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ハーレムは寝て待て  作者: 紗夢猫
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第十五話 桃子とのデート~後編

「よし、じゃあ……今度はこのお店に入ってみようか!」


 桃子はすっかり普段の自分を取り戻し、目を輝かせながらタブは引っ張りまわしていた。


――ふん。女の子らしい表情しやがって。いや、らしいって桃子は無論女なのだが、何というか、普段見せない顔っていうか、いや、さっきから何言ってんだ俺。


 タブは自分のおかしな思考に戸惑っていた。


「私、こういう所に入ったことって無かったんだよねえ……」


 そう言った桃子に気付いたタブは、頭上に掲げられたいかにも楽しそうな看板の文字を読み取る。


――ゲーム……コーナーだと?。


 腕を引っ張られながら、中に引き摺り込まれた先でタブが見た物は、これでもかという大音響に覆われ、数多く並べられた液晶画面の前で、銃を握った者が、襲い掛かって来る怪物を打ち倒したり、不思議な乗り物に乗った者が、操縦桿らしき物を必死に操っていたりと、それはとても不思議な空間であった。


「ね! 天野川、私あれやってみたい!」


 桃子の指差す先は、大きな器の中に縫いぐるみが沢山入っており、操作する者が上下左右のボタン押しながら、中のアームで、その縫いぐるみを掴む、所謂「クレーンゲーム」と呼ばれる物だった。


――ふうん。縫いぐるみを掴んで、奥の穴に落とおせばいいのか。縫いぐるみねえ……縫いぐる……みいっ!?。


「あれ? この子、何処かあいつに似てる気がするのだけど?」


――確かに、俺に似てる気がするな……。


 クレーンゲームに入っている縫いぐるみ――ぷく丸くんは、何処からどう見ても夢空間に現れたタブと瓜二つであった。違う箇所と言えば、頭のゴーグルが無いだけだ。


「うーん……あいつ、やっぱり怪しいな。天野川もそう思う? って、分からないか? 今度会ったら問い詰めてやろっと!」


 鼻息を荒くして桃子は拳を握って見せた。


「……でも、コレ欲しいな。取れないかな?」


 と言って何処かに消えた桃子は両手で軽く掬える位、百円玉を両替して戻ってきた。見た所、おおよそ二千円分位あるのではなかろうか。


 「いざ!」と言ってから「あれ?」、「おろ?」、「もうっ!」と発する言葉と均等に徐々に百円玉も減って行く。タブが横目で状態を確認すると、典型的なカモ狙いの配置で、やる気を奪われた状態のアームの力では、まずあのぷく丸くんを桃子が獲得する事は叶わないだろうと理解出来た。


 そんな桃子が一生懸命ぷく丸くんと格闘している様を店員達が哀れむような顔をしながら見つめている事に気付いたタブはまた耳に集中し、店員達の声を拾い始めた。


「あーあ。あの子絶対取れないのに、あんなにお金使って、可哀想だな」


 首を横に振りながら同情する店員A。


「うーむ。本来なら取りやすい様に配置換えしてあげるんだが、今日は巡回専門の『鬼』リーダーが入ってるからな」


 と、店員Bが横目で、直ぐ近くで桃子の様子を見ているリーダーに目を向けた。


「ふふ。残念でしたね、お嬢さん。今日今此処にこの私が居合わせたのが運の尽き。私の景品配置は完璧だ。人気商品のぷく丸くんは投資するだけして貰って、お帰りになって頂こうか」


 リーダーが四角い眼鏡のに手を当て、怪しい光を放つ。


――ちっ。汚い真似しやがって! そっちがその気ならこっちにも考えがあるぜ!。


「あうう……お小遣いが」


 桃子が最後の硬貨を投入し、半ば絶望な顔をしてボタンに手を掛けようとした時、タブはその反対側へと移動した。アームがぷく丸くんを必死で捕えようと手を広げ始めたその時――。


「お願い! その子を捕まえて!」


 神頼みの桃子。


「素晴らしい……本来なら完璧にキャッチ出来たのでしょうが、本日のアームの力はレベル一です。絶対に取れませんよ!」


 不敵な笑いをリーダーが漏らしたその時、タブが小声で詠唱を始めた。


「これより我が名、天野川流星の名を以て、己の力を示さん。器の中に縛られし者よ、その力を解放し我に応えよ」


「リベレクザリフ」


 刹那、アームから一瞬赤い光がぽうっと灯った後、何体も巧みに重なり合ったぷく丸くんを巻き込みながら、掴んでいたぷくまる君をしっかりと抱え上げた。


「そっ! そんな馬鹿なあっ!」


 遠くで、リーダーの奇声が上がると、店員からは「おおっ!?」と感心の声が上がった。


ごとん。


『景品ゲット! おめでとうございます!』


 クレーンゲームからお祝いの言葉と同時にぷく丸くんが取り出し口に落ちてきた。


「嘘っ!? うっ、嬉しい! 本当に取れたよ!」


「ううっ……お客様、お、おめでとうございます」


 悔し涙ながらに、入れ物の袋を手渡すリーダーの後ろで、頷きながら小さく拍手を送る店員AとB。


「天野川、見て見て、ほらっ! あいつ――じゃなかった! ぷく丸くんゲットしたよ!」


 嬉しそうにぷく丸くんをその胸に抱きながら傍に駆け寄って、くるくると踊り出す桃子を見ながら、とても優しい気持ちに包まれたタブだが、先程の詠唱に少し疑問を感じ始めていた。


