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ハーレムは寝て待て  作者: 紗夢猫
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第十一話 タブ、流星になる

『ほう。来ないと思ってたのだが、まさか本当に来るとは。しかも驚く程早い時間帯とは意外だったな』


 夢の空間に約束通り現れた桃子を見てタブは思わず本音を漏らしてしまう。桃子と約束をしたものの、やはり心の何処かで「来ないかもな」と、半信半疑だったのだ。


「私、こう見えても寝付きはいいんだよ」


「言い換えると、お子様って事だろ」


「……あんた人を見る目が無いと思っていたけど、まさかその通りだったなんて、残念だね」


 自分を信じて貰えなかったのか、それともタブに「お子様」呼ばわりされたのが腹立だしかったのか、桃子は不機嫌そうな顔をして見せた。


「それはさておき、あんたが豪語した強さが本物かどうか、早速試してみようじゃないか」


 桃子は素早く距離を置き、流星と対峙する。 


「ん? どうしたの、早く構えなよ」


「紗月さん、僕は天野川なんだけど、実体じゃないんだ」


「――は? あんたいきなり何を変な事を言いだすんだ?」


『待て待て。そう慌てるな。まずは俺の説明を聞け』


 桃子は流星の立ち位置からは別の所で聞こえてくるタブの声に気付くと、素直に耳を傾けた。


「成程。私の目の前に居るのが天野川の感情が具現化した物で、今は天野川と話しているという事か」


「うん。そうなんだ」


「で、その肝心のタブ様は何処にいるの? さっさと姿を見せたら?」


『俺はさっきから此処にいるぞ!』


「……何処だよ?」


『流星から視線をもっと下に向けろ!』


「――下に? あっ……!」


 桃子は床で胸を張って立っている小さな生き物に気付いた。丸っこいボディの頭の上には何故かゴーグルを装着し、縦長の黒い瞳にまんまるお手々。止めにふっくらとした長い尻尾。


『俺と直接会うのは初めてだな! この俺がタブだ!』


「う、嘘……あんたが、タ、タブなのか!?」


『どうだ! 恐れ入ったか!』


 動揺を見せる桃子にタブは不敵な笑みをして見せるが、タブの考えは大きく外れていた。


――か、可愛い過ぎるっ!。


 そう、桃子は空手の猛者でありながら、自分の部屋は真逆で、窓には可愛らしいいピンクのカーテン、周りの棚にはこれでもかという位の小動物系の縫いぐるみ達の数々。そんな桃子は、詳しく事情を説明し始めるタブに、好奇心一杯で目を輝かせていたのだ。


『それじゃ、先程説明した通り流星とフュージョンするから、ちょっと待ってろ』


「わ、分かった。は、早くしろよ」


――ま、まずいいいっ! 私、天野川の体を好き勝手に操ってる奴は悪そうな顔をした男しか想像してなかったけど……ま、まさかこんな愛くるしい姿をしていたなんて!。 可愛い物大好きの私には、危険すぎるじゃねえの!。


