第五話 偽者の優しさ
ここ、『月の都』に来てもう半月が過ぎる。
その時間憂にはずっと気になっていることがあった。
「稀吹。急に私に冷たくなったのは私に為たっだって本当?」
憂は恐る恐る目の前にいる稀吹に訪ねた。
頷いて。
私に自信を頂戴。
稀吹を好きでい続ける自信。
「何の話?俺はずっと憂に優しくしてたつもりだけど。」
稀吹はあっさりと言う。
「確かにここで稀吹は優しい。でも、なんか変だよ。なんだか、稀吹が無理をして私にだけ優しくしてるみたいだよ。ねぇ…あの頃の稀吹を返して。」
憂は泣いていた。
幼い頃の思い出が憂の頭を過ぎる。
私が転べば心配してずっと隣りにいてくれたり、
泣いていれば何も言わずにハンカチを貸してくれたり。
もう何年も見てない稀吹の精一杯の優しさ。
この人とは違う、稀吹特有の暖かさ。
「憂も、俺を偽者みたいに言うんだね。」
「え?」
(憂もってどういう意味?)
しばらく稀吹は何も言わなかった。憂もただ黙って稀吹の言葉を待った。
「ここ半月くらい前から急に、自分の夢を見るようになったんだ。」
不意の稀吹の言葉の意味が解らずに憂は首をかしげた。
「自分の…夢?」
「俺のほかにもう一人俺が出てくる夢。そいつは俺にもういいって言うんだ。いままで心を預かってくれてありがとう。もういいから返してくれって。憂は俺が無理してるみたいっていってただろ?そうだよ。だって俺は憂に優しくすることでこの世界に生きているんだから。でも、そいつに、本物に心を返したら、俺はどうなるんだよ。っていつも不安だった。」
稀吹の瞳にはもう何も映ってはいなかった。
当たり前に生きてたことを偽者だと言われ
信じていた自分の世界が創りモノだとしり
心を奪われるという不安。
彼は一体どれだけ怖かったんだろう。
その原因を作っているのは、私?




