな表情を見せて教室に入っていった。


 自分の机に付いたレオは、自分が目覚めた時の事を思い出す。


 流星の名で魔法が使えるかどうか試してみたところ、魔法は夢空間と同じで全く発動しなかった。次に自分の名であろうランフォリオン・レオを用いてみると、何の問題も無く魔法が発動した事で、今の時点で流星の魔力が消滅しているという事実に戸惑っていた。


――あの時も流星の魔力は全く感じられなかった。一体何が起こってるんだ?。


 ぶつぶつと心の中で自問自答を繰り返すレオに担任の「あーお前等、今日からここに通う事になった転入生を紹介する。先に言っておくが、野郎共は狂喜乱舞しない様に」の声は届かない。やがてその転入生が教室内に入って来た瞬間、男子生徒の歓喜する声が一斉に沸き上がった。


 ああだ、こうだと必死で思考中のレオだったが、男子生徒達の「銀髪っ娘キタアア!!」の騒がしい声に気付き、「何だ?」と、黒板の方へ目を向けた。


「――私、ディモル・メリッサと申します。以後、お見知りおきを」


 明るい表情で自己紹介を済ませ、にっこりと微笑んだメリッサの口元で、可愛らしい八重歯が光った。


「げほっ! ごほっ! げうっ!」


 刹那、レオが急に咳き込む音が教室中に響いた。担任が「おお!? 無反応の天野川も可愛い女の娘には反応したか!?」と驚く中、レオの心中は「何でお前がここにいるんだよっ!」であり、直ぐに身の危険を感じたレオは、一刻も早く教室から逃げ出したい気持ちで一杯になったが、それは許されない。メリッサは視界に飛び込んで来た獲物――レオを見つけると、両手を組み重ね、目を輝かせながらふらふらと歩き出した。


 「ああ……駄目だ、来るな、こっちに来るなああ!」と心中で叫ぶレオにメリッサは足を止める筈も無く、周りの視線も気にせず、小走りに真っ直ぐと走り寄ってくる。もはやレオに逃げ場など無い。


「レオ様あああっ!」


がたーん!


 昨日の悪夢が教室内で再生され、そのまま押し倒されたレオはメリッサに嫌と言う程、頬に顔を擦りつけられた。


「『なんでだあっ!?』」


 この光景を見た男子生徒が次々と膝を落としていくそんな中、メリッサに友好的だった女生徒の視線が、明らかに変化した。当然加奈も黙ってはいない。「ちょ! ちょっと、貴方! 私の流星に一体何をしていますのっ!?」と、メリッサを引き剥がそうと近寄り、手に掛けようとしたその時――。


「いっ!?」


 背後からだったにも関わらず、メリッサは加奈の右手を掴むと、前に引きながらそのまま捩じっていたのだ。


「い、痛いっ!」


「ああ……。そうそう、言ってませんでしたね。私、別に貴方達と仲良くしようなんて微塵も考えてませんから」


 低い声で加奈を見下ろしたメリッサは悍ましい表情を見せながら威圧する。


「特に……レオ様に近づくメス豚共には一切容赦しませんので、ね、レオ様?」


 捩じっていた手を離しながらレオの顔を覗き込むと、レオは必死に目を左右に泳がせて「表に出ろや!」と殺気を放ちながら何度もサインを送っていた。


「あら? レオ様ったら早速二人きりをご所望で? もう、本当仕方のないお方ですね」


 そんな殺気など無頓着なメリッサに届く筈も無く、立ち上がりレオに手を差し伸べ引き起こすと「さあ、行きましょう」と腕を組みながら教室を出ていってしまった。扉が閉まった瞬間、一瞬水を打った様に静まり返った教室だったが、いきなり源泉が地面から噴き出すかの様に教室内で奇声が一気に沸き上がった。


 鼻歌交じりで階段を上り屋上に向かうメリッサ。人の目も無くなった所で急にレオの腕に力が入る。「おや?」と気付いた時にはレオがメリッサを抱え上げながら屋上を駆け上がり始めた。


「もう……レオ様ったら、人が居なくなったからって、ダ・イ・タ・ン。ああ! でもそんなレオ様も素敵いっ!」


「でやあああっ!」


 屋上の扉を勢い良く開けたレオは、そのままメリッサを放り投げた。猫の様に体をしなやかに回転させながら綺麗に着地を決めるメリッサにレオの苛々が爆発する。


「もう。可憐な乙女を空中に投げ出すなんて、レオ様ったら、なんて酷いお方」 


「お、お前っ! 何でここに居る!? 何で来やがった!?」


「お言葉ですね。当然ここにレオ様が居るからに決まっているではありませんか」


「俺は今、天野川流星で、訳ありで感情を表に出せないんだよ! それなのにお前はレオ様、レオ様と連呼して俺を動揺させやがって! 本当、滅茶苦茶な奴だな!」


「そうですねえ。確かに調査対象の天野川流星というなら私はここに姿を見せないし、干渉もしなかったでしょう。ですが今、私の目の前に立っておられる方はレオ様なんです。と、なれば話は全く別物です」


「俺はそんなの、全く望んでねえ!」


「いえいえ、どうか気になさらないでください。そもそも調査対象の監視は私の義務なんです。それに中身が入れ替わっている等という異常事態であれば尚更、対象の傍で監視を強化しなければなりませんから」


 言いながら躙り寄り、人差し指でレオの唇を軽く押さえた時、屋上の扉が勢いよく開け離れる。


「あ、天野川から離れろよ!」


 息せき切って言い放つその声は桃子の物であった。


「おや? 良くこの場所が分かりましたね? 貴方もレオ様の崇高なる力を感じ取れるのでしょうか? だとすれば危険分子です。なれば――」


 レオの「待て!」という心の声よりも早くメリッサが目の前から消えた。


「早々に排除しないといけませんねえっ!」


 勢いよく床を蹴って、体を捻りながら振り切った左足が容赦なく桃子を襲う。「決まった!」と心の中でほくそ笑むメリッサだったが、それは見事に裏切られた。


「何っ!?」


挿絵(By みてみん)


 桃子が右足を高々と上げて、その攻撃を相殺していたからだ。掛け合わせた片足同士を力比べをする様に押し合いながら、お互い一歩も譲らず、そのままの姿勢で制止している。


「ほう、貴方。異国の者にしてはなかなからやりますね……!」


「ふん、お前こそ、随分キレのある良い回し蹴りをしてくるな……!」


 互いが見つめ合い「ふふふふ……」と不気味な笑みを掛け合っている中でレオは真剣に考えていた。


――お前等、うさぎさんと、くまさんが丸見えなんだが。


 右目にうさぎ、左目にくまを映しながらレオは金縛状態になり、その場から一歩も動けないのであった。  


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