『「フュージョン!」』


 そんな気持ちを他所に、タブ達がフュージョンを完了させ、今度は感情を露わにした流星――タブが身構えた。


「よし! 無敵ヒーロー様の完成だ! さぁ桃子、遠慮はいらねえ! どっからでも掛かってくるがいい!」


「か、掛かって来いって言われても……」


――姿は天野川なんだけど、中身はあの反則的に可愛い姿な訳で……。


「来ないなら、此方から行くぞ」


 タブの動きに目が追いつかない。


「ええっ! ちょっと待って――!」


 等と慌てて身構える桃子の目の前に、タブの足先が迫った。


「――くっ!」


 何とか両腕で受けるも、その反動で大きく下に弾かれた。


――ちょ、コイツ本当に、つ、強い!。


「どうした? 動きにキレがないぞ! そら! そら! そらあっ!」


 次から次へと繰り出される流星の技に重ね、桃子の目には可愛い姿をしたタブが必死にジャンプ、パンチ、キックしている所が脳裏を霞めていた。


――だ、駄目だっ! 天野川を操っているのがあのタブだと思うと、も、萌え死んでしまう!。


「おい桃子、お前やる気があるのか!? 何だ、さっきからその覇気の無さは!」


「ご、御免! ちょっとタンマ! お願いだからっ!」


「な、何だよ、変な女だな……」


 背中を向け、何やら物々と呟き始める桃子。


――私が今戦っているのは、天野川の皮を被った武道の達人! 私が今戦っているのは、天野川の皮を被った――。


「良し! 気合入った! いくよ!」


「おう、どっからでも来な!」


 先程とは違い、良い動きになってきたと感じたタブは少し両腕をあげながら、隙を作って見せた。


「そうだ! 其処から一気に踏み込んでこいっ!」


「や、やあっ!」


――やっぱり、駄目えええっ!。


 掌底を放つ寸前で、桃子はその手を慌てて止めてしまった。


「……おい、桃子。 ふざけてるのか? 何で寸止めしやがった?」


「あ、そ、それは、あ、あんたが……」


「この俺がどうした?」


――か、可愛すぎて攻撃出来ないなんて言える訳がないだろ!。


「何だよ? この俺を投げ飛ばしたあの時のお前は何処にいった? さっきから、変な動きばかりしやがって。こっちは真剣にやってるんだぜ?」


「わ、悪かったわ。こ、今度はちゃんとやるから」


「――もしかして桃子、俺に手加減しているつもりか? それなら心配無用だ。俺が隙を見せない限り、お前の攻撃が当たる事は絶対に無い」


 その言葉がようやく桃子の闘争本能に火点けた様で、タブを見つめる目が鋭くなった。


「……へえ。言うじゃないか」


「やっと、お目覚のようだな」


「じゃあ、それを証明して見せてみろよ!」


 その言葉が言い終わらない内に、桃子は回し蹴りを放つ。


「せいっ! やあっ! てやあっ!」


 その後、連続技で素早く攻めるも、タブはそれをいとも簡単に避けた。


「さっきより多少動きは良くなったが、まだ駄目だ。動作に無駄が多過ぎる」


 余裕さえ思わせるタブの言葉に桃子の頭の血が一気に上昇する。


「言ってな!」


 先程よりも激しく攻めるもタブはそれさえも退屈そうに避けてしまった。


「駄目だ駄目だ、体の重心が偏ってるから一撃一撃に乱れが生じてるんだつーの」


――う、嘘だろ!? 本当に当たらない! 何で全部私の攻撃がかわされる!?。


 手詰まりになった所を見計らって、今度はタブが威圧する様にいい放つ。


「弾切れか? じゃあ、今度は、俺からいくぜ?」


 その場でトントンと数回体を上下させたタブは、桃子の視界から消えてしまった。


――は、早っ! 動きが読めな――。


 と、桃子が思った時には、タブは既に桃子の懐の中で掌底を寸止めしてた。


「ほら、さっきのお返し。これでチャラだ、今度は死ぬ気でかわさないと、怪我するぜ?」


「こっ、このっ――!」


 勢いで繰り出した桃子の正拳を右に紙一重で避けたタブは、直ぐに左足を払い、桃子を前方に大きく崩した。


「おっ! とっ! とっ! とおっ!」


 何とか転倒を免れ、態勢を整える桃子。


「そら。隙ありだ。此方の世界で言うと『技あり』っていう奴だろ?」


「ま、まだ一本になってないっ!」


 ……と虚勢を張った迄はいいが、この後は見るまでもなく良いようにタブにあしらわれ、次第に体力も削られていった桃子はとうとう動けなくなってしまった。


「どうした? これで終わりか? 以外と体力ねえな」


「ぜえっ、ぜえっ、こ、こんなの、ぜっ、す、少し休めば、直ぐに、う、動ける、ぜえっ」


「やれやれ……どうやら、今日は此処までの様だな。ちなみに今感じてる痛みや疲れは、お前が目覚めた時に思いっきり出てくるから楽しみにしとけよ」


「く、悔しいっ! 何で一発も当たらないんだ!?」


「お前な……俺に仕掛けて来る時、両肩に力が入るだろ? そんなの俺にとって『今から攻撃します』って、言ってる様なものだぜ?」


「――!?」


「いいか、俺が戦う時は、相手の微妙な動作の変化や、呼吸の乱れを常に見ている。お前みたいな力任せの技の一方通行ってのは実戦では全く意味を持たない」


「常に自分を実戦の場に置き、稽古だろうが、試合だろうが、『殺るか、殺られるか』だけ考えてやってみな。後は体が勝手に動くから、良く頭に叩き込んでおけよ」


「……その言い方、まるで戦場で何度も戦った様な口ぶりに聞こえて仕方ないが、その容姿からはとても想像出来ないよ」


「さて……どうだろうね」


 真実味を思わせるタブの言葉は重く桃子に圧し掛かり、悔しさの中で、その実力を認めざるしかなかった。


「おっと……帰る前にひとつ忠告しとくぜ。俺の指南で今お休み中のお前は汗だくで『下着までぐっしょり状態』になっている筈だ。戻ったら一度風呂に入ってから着替えて寝るこった」


