巡る世界と通学路。
遅刻しない程度に歩を進めながらの会話で、何とか幽璃は二人と打ち解けたようでその表情には笑顔が浮かんでいる。
ずっと袖を握られているのは気になるが。
引っ込み思案な我が妹に友達ができたのは良い事だ。兄の友達が妹の友達というのもどうかと思うが、これで同学年の友達もできやすくなれば良いと思う。
「ねぇ、きょー。通訳してよー」
「ん、あ。ああ」
少しばかり物思いに耽っていたら晶に軽く肩を叩かれる。どういうわけか、会話の成り立たない二人と幽璃の間に俺を挟んで通訳に大抜擢されたわけだ。
ちょっとくらい表情から何を言いたいのか読み取る努力をしてくれ、とは言わない。十数年間付き合ってきた俺でさえまだ分からない表現もあるくらいだから、今日初めて会った二人にそんな芸当ができるとは思えない。
「えっとね、胸のサイズいくつ?」
「おい、いくら自分の胸が貧相だからって自分より小さそうな奴にぶべらっ!」
別に竜二の語尾は『ぶべらっ!』などという意味の分からない言語ではない。晶が放った裏拳が見事に顔面に直撃したせいであって。ついでに俺もさりげなくローキックを入れておいた。
どうしてこうも俺の周りの友人は常識外なんだ(色んな意味で)と頭を抱えたくなる。
それでも一応幽璃に確認を取ってみたが、袖を引っ張りながら顔を真っ赤にしてどうにかしてくれとこちらを見上げてくれた。
「とりあえず、セクハラな質問はやめてくれってよ」
何やら争って(というより一方的に竜二がやられて)いる二人に向かってそう呟くと、晶がまず不満そうな声をあげた。
「えー。いいじゃんかぁ」
「とりあえずお前は自重という言葉の意味を調べ……げふぅ」
晶の上段蹴りが容赦無く竜二の顔面にめり込むが、竜二は微動だにしない。屈強な彼は笑みさえ浮かべているが……彼にマゾの気があるかは定かではない。というか日々顔面にダメージを受け続けているというのに、顔面が変形しないのが不思議だ、今度どんな素材でできているのか聞いてみよう。
相変わらず周囲の人々の視線を集めまくる二人とは他人に見えるか知り合いに見えるか微妙な位置取りを取って歩いている。あまり視線を集めると幽璃が良く思わないだろうし、彼女まで変人扱いされたくはないというのもある。
しかしそんな努力は俺が離れた瞬間に何故か騒ぎながら位置を詰めるという器用な芸当によりぶち壊されたわけで。
距離を取ることは諦めて、二人に聞こえないくらいの声で幽璃に尋ねた。
「……楽しいか?」
笑顔で頷く。こんな騒がしい奴らと一緒に居て楽しいなんて、随分変わった妹を持ったものだとは思うが、お互い様というやつだろうか。
ちらりと暴れる二人を横目で見て、苦笑した。
明日も更新すると思いますよー。ストック尽きないかだけが心配ですねぇ