中二階(メザニーン) ★
世界説明と一部キャラ紹介です。
ギャグのために六人も女の子出すんじゃなかった……
「ボク! 男の子です!」
晶の訴えを聞いて、六人の少女は我が耳を疑った。
誰もが「ご冗談を」と、思っていたが、背の高い少女は抱き寄せた晶の下半身へと手を伸ばす。
彼女の顔は至って真面目だ。いやらしさなどない。しかし遠慮がちな手付きは、晶に無用な刺激を与えた。
「ん……や……めっ」
顔を赤らめて足を閉じ、身を守る姿はまさに恥じらう乙女。
見守る五人の少女は、晶を女の子であると確信した。
が……。
背の高い少女だけ、表情が硬い。優しい抱擁にも思わず力が入り、晶は「く……痛」などとなまめかしく身を捩る。
「……ある」
引きつった表情で、背の高い少女が呟く。
「何がですが? ヴァネイ様」
ふわふわとした巻き髪の少女は、背の高い少女をヴァネイと呼び問い掛ける。
「何かある」
「何がどこに?」
「初めて触れるナニかがこの子の……にある」
「や、やめてください……。そんな……に、強く……ダメ……」
紅潮し息も絶え絶えの晶から、ヴィネイはよろめきつつ離れて叫んだ。
「この子、男の子だ!」
「ええーっ!?」
ヴィネイの表情から本当の事だと悟った少女たちは、驚愕の声を狭い室内に木霊させた。
「か、会長に連絡を……」
メガネをかけた黒髪のキリリとした少女が、慌てて携帯電話を取り出し電話をかける。
「え、えっとぉ……。お、男の子召喚なう……?」
クルクルカールの甘い印象の女の子がスマートフォンを出してツィートを慌てて入力する。
「わ、わたくし、飛字は苦手なのですが……」
巻き髪の女の子がたどたどしい手付きで、空中に光る文字を書き記していて、晶は魔法のような光景に驚いた。
「す、すぐに最寄りの教師か生徒会長に連絡してください」
ベリーショートの真面目そうな女の子が、何匹もの白いネズミに言い聞かせている。
「……う、が……ぎごご。ピーヒョロロロ~……、ぐがごっ!」
無表情な女の子が、白目を向いて、首をかくかくとさせながら何か電波を送受信していた。
「うわっ、怖っ!」
晶は紅潮させていた顔を、今度は青くさせた。
「ま、まて! 待つんだ君たち! ティディも飛字を止めるんだ!」
ヴァネイは不思議な字を宙に投げようとしている巻き髪の少女をティディと呼んで、その肩を掴んで制止した。
「連絡をするな! ラズ! その不気味な念話を止めろ!」
ラズと呼ばれた黒髪の少女は、白目をぐるりと回して元の光沢乏しい瞳に戻す。
「ピーごががっ? ……平気。その子と関連した男の娘情報と画像をダウンロードしてただけ。未知の性癖開拓した。男の娘ペロペロ」
「相変わらず君にはブレがないな……」
ヴァネイは呆れ顔で呟いた。
「とにかく、連絡は後だ。こんなイレギュラーは極一部の責任者と上位機関だけに連絡すべきだ。余り拡散するべきじゃない」
ヴァネイは五人にそう言い含め、ティディの肩を抱き寄せた。
肩を抱かれて赤面し硬直するティディの飛字を右手で打ち払う。そして新たに怪しい通信を始めた黒髪の少女の頭を脇で抱えた。
「すまない。いろいろ驚かせてしまったようだね。私はヴァネイ・ヴァイシェーシカ。エイテネ学園のゲート委員の委員長だ。出身世界カテゴリーはE。ランクⅢの超能力者だ。メルドも2ある」
自己紹介を終えたヴァネイの前に、不気味な黒髪の少女がズイと割り込み晶の手を取った。
「……ワタシはラズ・バトゥーミ。同じくエイテネ学園のゲート委員。出身世界はカテゴリーF。魔法使いだけど専門は呪術。ランクはⅢ」
いきなりカテゴリーだのランクだの魔法だの言われ、晶は困惑した表情を見せた。ヴァネイはこれを見て、安心しろと晶の肩を叩いた。
「ここでは隠す必要はない。君の能力は既に調べが付いているよ、八椚 晶クン。君の力はエクストラシンプルパワー。要するに……」
ヴァネイの右目が赤く光る。すると突如、晶が寝ていた石の台座が跳ね起き、ヴァネイたち三人に向かって倒れかかってきた。。
「あ、危ないっ!」
思わず晶は一歩前に出て、倒れる石の台座を両手で支えた。
ミシッと晶の足元が沈み込む。
二トンはあろうかという石の台座をがっしりと支え、晶は難なく押し返して元の位置へ突き返した。
ズンッと腹を叩く音が部屋に響き、晶は胸に手を抱き寄せ、バツが悪そうに周囲を伺った。だが、こんな異様な光景を見ても、六人の少女たちは驚きもしない。
「そう。君の能力はトンデモない力持ち」
ヴァネイがそう告げると、晶の表情が曇る。
「え?」
「おや……? 違ったかい?」
あれだけしたり顔で言った手前、間違っていたら恥ずかしい。書類の不備でもあったかなと、ヴァネイが首を捻る。
「あの……いや、はいそうです」
「そうかよかった」
少し釈然としないが、晶が認めてくれたのでヴァネイはむやみに追及しなかった。なにより彼の能力より、もっと重大な問題点がある。
「まあ、まさか男の子だったとは思わなかったが……。事前資料に問題があったようだね」
