炎
薪を一つ一つ並べる。
互いに支え合わせて、中心に新聞紙を重ねる。
バックパックから事前に用意しておいた板と装置を取り出す。紐を巻き付けた縦軸の下を、板の溝に重ね合わせ、横軸にしっかりと手をかける。麻を丸めたものを傍らに置き、深呼吸。
キュッ、キュッ、キュルル。
縦軸の先端が板にこすれる音が響く。黒い粉の炭がどんどん盛り上がっていく。中心に美しい輝きを放つ火種が生まれ、私の眼を魅了させる。
装置を板から放し、麻でくるむようにして火種を手に持つ。そのままそっと、まるでダイヤモンドの優美さに吐息をつくように息を掛ける。
やがて炎がともり、命が宿る。それを薪の中心に移し、しばらく炎を愛でる。いつまでも見ていたいという自分の声を無視して、周囲を気にしながらそこから逃げていった。
さらに素晴らしき輝きを見るために。
「――ここで速報です。先程、D県S市の住宅街で火災が起こりました。この付近では放火が相次いでおり、警察は同一犯の仕業とみて犯人の行方を追っています。目撃情報によると、犯人は原始的な火起こしで放火を行っており、警察関係者からは『元文化センターに勤めていたものが犯人ではないか』という意見も聞かれました。今回の火災も犯人が起こしたものだとすると、これで6件目になります。繰り返します。先程、D県S市の住宅街で――。」




