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中二階の勇者様 (表)  作者: 大恵
嘘と迷子の魔王
97/106

すっとぼけの魔王

やっと説明回です。


 野盗の頭目ミンセンはあっさりと捕まった。

 荷物用のロープでぐるぐる巻きに縛り上げられ、腰紐をソゥズに握られてたき火の前に座らされている。


「私、結構いい動きしてたと思うんですけどねぇ。どう思います?」

「あの……い、今は話しかけないでください」

 背後の物陰でスカートをこそこそ履く晶に、やけに神妙なミンセンが感情の無い声で問いかけた。

 誰もいない公園でリストラされたおじさんのように、ミンセンの独り言のような言葉が続く。


「あ、こいつヤバいなって思ったんですよ。すぐに……ええ、すぐに。目にも止まらない速さで咄嗟に飛び込んできた動き。ナイフは掴めなかったが、その肌に跡も残さず刃の通らない謎の状況。いやもうね、ここですぐ逃げ出してもいいけど、あえて様子を見ましたよ。こんなわけわかんない状況で、背中を向けたら何が起こるかわからないでしょう。そしたらね、すぐに隙がありましたよ。ここのソゥズ君になんか食ってかかり始めたし。これならいけるなぁっと、音もなく出る俺謹製特殊調合の煙幕を張って一気に遁走。ダミーの荷物を草むらに放り込んで音を立て、俺は家屋の影に素早く滑り込む。やったぜ、見られてない、完璧だ。――それをなんなの、キミ。超機動で消えながら走ってきたよね。いや、あれ走ってないよね? なんていうか消えて現れて……。それからね、あとそもそもこっち見てなかったキミがなんで俺の居場所を迷わず見つけたの? 目、どこに付いてるの? 背中? お尻? なんなのキミ?」


「あ、ごめんなさい。半分くらいしか聞いてませんでした」

 スカートを履き終え、裾を正しながら晶が物陰から出てきた。晶も結構ひどいことを言うもんである。


「いやいいよ、もう。うん。もういいや。でさ、あのウソみたいな動きはなんだい? あんた魔王なの?」


「魔王?」

 中二階で聞きなれた言葉を聞いて、晶は眉を潜めた。たしかティディアの世界はカテゴリーが低かった。魔王の影も形もない。


「あーあ。ウソもつかずに人を騙せるテクニックを手に入れて、やべー俺様、魔王でも名乗っちゃおうかな。なんて調子ノってたさっきまでの俺が恥ずかしいよ。俺以外にこんなウソつきがとんでもない能力を持ってるなんて誰が想像できる? なあソゥズ?」

「いや、俺に訊かれても……」

 不意に話を振られて、ソゥズは困ったように身を縮めた。

 

「お嬢ちゃん。あんた、ほんと何モンなんだ? ウソをついてるだろ? それなのに見たところ大きな火傷の跡はない。それからその能力なんなの? 気になってこれから眠れねーよ」

「この捕まってる状態で眠る気なのか、この人……」

 ミンセンの図々しさにソゥズが呆れた。


「あのー、ボクがウソつきってどういう……こと?」

 この世界でソゥズやワァンズたちと会話して感じた違和感。やたらと晶の話を疑わない……いや、頭ごなしに信用する人たち。ウソをつくわけがない。という前提が感じられる。

 事実、ソゥズもポゥンズも「この歳になってウソをつくをはずがない」などと断言している。


「ウソをついたことがないのか? そりゃお嬢ちゃんの綺麗な肌にそんな後はみえないが……。ウソをついても無事ってなら魔王なんだろうが……」

 ――ウソをつくと跡が付く? ウソをついても無事なら魔王? 晶はミンセンの言っている意味が分からなくて首を捻った。


「そりゃスカートを履き忘れたお嬢ちゃんパンツ」「忘れて」「の中に火傷があったら分からんが……。見たとこそのちっぱいにも」「み、見たの!」「火傷の跡はなかった。あとは背中くらいだが」「やだ! 全部見る気っ!」

「いや、そんな貧相なの見んがな」

「誰が貧相っ! ボクまだ13ですから! まだ育つんだから!」

「え? 10歳くらいじゃないの?」

 年齢が低く見られて晶はショックを受けた。低身長のせいで男として年齢を低く見られることは多かったが、女として低年齢に見られることはなかった。


 ――それはともかく。

 気を取り直して晶は考えを纏める。

 はっきり言ってミンセンの言っていることが理解できない。ぼんやりとウソへの認識が他の世界と違うということは分かるが、どうにも判然としない。ウソと魔王がどのように繋がるのかも皆目見当がつかない。

