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第6話

読書感想文がついに終わりました!!


嬉しくてテンションが高いので、今日の話は長めです(笑)

「それで……」


 ライアンが続きを促す。


「それで、俺らは国外退去を余儀なくされた。……日本人っておかしいんだよな。他の国に対しては優しいというか、我慢強いくせに、自分とこの国民には変に厳しい。非戦闘地域へ移動しようとしない者には連盟軍と共同で制裁が下されたんだ。そんな状況にありながらも、国に残ろうとする命知らずなんて血気盛んな若者がほとんどだったし、どっちにしても、そこそこ年のいった人たちは、軍の連中に一度捕まったら振り切るのが困難だったから。かなりの人数が連れて行かれた」




 慎の脳裏に、当時の光景が浮かぶ。


 10歳年上の兄とともに日本に残ることに決めたものの、毎日が恐怖の連続だった。


 灰色の空。耳元を掠める銃弾。地下シェルターの中はいつも人で埋め尽くされていて、悶々とした熱気が漂っていた。自分に良くてくれていた近所の小父さんの胸が、ライフルに貫かれたのも目撃した。



 物陰に隠れて息を殺していた13歳の少年は、体の震えが止まらなかった。



「悲惨だった。力の無い者たちは、1人死に、2人死に……」



 慎の説明を、ライアンは腕組みをして頷きながら聞いていた。

 すなわち、若者が極端に多いこの状況は、日本だからこそ発生したことなのだろう。



「僕らの場合は逆だったな。米ソ戦争に反対した者たちは、ボストンに集結した。老人も含めてみんな…学生たちの将来を守るために、って軍と戦ったんだ。アメリカ人は戦い慣れしてるからね。それに対してかつての日本は……失礼かもしれないけど、外国に隙が多すぎた。連盟軍が必要以上に強気で出たのは、そのせいだったかもね」


「俺も、そう思う。……でも、ラッキーだった面もある。当時すでに日本には、戦場となった故郷から逃げてきた、外国人の若者がたくさん来ていたんだ。知ってるだろ?侵略された諸外国の政府が、将来のある少年たちを優先的に日本に避難させてたこと。6年前まで、日本が一番安全って言われてたからさ。そんなわけで、その人らの協力もあって、意外と連盟軍相手でも戦えたんだよ。……たくさん亡くなったけど、それでも」




 実際、連盟軍にとっての本当の敵はアメリカとソ連だったので、日本には余った兵力しかよこさなかった。爆撃がたまに起こったが、銃撃戦が主。そして、ほぼ完全な学生の国となった今では、軍も大量殺戮を避けているのか、爆撃は全く無くなった。




「しかし……とにかくすごいよ。18歳にして、すでにこの国を治めてるなんてさ。慎が、要は国のリーダーやってるんだろう?」


 ライアンは、慎の背中をバンバンと叩いた。

 戦場の様子を思い出し、少々気落ちしている彼を元気付けるためかもしれない。



「いや、それほどの事でも」


 困ったように笑う慎。


「亮二――隣の県の知事やってる、俺の親友だけど、あいつにもよく助けられて」


「そうは言っても、慎が国を運営してることに違いは無いさ」



「まあ……」



 曖昧にごまかす慎の頭の中には、“霞僚”の存在がちらついている。

 本当に、あいつらには全く頭が上がらないのだ。いい意味でも、悪い意味でも……。


 慎は押し黙り、口を結んだ。眉間に小さくしわが寄り、視線は自信なさげに、徐々にテーブルの端へ移動していく。



 周りにいた学生たちが怪訝そうな顔をする中、湯口だけははっと立ち上がり、慎の横へ駆け寄ってきた。




「知事、あのことは」


 傍でかがみ込み、湯口は慎を見上げる。



「大丈夫だって。ちゃんと黙っとくし、俺はお前が心配するほどにメンタルの弱い人間でもない」


 強めの語調で慎はそう言い、気を取り直すかのように背を正した。



「お言葉ですが、私は知事を心配したことなんてありません」

「そりゃどういう事だ」



 間の抜けたやり取りを聞いて、メアリーとハンナがくすくすと笑う。

 場に和やかさが戻ってきたところで、洋三がやってきた。




「お待ちっ。聞いて驚けよ……天然マグロの刺身だ!」


 うわあ、と目を丸くする、慎と湯口。

 このごろ、海には戦艦が大量に配備されているので、漁業関係者はうかつに近づけないのだ。だから、天然の魚、それもマグロなど、一般人は正月くらいしか食べられない高級品となっている。



 慎は早口でまくし立てた。



「すごいじゃねえですか、洋三さん!ほらお前らも!こんなもん安く食えるなんて、一生のうちにあるかないかだぞ!」


「いやあ、たまたま海岸に打ち上げられたのをうちが競り落として」


 洋三が胸を張る。




 一生にあるかないか、と聞いて他の者たちも食いつくように皿を覗き込んだ。そして艶のある、鮮やかな赤色の身に息を呑む。通りのカフェには似合わない豪華さだ。



「じゃあ、俺が取り分けまーす!」



 嬉々として、慎は箸を取り上げた。


 その時――。





「誰か!止めてください!!!」





 向かいのビルのほうから、女性の叫ぶ声が聞こえてきた。

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