第5話
悲しすぎることに、夏休みも残り1週間。
宿題は溜まっていますが、こっちを優先して更新で(笑)
後半は、再び説明に突入します。
物語のチュートリアルみたいな感じで…。
みなさんも、ボストンの学生たちと一緒にトウキョウの雰囲気を楽しんでください!(とか書いてみる)
その日は、学生たちに街を紹介し、ついでに政治の仕組みなどを説明した。
例えば身近なところでは、国道がモノレールの線路として新しく作り変えられ、移動手段は自動車でなくこちらが主流になったこと。
街の機能のほとんどが、学生たちの働きによって成り立っていること。
世界ではごく稀なことだが、誰でも自分の意見を自由に発信できるということ。
以前のような民主主義は廃止し、半年に一度の選挙で国のリーダーである都知事や、各県の知事を決めていること。
いったん当選が決まれば、任期満了まで彼らが独断で政治を行えること。
そして、通貨や経済の仕組みは、以前とあまり変わっていないことなど、国についての説明は多岐にわたった。
昼前、国道から文京区に降りた慎たちは、駅前の大きなカフェで食事をとることにした。
まだまだ残暑は厳しいが、時折涼しい風が吹いてくるので、外も過ごしやすい。店主のおじさん――洋三が特別に、全員が座れる大きなテーブルを用意してテラスを開放してくれた。
「珍しいわね。若い人ばかりだと思ってたら、意外と年配の方も」
額が禿げ上がった洋三を見て、案内された席に着くなり、率直な感想を口にしたのはメアリーだ。よりによって、彼の目の前で。
「おいおい、俺はまだ若いって思ってるぞ、嬢ちゃん」
「謝りなさいよ、もう」
本当にこの子は困った子で……と、ショートカットの髪を掻きながらぺこりと頭を下げるハンナ。メアリーの親友だが、髪の長く可憐な彼女とは対照的に、見た目はかなり男っぽい。
「あ……ごめんなさいっ!」
本気になって詫びるメアリーに、洋三も苦笑した。
「構わねえさ。よくからかわれる」
快活にそう言って、彼はすっと奥へ引っ込んだ。何でも、今日は学生たちを歓迎して、特別メニューを安価で振舞ってくれるのだと言う。その仕込みだそうだ。
「俺の分もお願いできますかねえ?」
厨房に向かって声をかけた慎には、「アホ!店が破綻するわ!」という怒声が返ってきたが……。
「慎。ボストンも、若者がたくさんいたけど……日本は特に多いんだね。メアリーじゃないけど、あれくらいの年の人って、ここらでは少なくないか?」
店内の様子を首を伸ばして窺いながら、ライアンは訊く。それぞれに喋っていた他の者たちも、確かにそうだと慎に向き直った。約一名、例外は湯口の顔で遊んでいるハンナの弟だけ。
「ああ……昔から、日本人って優柔不断でどっちつかずな傾向があるだろ。だから、連盟軍に国の全面開放を求められたときも、政治家ってのは国益だ体裁だとかこだわって…」
慎は、知っている限りのことを身振り手振りで伝える。
戦争をなるべく早く終わらせるために、国土を基地として提供して欲しい。大戦さえ終われば国に戻れる――軍からそのような言い方をされたので、「将来の平和のためなら仕方がない」と賛成する者が現れた。それに、国を手放したくないと主張したたところで、おいそれと軍が諦めてくれるわけでもない。脅され、時にはなだめられ、すかされ……太平洋戦争の終結から150余年、戦うことよりも逃げることに慣れ過ぎてしまった国民は、結局要求を呑み込んだのだ。