巡る世界と妹と危機と。
「きょー、ご飯食べに行こうよー!」
学校では毎日のようにそうやって晶が呼びかけに来る。昼食を控えた授業を終えた休み時間は、誰もが個人差はあれどテンションを上げて騒ぐ。もちろん俺も例外無くテンションが上がる。
この学校には食堂があり、生徒は蟻が食料に群がるようにそこに集まる。というか蟻という表現が妙にリアルだ。屋上から食堂を見ればまさにそう見える事だろう。今度やってみようかと無駄な審議を脳内で繰り広げた挙句、面倒だという理由で申請は却下された。
そんな無駄な事を考えていたせいで、遅れて返事をした。
「おーう」
「あ、飯か。俺も行くぞー」
さっきまで机に突っ伏して惰眠を貪っていたはずの竜二がいつの間にか半覚醒状態をすっ飛ばして晶へ向かっていた。飯に反応して起きるとは、某格闘アニメの猿の尻尾を持つ主人公並みの知能しか無いのか、もしくは本能に忠実なのだろうか。どちらにしても似たような意味な気はするが。
そんな失礼な思考を途中で打ち切って最後列の席から立ち上がり、待っている竜二の方へと足を向けたその瞬間――豪快に教室の前側のドアが爆発した。というのは勿論比喩で、ただ先生が勢いよく入ってきただけだった。額に脂汗をかいて、明らかに焦りの色を見せている様子だった。
何をそんなに急いでいるのかと思考を巡らせつつ、トラブルに縁のない俺は再び歩を――
「篠原!」
篠原、は間違いなく俺の苗字だ、残念ながら俺の記憶にあるクラス名簿を漁ってみても他のクラスにさえ柳瀬の文字は無い。完全に暗記しているわけではないが、自分と同じ苗字なら恐らく入学初日から少なからず興味を抱くはずだ。
というわけで今回のトラブルの元凶は間違いなく俺であって。ただし俺は悪戯をした覚えも無ければ宿題を忘れたことも無い。ただあるとすればバイトの件だが……それは学校側も了承してくれているはずだ。
それほどまでに重要視されるような問題は起こしていない為、特に危機感を抱く事もなかった。――次の一言を聞くまでは。
「お前の妹が――倒れた!」
――戦慄。
気づけば、教室の外側で待機していた竜二と晶すらも視界に入れないまま、駆け出していた。