巡る世界と錬毒術。
翌日、検査を終えて退院した幽璃と一緒に帰路についた。まだ日も高く、勤勉な学生さん達は学校で勉学に励んでいることだろう。
学生だが勤勉ではない俺はこうやって学校を休んで幽璃と一緒に帰る不良学生っぷり。しかしこうやって平日の昼間から散歩に勤しむのも悪くない。ついつい眠くなるのは難点だが。
春風を全身に感じる為に目を閉じたら電柱と交通事故を起こした。示談金は出さん。そしてかなり控えめに幽璃に笑われた。
「ふふ。前方不注意、減点1ですよ、兄さん」
「それはまずいな」
あと1点で免停だ、このままじゃ外を歩けなくなってしまう。免許の再発行はいつになるのか。人間が町を歩くのに免許が必要ならスピード違反で取り締まられたりするんだろうか。なんて壮絶に無駄な事を考えながら閑静な住宅街から自宅へと向かっている。
残念ながらカーナビは搭載していない。もし知らない所で一人ぼっちになれば確実に迷子になる自信がある。……普通の人間は大抵そうだろうが。
病院と自宅は生まれてから何往復、何十往復としている。目を瞑っても迷子にならない自信がある。電柱と交通事故を起こすのは仕方ないとしても。
「そういえば学校はいいんですか?」
「学校ねー……まぁ、成績は悪い方じゃないし。卒業できればそれでいいさ」
一度家に戻った俺はともかく、幽璃も制服のままで、傍から見れば登校中だった少女を言葉巧みにナンパした不良学生と思われている可能性もなくはない。傍から見ている奴がいればの話だけど。
ぼーっと空を見上げて前方不注意真っ只中な俺を眺めていた幽璃は思い出したように告げる。
「そうだ、今までは兄さんが食事を作ってくれてましたから今日は私が作りますね」
「幽璃が?」
そういえば幽璃が料理を作るのはこれが初めてでは無かったような気がする。度々作りたいと言っては確か何らかの理由で続かなかったんだったか。
脳をフル回転させて遠心力によって記憶を引っ張り出そうと試みる。ミキサーにかけられて半分ほど砕けた脳から記憶の断片を発見。
思い出した。あれだ、幽璃が作る料理は病原性ウイルスという名の新しい部類に入る新進気鋭すぎる料理だったはずだ。
錬金術……いや、錬毒術とでも命名すべきだろうか。卵の中身を使えば油性の黒マジックのインクを混ぜたかと思うような、元が卵白と卵黄とは思えない色の料理が出来上がっていた。暗黒物質も真っ青な黒さ! ……洒落にならないぞ。
流石にアレを再び口の中に放り込むのは舌どころか内臓に危険を及ぼすので避けたい所。焦りつつも何とか作らせない方法を考える。
「いや、ほら。幽璃は退院したばっかりだしさ、また倒れられても困るし。俺が死ぬ前に一度食べさせてくれればいいからさ」
少し間違えた。食う時が俺の死ぬときなわけだ。つまり食わなきゃ死なない……ってわけでもないか。寿命が尽きると共に口の中に放り込んでもらうとしよう。ちなみに間違いを訂正はしない、面倒だから。
ちょっと言い訳がましく言った前半は幽璃が表情を曇らせたが、後半で明るくなった。俺の話術も捨てたものではないな。
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なんだか自分の書く作品がまったく面白く見えない今日この頃。