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中二階の勇者様 (表)  作者: 大恵
歯車の少女と無視する少年
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魅惑の新入生

「瞬間転移で戻ってもいいが、このまま飛んで帰ろうか?」

 晶が怖がらない様なので、ヴァネイは空中散歩を提案した。 胸の中で頷く晶を、さらに強く抱きしめてヴァネイは下降する。

 瞬間転移した時に、周囲の空気も念動力で固定して一緒に持ってきたので気圧変化の影響は無い。しかし、絶えず吹く冷たい風を完全に防ぐ事は出来ないので、ヴァネイも少し肌寒さを感じて晶の温もりを得ようとさらに身体を密着させた。


(しかし……本当に男の子なのか? この柔らかさといい香りといい……)

 年頃の女性に抱かれ恥じらいながらも、無邪気に空中散歩を喜んでいる愛らしい晶を見ると、もう一度、彼? の男性自身を確認したくなる。


「ヴァネイさん。あの白い大きい建物が学園ですか?」


「え? ……ああ、あれは女神アメンテスの住まう宮殿だ」

 晶の質問で正気に戻ったヴァネイは、慌てて彼の臀部に伸ばしていた手を引いた。


 晶は下半身に忍び寄っていた危険も知らず、異世界の光景に夢中になっている。


(さっきまでは私の胸にたじろいでいたのに……)

 と、少しヴァネイは残念に思った。


 ゆっくり下降しつつ、だがなるべく室内から持ち出した気圧が下がりきらないうちに目的地を目指す。

 瞬間転移する前にいた学園は、スッムスの塔北側にある。


「あれが我々の学び舎、エイテネ学園だ」

 赤いスレート瓦の屋根が特徴的な木造校舎だ。

 規模は大きく教育施設と寮など生活施設まで含めると、ちょっとした街くらいの広さがある。


「わぁ、おっきいですねぇー」

 空中散歩にも慣れたのか、もう晶に緊張の色はない。

 晶は周囲の街を見るため首をめぐらし、ヴァネイの柔らかく豊かな胸をぽわんと揺らせた。


「あ、ご、ごごごめんなさい!」


「ふふっ、かままわんよ」

 真っ赤になって必死に謝る姿を見るだけで、ヴァネイは胸が熱くなった。これが母性といものだろうか? と、初めての感覚に戸惑いながらも、ヴァネイは嬉しくなった。


「ほら、学園を包む学下町も素晴らしいものだろう」

 ヴァネイは学園から南に広がる町を指差した。

 カラフルな屋根とパステル調の塗り壁が、ブロックのように立ち並んで街を形作っている。

 町全体は丸い形をしているらしく、ピザの切り分けのように区画が分けられている。


「わあっ、ヨーロッパみたいだ」

 やたら大雑把な感想だ。ちょっとおつむが足りない感想のようだが、地球の町以外を知らないのだから仕方のないことかもしれない。


「その向こう。エイテネの西に見えるコンクリートの街だが、あれはリュドミラ学園の街だ。君の世界ならあちらの方が馴染みがあるだろう」

 ヴァネイの指し示す方向には、無味無乾燥な街並みがあり、その中心には飾り気のない日本の学校や、団地に似た校舎が立ち並んでいる。

 町全体は丸い形をしているらしく、ピザの切り分けのように区画が分けられている。その区画ごとに、町の有様が大きく異なっている。


「別の学園だと、ずいぶん雰囲気が違うんですね」


「学園に合わせた町造りをしているからね。世界を救うのは剣や魔法、ましてや異能の力だけではないからね。リュドミラ学園は銃戦闘や軍団戦に特化した教育を行なっている。東に見えるガラス張りの街は政治経済を中心とした教育過程が特徴だ」


「……戦う力だけではないんですね」

 晶は神妙に頷いた。


「そうだ。敵を倒す力だけではなく、人を集める力や影から支えるような能力も私たちには必要なのさ」

 ヴァネイはエイテネ学園の中心部で高度を下げると、五階建ての塔の外壁に近づき、念動力で最上階の窓を開けた。

 晶を抱えて、ヴァネイはその窓から颯爽と室内に飛び込む。そこは先ほどまで晶たちが居た薄暗い部屋だ。


「……おかえりなさい」

 出迎えたラズは、何故か下着姿で立っていた。

 晶はラズの身体から慌てて視線を逸らし、謀らずも顔がヴァネイの胸へと埋まる。


「一応、聞くが……いや聞きたくないのだが聞かねばならぬので……。君は何故、半裸なんだい?」

 ヴァネイは晶の顔を胸に埋没させたまま、ラズに事の次第を尋ねる。


「……晶タンはパジャマ姿。男の子だから女装させないと学内を連れ歩けない。……だから、体格の近いワタシの制服を着させる。ワタシ嬉しい。……男の娘がワタシの服を着るなんて興奮する。返して貰ってそれを着たら、きっとワタシは新しいワタシになれる」