――今の力、あれは流星のものじゃねえ。さっきのは「俺の」力そのものだ。一体どういう事だ? 流星になった事で俺の力が回復しつつあるのか?。


 その思考は、いきなり耳に飛び込んで来た予想だにしない桃子の悲鳴によって遮られた。我に返ったタブがその方向を見た時、ぷく丸君が何者かの手によって取り上げられていたのだ。


「な、何するんだよ! そいつをを返せよ! それは私のだ!」


 桃子は動揺した声で必死に手を伸ばすも、先程の女を含め、五人の不良達が、嘲笑いながら次から次へと「ほらよ」と手渡していく。そして人相の悪そうな女がぷく丸くんを掴むと意地悪に言い放った。


「こいつにさっきしこたま金突っ込んだけど、ぜんっぜん取れなかったのよねえ。丁度いいや、これはウチが貰う事にするわ」


「なっ!? 何言ってやがる! それはさっき、私が一生懸命取って――」


「うるせえよ、お前」


 桃子が強気に反論しようとした時、その女の男なのだろうか、ナイフを片手に、間に割り込んできた。空手の大会を目指している桃子は、ナイフの刃先が鈍い光を放とうが、恐れるという事は無かったが、この事が問題となって学校にでも知れたりしたら……という思考が邪魔をして、握り締めた両拳を悔しそうに震わせる事しか出来なかった。


 そんな中、桃子に言ってはならない事を女が本人を目の前にして遂に口に出す。


「あんたさぁ……自分の姿、鏡で見たのかい? ほんと、ダサダサな格好しちゃってさ、一緒に連れて歩く男の方も恥ずかしったらありゃしないだろうねえ」


――っ!?。


 今度は男がナイフをちらつかせ、タブを見て嘲笑いながら近寄ってくる。


「見ろよ、彼氏の方はびびって固まっちまったぜ? 本当お似合いだぜ、モヤシ男に、ダサ女。で、お前さ、何で言ってやんなかったんだ? お前と歩くとこっちが迷惑するってよ! ひゃーっはっはっ!」


「え……わ、私が迷惑……?」


 恐る恐るタブを見つめる桃子に更に追い打ちがかかった。


「なーんか、この縫いぐるみもダサダサに感じてきたわ。もう要らないから返してあげる」


 女がそう言いながら男に手渡し、受け取った男は無造作に掴むと、持っていたナイフでぷく丸くんを無残に切り刻み、目の前に放り投げた後、桃子の心に止めを刺す。


「お前それで、お洒落したつもりか? 馬鹿じゃねえの? ダサ女に黙って付いていくお前もお前だけどよ、女は選んだ方がいいぜ? ひゃーっはっは!」


 高笑いした男が、ぷく丸くんを踏みつけ、遠くへ蹴飛ばした。


「わ、私、そんな事、ぜ、全然、き、気付かなくて……知らない内に、ずっと今まで、あ、天野川に迷惑かけてたのか……!」


 涙を浮かべ、朦朧としながら震える声を漏らした桃子は、その場を駆けだして行った。


「ばーか、ダサい上に目ざわりなんだよ、嬉しそうに縫いぐるみなんか持って燥ぎやがって!」


 女が不愉快そうな口調で言った。


「あーあ。逃げちゃったぜ、お前のダサ彼女。どうするよお前? 何なら俺らと遊んで行くか?」


 タブは蹴とばされ、ぼろ雑巾の様に変わり果ててしまったぷく丸君を、静かに拾い上げた。


「痛え、もの凄く痛え……」


 そして、苦しそうに口を開く。


「ああ? まだ俺にボコられて無いのに何いってんの、お前?」


「痛えんだよ、俺の此処が! バキンバキンって、物凄くいてええんだよおおっ!!」


「な!? 何だ、こいつ急に――!?」


 その時、周りのゲーム機の液晶画面が火花を散らしながら全て吹き飛び、煙の中でタブの両目が鋭く光った。


「よくもやってくれたな、てめえ……決して傷つけてはならない女を傷つけやがった……もう少し、このまま……あいつの、あんな嬉しそうな、あんな幸せそうな笑顔を見て終われる所だったのに……」