 あまりに不確かで不明瞭な状況。これ以上、隠していていては重要な情報を逃すと思った晶は――


「信じられないかもしれませんが……」

 と切り出し中二階の具体的な内容は避け、異世界から事故でこの世界にたどり着いたことを説明した。

 そして自己紹介で出身国を偽った瞬間、体が焼けるような衝撃を受けて偽りの記憶を得たことも伝える。

 神妙に聞いていたミンセンが深く重々しく頷く。


「もしウソをつける魔王でないなら……真実なんだろうな」

「オレは姐さんを信じます」

 ソゥズは思った通り信じてくれた。野盗の頭目であるミンセンも理解を示している。


「その『信じられないかもしれませんが……』なぁんて余計な言い回しも初めて聞いた。本当にもしかしたらこの世界……少なくてもここの常識とは違うところの人間じゃぁなんだろう」

「はい。それにボクの世界はウソを言うだけなら特に問題はありません。確かに好まれないことですし、犯罪になる場合もありますが……」

 

「なるほど。そりゃぁ――。もしもあんたの作り話だとしたら……。この世界の人間が考えるような話じゃない。正気じゃないか、他の世界の人間って気がするぜ」

 ミンセンは暫定的ながら晶の話を事実としてくれたようだ。


「じゃあどこから説明したらいいか。やっぱり天罰の火についてからかな……」

 ミンセンはワァンズとは違った理知的な目を向け、晶にこの世界について語った。

 その説明を聞いて、晶は何度も驚いた。

 

 この世界はウソを付けない。ウソをつくと神様が天罰の火を落としてウソつきを焼いてしまうという。

 ただし子供のころは小さな火傷で済む。――とはいえ、それが重ねれば子供はやがて懲りて、ウソをつくことが無くなってしまう。

 そうして大人になるまでに、ほとんどの人がウソをつかなくなる。

 それでもウソをつき続けると年齢があがるにつれて天罰の火は大きくなり、いずれは命を奪うほどの火勢に至るらしい。

 ウソを病的につく人は、天罰によって長生きできない。

 この世界はそういう風に出来ている。

 晶はそのように理解した。


 補足でソゥズが顔の火傷は10歳の時にできたウソの跡だと言った。

 10歳の子供であれほどの火傷だ。傷跡もひどいが、感染症で死んでもおかしくないレベルである。


 しかしながら、その天罰の火が落ちるウソにも条件がいろいろとあるらしい。正確なことは神官など神の理を詳しく知るものでないと分からないらしいが、主に「自分が関係する」ウソをつけないという。

 それから「当初は騙す気がなかった」という場合。例えば「借りた金を返す」というのは、本心で返す気あれば天罰の火は落ちてこない。あとでどうしようもない理由で返せない場合も天罰の火は落ちないという。


「そんな世界でも、ウソをつける唯一の存在があると言われてる。それが魔王。すっとぼけの魔王エクセンプラル・ネスキオと飛ばれるおとぎ話の住人さ」

 晶はミンセンの火傷に覆われた顔を見つめて小さく頷き、魔王について先を話すよう促した。


「魔王はどんなウソもつける。そしてそれを本当にしてしまう。ウソが本当になる。それが魔王の力だ」

 それを聞いて、はたとあることに晶は気が付いた。


「あ、あれ? ボクはウソをいったらその記憶が頭に……。つまり本当になったってこと! ボクが魔王……。ち、違いますよ!! ボクは魔王じゃないですから!」

 必死に否定する晶を見つめ、ミンセンは安心しろと微笑を浮かべて見せた。


「ああ、わかってる。魔王じゃないだろうな。魔王だったら「自分は魔王じゃない」なんてウソはつかない。魔王の言ったウソは、なんでも本当になるんだ。それじゃあ『魔王じゃなくなっちまう』だろ?」

 確かに――。晶はもっともだと頷いた。

 ウソのパラドックスを言うと、魔王は魔王でなくなり本当にウソつきでも魔王でもない存在になってしまう。

 この世界の魔王は、不思議な魔王だ。


「たぶん……だが、魔王がウソを付けるんじゃなくて、ウソをついても天罰の火を受けない場合は『真実』になるんだろう。あんたは火を受けなかったから、ウソが本当になった。そう考える」

 ミンセンの推測に晶は素直に感心した。

 彼に出会わなければ……。ウソと魔王の情報を聞かなければ……。そして彼の推測とはいえ、ウソが本当になる事象の解を言わなければ。

 晶はこの世界でとんでもない失敗をしたことだろう。


「ミンセンさん。ボクはあなたに会えて本当に良かった。ありがとうございます」

「そうかい。お嬢ちゃんみたいな娘に言って貰えたら光栄だね」

 晶に感謝の言葉を告げられ、ミンセンも悪い気はしないようだ。

 嬉しそうに肩を震わせている。


「まあ名残惜しいけど、明日にはそんなミンセンさんを警備兵に引き渡すンですけどね」

「切ねぇっぞっ!!」

 信頼関係を築き上げた良い雰囲気をソゥズがぶち壊し、ミンセンが暁の空に怒号を張り上げた。


かっこよく出した(つもりの)ミンセンですが、コメディリリーフです。


10/14 いろいろごじしゅうせい。

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