「晶くん。こんな事もあろうかとゲート委員は制服を様々なサイズで用意している。場合によっては全裸の婦女子を召喚してしまう場合があるからね。では、隣のドレッサールームに案内しよう」


「……くすん。脱ぎ損……。でも晶タンに見てもらえた」

 変態なラズを捨て置き、ヴァネイは晶の顔を胸に収めたまま隣の部屋に向かう。


「ティディ。悪いが召喚ゲートの後片付けを頼む。私は晶くんを一先ず女そ……着替えさせる。ライラとスフェイラも手伝ってくれ」


「分かりました、ヴァネイ様」

 ヴァネイの指示で、ティディは二人のゲート委員共に、部屋の中を片付け始めた。


「ラズ。君も念の為、アメンテス様への挨拶に付いてきてくれ」


「……分かった」


「制服を着てな」


「……せっかく脱いだのに」

 ラズは不承不承、制服を身に付け始めた。


 晶はドレッサールームに連れ込まれ、ヴァネイから制服を手渡される。もちろん、女子生徒用の制服だ。

 濃い赤を基調とし、スカートはやや短めにデザインされている。


「すまないが、女の子の振りをしてくれないか? 勝手に呼び出して手違いがあった我々が悪いのだが、この世界は男子禁制だ。天地過去未来、男がこの世界にいた事はない。それはこの世界を作った女神が……そのなんていうか男嫌い……というか、とにかく男とバレると良くないんだ。君にとっても」

 ヴァネイの表情に、困惑が浮かんでいる。


「分かりました。……慣れてますし、僕」


「……そうか、慣れているのか」


「ち、違いますよ、僕の意志じゃなくて、姉様や幼馴染が無理矢理に……」


「君の姉様の気持ちも分からんでもないな。……ではさっそく着替えてくれたまえ。サイズが合わなければ前後のサイズがそこの棚にある」

 ヴァネイはドレッサールームを退出した。

 ゲートの後片付けをしているティディたちの様子を眺め、晶が着替えて出てくるのを待つ。ラズは何かブツブツといいながら、ゆっくりと制服を着ている。

 緩慢としたラズが制服を着終えた頃、ドレッサールームから一人の美少女が、おずおずとしながら姿を現した。


「あ、あの……おかしくないですか?」

 晶は短いスカートを気にしながら、身を硬くしている。羞恥心がエッセンスとなり、とても男の子には見えない。


「……ワタシがおかしくなりそう」


「ラズ、君は黙ってろ。い、いや晶くん。とても似合ってるよ。妖精か女神かと見惚れるほどだ」

 ヴァネイの褒め言葉を聞いても、晶は嬉しい訳ではない。しかし、悪い気もしない。

 そんな複雑な気持ちが表に出て、蠱惑的な微笑を浮かべた。


「う、あ、晶くん……」

 ヴァネイが毅然とした態度を崩し、左胸を抑えてたじろいた。


「……ハァハァ、晶タン。……まるで誘蛾灯。ワタシ、萌え尽きる」

 ラズが内股になって、息を荒くした。

 

 ゲートの片付けをしていたティディたちも、手を止めて晶の美貌に見惚れていた。


「や、やっぱりダメですか?」

 晶は赤くなる顔を両手で覆った。


「いやいやそんな事をはないぞ、晶くん。じ、自信を持て!」

 男の子へ向かって、女装に自信を持てとは失言以外なんでもない。

 晶は汚れの無い瞳を潤ませて、ヴァネイを見上げた。


「僕、変じゃない?」


「変じゃない。誰もそんな風には思わないよ」

 冷静さを取り戻したヴァネイは、晶の頬をそっと撫でて涙を指先で拭った。一見、ヴァネイは落ち着きを取り戻したようだが、明らかに晶の美貌に魅了された目をしている。


「……ワタシが変になりそう」

 ラズも魅了されている。完全に堕ちている。


「さあ、まずはアメンテス様にご挨拶だ。細かい説明や対策はそれからしよう。アメンテス様は学園中央校舎の女神像から連絡出来る。そこへ案内する」

 ヴァネイは晶の手を取り、部屋の外に連れ出した。

 ラズも身をくねらせながら、その後を追う。


 塔の外に出ると、周囲にいたエイテネ学園の生徒たちが晶に視線を飛ばした。


「ヴァネイ様の隣にいる方はどなたかしら?」「とても……可愛らしい」「ゲート塔から出てきたのですから、新入生ですわ」「何故かしら……どこか見慣れぬ……久しく忘れていた何かを感じる美しさの子ね」


 衆目を集め、萎縮する晶。その姿すら可愛いと賞賛するエイテネの女子生徒たち。


「ははっ。これは美の化身降臨といったところかな」


 ヴァネイは中央校舎に視線を投げ、悩ましいとばかりに額に手を当てた。

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