 男のナイフを左手で鷲掴むと根元からそのまま圧し折り、タブの手からぽたぽたと血の滴が零れ始めた。


「ひ、ひいいいっ!?」


「……痛くも痒くもねえんだよ、こんな物はな」


「体で受ける痛みよりも、心で受ける痛みの方がどれだけ重く、もの凄く痛えという事がてめえ等には到底分からねえだろう? ……だから、今から植え付けてやるよ……『恐怖』って奴を」


「……これより我が名、天野川流星の名を以て、己の力を示さん、我の逆鱗に触れた愚かなる者共、汝ら全てを――」


 タブが詠唱した後、床から現れた黒い壁が五人を包囲した。


「ま、何だこの壁は!? び、ビクともしねえ!?」 


「さぁて……しっかりと刻んで貰おうか……」


「ひいっ、た、助け――!!」


 壁の中で眩い閃光が幾度も光り、飛び交っていた断絶魔の叫びは、やがて水を打った様に静かになった。









 

「何処に行きやがった、桃子!」


 タブは桃子の気配を感じ取りながら、その方向に続く階段を懸命に駆け上がる。  


「ここか!」


 扉の前で一旦大きく深呼吸をしたタブは、扉を開けて屋上の何処かにいる桃子をこの目に捉えようと、必死に辺りを見回す。やがて柵を両手で掴み、柵越しに見える周りの風景を悲しそうに見つめている桃子を発見した。


――見つけたぜ! 心配させやがって、こいつ!。


 タブがゆっくりと背後から近付くと、その気配を感じたのだろうか、桃子は踵を返す事も無く、話し掛けてきた。


「天野川か? 今日は本当にごめんな……私、自分の事ばかりで、天野川の気持ちなんてこれっぽちも考えて無かったよ」


――良いんだよ、そんな事は!。


 更に近付こうとするタブに向かって桃子は更に言葉を重ねた。


「もう……いいから、そのまま帰って。男染みた私なんかと居ては駄目だ。私今物凄くダサい女だからさ……」


――だから、そんなことはどうでも良いんだって!。


 今直ぐにでも駆け寄ってそう言ってやりたいがそれが出来ない。ただタブは近付く事しか出来なかった。


「お願いだから来んなよ……もう良いって言ってるだろ? 私、本当に嫌な女なんだ。天野川が何も感じない事を良い事に好き放題言って、その上、私のせいで天野川が良い笑い者になってる事も全然気付けないなんて……本当、馬鹿だ、私――」


――ああっ! 本当、馬鹿だよ! お前は!。 


「……あ、天野川?」


 桃子は自分を柵から引き離し、背後から抱きしめているタブに驚いて、動揺の声を漏らす。


「嘘……天野川、どうしてこんな事を……」


「僕が……そうしたかったから」


 その台詞に驚いた桃子が慌てて振り向いた時には、タブは何時もの無表情に戻っていた。桃子は目を見開いて暫くタブを見つめていたが、やがてぷっと吹き出して笑い出した。


「一瞬だったけど……ありがとな」


 さて、その時のタブの心中だが、実は恐ろしい程、後悔の言葉を繰り返していた。  


――やっちまったあっ! 桃子があんまりも自虐的な言葉を並べやがるから、感情に流されてつい、抱きしめてしまったじゃねえかっ!。


――何だよ! 弱い一面なんか俺に見せるんじゃねえよ! そういうの俺、一番弱いんだって! ピンポイントなんだって! バレてないよな!?。 そ、そうだ! この流れを変える奥の手があった!。


 タブは片手に持っていたぷく丸くんを黙って差し出す。それを見た桃子は驚きの声を上げた。


「え!? こ、これ天野川が取ってきてくれたのか!?」


 その言葉に反応する事もなく、差し出したままタブは黙っていた。


「もの凄く嬉しいよ! 有難う! 天野川!」


 ぷく丸くんを受け取った桃子はそれを高々と掲げる。ちなみにこの縫いぐるみ、タブが不良集団に鉄槌を下した後、修復魔法を使って復元したという事は言う迄も無い。


 この後、桃子はタブを気遣いながら少し間を開けて帰宅にする事にした。タブの方も疲れがピークに達し、今度こそ無事一日が終わると安堵の溜息を吐きながら、桃子の後を付いていく。


 あともう少し。このまま駅で別れれば! ――と、縋る思いで改札口に向かったタブだったが、その寸前で、自分に小走りで走り寄ってくるや否や、問答無用で抱き付いてきた女の出現によって、その期待は見事に裏切られる事になる。


挿絵(By みてみん)


「レオ様! やっと見つけましたあっ!」


 見慣れない軍服を身に纏った女の銀髪が、眩い光を放ちながら広がり、タブの目の前で大きく靡いたのであった。


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