「わ、分かったよ……ご忠告どうも」


 両頬をリスの様に膨らませ、此処ら立ち去ろうとする桃子の背中に追従の言葉が浴びせられる。


「ちょい待ち。出て行く前にまだ何か言う事があるだろ? ん?」


「うう……し、御指南して頂き、有難うございました」


「はい、良くできました。んじゃまた学校で」


 「お、覚えてろよ!」等とどこぞの三下が吐くような捨て台詞を吐いた桃子は、怒りをぶつけるかの様に思いっきり扉の音を立てて退出していった。


「……相手が桃子でも、指南となれば特に感情の変化は無かったみたいだが……まぁ、いい。ぼちぼちやるさ」


 納得したタブが、「そろそろ戻るか」と、フュージョンを解除しようとした時、扉のレバーが下がると、再び桃子が現れた。


「お、お前、寝るの早過ぎだろ!」


「な、何よ! さっき言っただろ! 私は寝付きがいいんだ! それに言われた通りちゃんとお風呂にも入ってきたんだからな!」


「そうか、そりゃ良かったな。で、何しにまた此処に戻って来た? 今日の指南は御終いってちゃんと言った筈だぜ?」


「そ、それは……あんたが十分強いっていうのは身にしみて分かったから、少しお礼をしに戻って来ただけだよ」


「お礼だと? 一体何の?」


「あ、あんた言ったじゃない……今の自分は天野川の感情が具現化した物だって。だ、だからさほんの少しだけ刺激を――」


 この言葉を聞いた瞬間、タブの両肩が少し震えた。


「そうか。桃子がエロい事を前払いでしてくれるという訳だな?」


「だっ! 誰が! いきなりエロい事なんかする訳ないだろっ!」


「何だ、違うのか、つまらん。ところでお前、エロい事の意味知って言ってるのか?」


 追及するタブの言葉を威嚇する様な鋭い目つきで桃子が睨み付ける。


「……いいから、私に何をして欲しいか言いなよ。下らないことばかり言ってると、ぶっ飛ばすけどな」


「何故だ? 先程のへなちょこな攻撃は、簡単にかわせるんだが、その一撃は確実に食らいそうな気がする」


「……試してみるか?」


「い、いや、遠慮する。そうだな。手始めに軽くハグでもして貰おうか」


「わ、分かったよ、やればいいんだろ、やれば!」


――あれは天野川であって天野川にあらず。集中して桃子! 天野川を裏で操っている可愛い縫いぐるみを抱きしめる感覚でいくのよ!。


 と、割り切りながらタブの背中に手を回し始める桃子。


――これは流星の為であって、決して俺の為なんかじゃあねえ! 私情なんかこれっぽっちも無いんだからな!。


 と、自身を問い正し、納得しようとするタブ。


 やがて抱き合った二人は、連動する様に互いの顔が真っ赤に染まっていく。数秒後、遂に耐え切れなくなった二人が『「駄目だ! やっぱり、恥ずかしいいいいっ!」』と、叫び、お互いを突き飛ばしたその時、タブは眩しい光の中に吸い込まれてしまった。


「うおおっ!」


 奇声を上げながら、跳ね上がる様に布団から飛び起きる。周りを見て、其処が流星の部屋の中である事に気付くと、タブは大きな安堵の溜息を吐いた。


「な、何だ、夢だったのか……しっかし、俺ともあろう者が、あんな女一人に動揺しまくるとは……ん?」


 ――何かがおかしい。タブがその事に気付くのにそう時間は掛からなかった。今要る場所は布団の上、そして自分の手元にあるのは自分が入っていた『器』が見えている。


「おい……これは笑えない冗談だぜ……流星、聞こえるか? 起きろよ、おいってば! 聞こえてるんだろ!?」


 彼方此方と、体のパーツを確かめながら、タブが必死に呼びかけるも流星からの返事は無い。


「嘘だろ……俺が流星になってしまった!」


 予想だにしない展開になったタブは、訳も分からず天井をただ見上げるだけなのであった。


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