悩ましいと嘆息をつきながら、額に手を当てた。
「……アナタのいた世界はカテゴリーGだった。とても平和。だから隠してたのは分かる。でももう安心。ここにいる人は殆どが異能力や魔法を普通に使える」
ラズの言葉で晶は少しだけ心を許した。
「今、台座を持ち上げたのも私の念動力だ。君の世界でも映画や小説などのお話くらいには出てくるだろう?」
超能力をさも当然と見せつけたヴァネイは、晶の世界でどんな内容のエンターテインメントがあるかを知っているようだ。
「君は極親しい人物以外にその力を隠していたようだが、ここでは存分に使えるぞ」
「……みんなチカラを持ってる?」
晶の表情が柔らかくなる。
自分を受け入れてくれる世界があった事が嬉しいといった様子だ。
緊張の溶けた晶の優しい顔に、六人の少女はほうっと見とれた。
「……みんな厨二能力者。でも中二階とは関係ない。語感が似てるだけ」
「あー、何か質問はあるかな?」
何か余計な事を言うラズを後ろに引っ込め、ヴァネイが尋ねる。
「あの……。ここはなんなんですか? カテゴリーとかランクとか魔法とか……」
「カテゴリーとは、各々の世界の深刻度みたいなものだ。カテゴリーAは魔王などの敵や自然災害などで人類が滅亡寸前。Bは危機的状況だが交戦可能。または災害対策が出来る世界。Cは魔王と交戦し拮抗中。または災害から復興してたり克服しようと努力が成功しつつある世界。カテゴリーDは魔王や災害で人類の発展が阻害されている世界」
どうやら異世界を分類するために、カテゴリーという言葉を使っているようだ。
ヴァネイの説明は続く。
「カテゴリーE。これは魔王はいるが人類優勢。または災害を克服したか災害そのものが乏しい世界だ。そしてF。私の世界がかつてそうだったが、魔王は封印されて一応平和な世界だ。災害もたまにはあるが世界に影響を及ぼすほどではない。最後に君のいた世界。カテゴリーG。魔王も存在しないし、人類を滅ぼすような災害など起きたこともなければ起きそうもない世界だ」
AからGを説明し終えると、巻き髪のティディがヴァネイの横にすすっと寄り添った。
「ランクについてはわたくしが説明いたします。申し遅れました。わたくしはエイテネ学園のゲート委員。ティディア・エンクロージア。出身世界のカテゴリーはE。ランクはⅡ」
晶はパジャマの乱れを直し、ティディの鈴を転がすような声に耳を傾ける。
「ランクはこの中二階での実力評価です。一般的に1から6まであり、貴方の世界でいうところの中学校から高校生の学年のようなものです」
「ん?」
晶は意味がよくわからず首を傾げた。
「今の説明で分からないのですの?」
ティディの少し険のある強い目付きが不機嫌に染まる。
「ご、ごめんなさい……」
涙目でしゅんとする晶の仕草を見て、ティディの顔から不機嫌さが吹き飛ぶ。ティディはどうしたらいいか分からないと、困惑顔でヴァネイに救いの眼差しを向けた。
「ティディの説明は間違ってはいないが、資料だと君の世界では年齢で自動的に進学するようだね。だがこの世界は実力勝負。ランクと学年は決して同一ではない。しかしランクは進学や学年分け基準なっているんだよ。この世界では」
ヴァネイの補足説明を聞いて、晶は「なんとなく分かりました」と頷いた。
さらにメルドの説明を受けたが、メルドは世界を救った数だという。ヴァネイは二つの世界を救ったということだ。
晶はカテゴリー、ランク、メルドの説明を聞いてから、もっとも疑問だった事を口にする。
「で、でもここは本当に異世界なんですか?」
「ああそうか。それが一番の疑問だよね」
晶の疑問を聞いて、ヴァネイはなるほどと腕を組んだ。
「……スッムスの塔と学園都市群を見せればいい」
ラズの提案を聞いて、ヴァネイは首肯した。
「よし、それがいい。晶くん。ちょっと力を抜いてくれ」
ヴァネイは自然な動作で、晶を抱き寄せると軽いウィンクをしてみせた。
いくら女の子のようでも、彼は男の子だ。後頭部を抑えられ、ヴァネイの豊満な胸に顔を埋める羽目になれば、大いに戸惑う。
「あ、あの……その、胸」
「ん? 柔らかいだろう?」
ヴァネイは事もなさげにそういいながら、さらに抱き寄せるとまたその目を赤く光らせた。
刹那、風の舞う音とまばゆい光に晶は包まれた。
浮遊間と肌寒い風に怯えながら、眩む目を凝らすと……。
そこは異世界だった。
大小二重星の太陽とその周囲で輝く乱れた光の渦。反対側に浮かぶ半天を覆うかのような月。
下方には三百階はある塔と、それを囲む円形の巨大都市。
「あの塔がスッムスの塔。最上階にイーンフィムスという魔王が住んでいる。あれを倒すのが私たちの最終試験だ。そして囲む都市は十二の学園とそれを補助する都市だ」
ヴァネイに抱かれ、くるくると回りながら晶は高揚する気分に包まれていた。
「僕、本当に異世界に呼ばれたんですか?」
胸の中で喋られ、ヴァネイは少し擽ったいと肩を竦めた。
「ようこそ。八椚 晶くん。男の子でも私は歓迎だよ」




