第3話
恐怖の2連続更新です。
小説を書くこと自体久しぶりだし、そもそもここまでややこしい設定のオリジナル小説なんて書いたことがありません。執筆している本人も難しいなーと思ったり(笑)
とりあえず、この時代の日本についての説明は、おいおい作中で明らかになるように…努力します…。
国道新3号線を、モノレールが軽快に走り抜ける。眼下に広がる景色が猛スピードで視界の後ろへ飛んでいくのを、慎は眺めていた。
同じトウキョウといえど、歴史の教科書で見た1世紀前のそれとはまったく違う。狭苦しくあちこちにごった返していたビルは、50年ほど前の大震災をきっかけに、耐震工事のためにすべて取り壊されたと習った。おかげで、今では文明都市という言葉をそのまま形にしたような景観が果ても無く広がっている。
大きく発展を遂げたこの街を見るのが、慎は好きだ。
「湯口。あと、どれくらいだ」
隣に座る、秘書の少女に話しかける。
湯口怜子。髪を二つに結び、眼鏡をかけ、綺麗な白いブラウスに長めのタータンチェックのスカートをはいている彼女は、話に聞く典型的な平成の学級委員の姿だ。
最近の流行は、まるで兵役から帰ってきたばかりであるかのような、しわが入ってところどころ破れた学生服。迷彩柄の鞄や、継ぎ接ぎだらけのシャツもいい。それに対して彼女ときたら、いささか時代遅れの身なりだと、慎はいつも思っている。
「はい。7分と30秒ほどで、羽田空港に到着すると思います」
湯口は、腕時計を見つめながら機械的に答えた。
年は13歳。慎より5つも年下で、小柄な体格。どちらかといえば可愛い顔立ちなのだが、物事を何でも事務的・機械的に処理するあたりが、どうも彼は苦手だ。もちろん、その分仕事は完璧にこなすので、いてもらわないと困る存在でもあるのだが――。
窓から視線を外し、慎は持ってきた書類の束をを確認し始めた。
日曜日の早朝ということもあってか、車内に人は多くない。少なくともこの1号車には、人がまばらに座っているだけだ。周りが静かなので、書類のチェックもしやすい。
「学生…人数は16人。引率は無し…当たり前だな。…公立大学に入学希望。羽田の第3ゲート地下ラウンジにて待機中、か。……忘れ物は、なさそうだな」
「都内アクセスマップ・戸籍新規届出用紙・個人調査票は人数分お持ちですか?それと給付金申し込みの――」
すかさず、湯口がはさむ。
「馬鹿にするんじゃねえ。だてにこの仕事を3年もやっちゃない」
いろいろな事情により、やむなく受け継ぐこととなったこの地位だが、今となっては仕事も板についている。それに、何の人徳があってか、今まで一度も支持率が下落したことは無い。
「ですが、1年と3ヶ月前、バンクーバーから学生様がいらっしゃったとき、知事は書類を全部お忘れになりました」
それを指摘されて、慎の口元がへの字になった。そんな昔のことまで覚えているのか。
「あの時は急だったんだ。それに、オキナワへ行かせた調達隊が戻ってきたばかりで慌ただしかったし」
「知事の悪い癖です。都合が悪くなるとそのように――」
また、湯口の長い説教が始まる。慎が足を組みなおしたとき、車内にアナウンスが流れた。
《お知らせします。まもなく、私営羽田空港に到着いたします。繰り返します……》
「おっ。着いたみたいだな」
慎は即座に立ち上がり、乗降口の前へ移動する。そして、停車と同時にプラットホームに飛び降りた。
「ちょっと、知事!」
口元を尖らせ、後から湯口が小走りについて来る。それを横目で確認すると、慎はさっそうと歩いて空港の内部へと入っていった。