表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界は自分の想いのままに  作者: 抹茶団子
兄と妹と世界と。
5/13

巡る世界と友人と妹と。

 久しぶりの、兄妹での登校。

 何だかんだで幽璃は月に数回、学校へは行くのだが、最近は登下校をあまり共にはできなかった。主にバイトのせいで(その度にごまかすのが大変だったことは言うまでもない)。まぁ、俺がいなきゃいないで幽璃はしっかりやってるんだけど。ちょっと寂しい。

 沈黙を保ったままの登校。会話しようとしてもできないのだから仕方がない。それでも、いつものように一人きりの登校でないだけでも、少しばかりの幸せを感じる。

 そんなちっぽけな幸せに浸る暇も与えられず、脇の路地裏から人影が飛び出してきて、俺の腹部に激突。そのまま吹っ飛ばされれば幽璃に被害が及ぶことを瞬時に計算――回避実行。衝撃で足が地面から離れる前に瞬間的に無理のある方向転換を試みる。あ、足捻った。


「痛ぐほぁっ!?」


 口からまともな言語が出てこなかった。流石にその責任を俺の脳に押し付けるというものは酷というものではないだろうか。

 うう、腹の中身が飛び出てないだろうか、想像しただけで精神的にも肉体的にも吐きそうだ。

 満身創痍の俺の身体と、地面に倒れた俺を心配そうに見つめながらあたふたと可愛らしく慌てている幽璃。ついでに俺にぶつかった犯人。いろんな状況がいっぺんに混ざり合ってよく分からなくなる。

 

「あ、きょー。おはよう」


 そうか、おはようってのは挨拶じゃなくて謝罪の言葉だったのか。それは知らなかった。これからは誰かに謝る時にはおはようって言わなきゃならないわけだな。

 とりあえず、目の前のこいつを殴って「おっと手が滑った。おはよう」と言ってやろう。

 と、思ったんだけど。

 

「何ですか、晶の住む世界ではタックルが挨拶代わりなんですか」


 友人には手は出せなかった。


「親愛の証だと思ってくれれば。文句なら竜二に言うといいのです」


 そう言って晶が指で示した方向を見やると、路地裏からひょっこり出てきた竜二が眠そうに欠伸を一つ。

 朝の挨拶の言葉が別の意味に変化してしまったのでとりあえず割愛。


「竜二、文句言っていいかな」


「え、なんで? っつーか何で倒れてんの?」


 心底意味の分かっていなさそうな表情を向ける竜二。意味の分からないのはこっちだ。竜二のせいじゃないのかよ。

 晶の方へ視線を向けると、けらけらと子供のように腹を抱えて笑っている。


「……騙したのか」


「えー? ボクは竜二が悪いなんて一言も言ってないよー」


 地面に座り込んだまま子供のようにべーっ、と舌を出す。うわすっげぇ腹立つ。

 とりあえず晶の頭にたんこぶを一つ生成して、彼女からプレゼントされた擦り傷と痛みを身体(主に背中と頭)いっぱいに抱えてふらつきながらも立ち上がる。友人の愛が重い。

 前言撤回。友達でも手は出す。どうでもいいけど、俺は女にでも手は出しますよ。男女平等。こういう時にだけ掲げるのもどうかとは思うけど。


「うぅ、きょーが暴力振るってくるー」


 先に手を出したのは相手の方だと記憶に残っているのですが。これって訴えたら勝てますか。過剰防衛? そうですか。

 うん、そんな事はどうでもいい。

 すごく今更だけど足痛い、足。変な方向に捻ったから折れてるかもー。あー、もーだめ。死ぬ。とか、嘆くに嘆けない。痛いけども。

 なんて考えてたら、足首に何かが触れる感触。もちろん鈍痛のオマケ付き。


「あたた……」

 

 足元を見れば、先程まで慌てふためいていた幽璃がしゃがみこんで足首の辺りに優しく、丁寧に触れていた。怪我の具合を確かめるように。

 もちろん触っただけで怪我の具合が分かるようなスキルとか超能力は残念ながら持ち合わせておらず、ただ首を小さく傾げている。


「ね、ね。その子ひょっとしてきょーの彼女? 恭ロリコン説浮上?」


 何が楽しいのか、それともからかいたいのか、やたらと晶がはしゃぐ。

 「ひょっとしなくて妹だから」と軽く流してやった。

 確かに、俺達の関係を知らない人がこの場の状況を見ればそう勘違いするかも知れない。第一似てないもんな。

 

「こいつは幽璃。さっきも言った通りマイシスターでございます」


 俺が完璧な発音で発した渾身の英語は完全にスルーされ、晶は幽璃に近寄ろうとして逃げられる。竜二は後ろでその様子を微笑ましげに見ていた。そんなことよりあれだよ、こういう時滑ったら痛い。今は肉体的にも痛いわけだが。

 自己嫌悪に陥っていたら、晶が近づいてきた。正確には背後で隠れるようにして俺の服を握りしめている幽璃に向かって。

 

「えー、何で逃げるのー?」


 幽璃はどっちかといえば人見知りの激しい方だが、初対面の人が相手でもここまで露骨に避けたりはしない。確かに俺が幽璃の立場だったら確実に逃げ出す自信があるが。

 だって何かあれだものな、手つきがなんかいやらしいというか。全体的に危ないオーラが漂ってますから。性的(?)な意味で。


「何か嫌な予感がするんだってさ」


「別に何もしないよー。ちょっと胸の大きさとか計ったりなでなでしたいだけだよー」


 世間一般ではそれをセクハラというらしいですよ、晶さん。そしてあえて言わせてもらおう、なでなでは俺の特権だと。

 

「とりあえず幽璃が気持ち悪がってるからやめてくれ」


「せめて怖がってるって言ってよ」


 俺は正直者でも嘘吐きでもないので微妙に間違ってない事を言ってやった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