巡る世界と朝食。
今日もまた、同じ時間に起きる。昨日もいつもと変わらぬ時間に寝たはずだ。今日は学校に行く日で、いつもとは少し違うけれど、そんなに変わらない日常が待ってるはずだ。
学校へ行く準備をするには少し早すぎる時間。余った時間は料理に使って、幽璃の分の昼食と夕食を作っておく。
そういうつもりだったのだが。
料理に使う材料を取り出そうと冷蔵庫を漁っている時、毎度おなじみ廊下の軋む音と共にリビングへの扉が開かれる音が響いた。
「お? 珍しく随分と早いじゃないか……って制服?」
見ると、まだ朝早いにも関わらず幽璃が起きてきただけでなく、その身に中等部の制服を纏っている。
うちの学校はエスカレーター式になっており、中等部は白を基調とした制服、高等部は黒を基調とした制服になっており、中等部の制服が特に可愛いということで、それを目当てに来る生徒も少なくないとか。まぁ、可愛いのは認めよう。うん、可愛い。
「今日は体調いいから学校行くのか?」
幽璃はこくこく頷くと、椅子に腰掛けた。それが何を意味しているのかを理解するのは、兄である俺にとってはまさに言葉通り朝飯前ということだ。
「ん、ちょっと待ってな。もうじき焼きあがるから」
今度は幽璃が頷くよりも先に、俺の背後の電子機器が軽い音を立ててトーストの焼き上がりを知らせる。トーストをそこから取り出しバターと蜂蜜を塗りつけ、幽璃の前に出すまでがおよそ二十秒。絶好調だ。
本当は昼食と夕食も作ろうと思っていたのだが、幽璃が学校へ行くなら必要無い。今日はバイトも休みだし、夕食は久しぶりに幽璃と一緒に取れるはずだ。
ちなみに一緒に夕食が食べられることを幽璃に伝えたら微笑で返してくれた。喜んでくれているのだろう、多分。え、苦笑とかじゃないよね?
「……よしよし」
黙々とトーストを齧りながら俺の一挙一動を眺める幽璃が愛らしくてつい頭を撫でてしまう。きっと今の俺はしまりのない表情をしていることだろう。
別に妹に特別な感情を抱いているというわけではないが、幽璃からはつい動物のように愛でたくなるような魅力が溢れている。
それにこんな無防備な妹だから、きっと色んな男が寄ってくることだろう。せめて、幽璃に好きな人ができるまでは守ってやるつもりだ。
「……?」
気づけば俺は撫でる手を止めて、ぼんやりと佇んでいたらしい。
幽璃が不思議そうな表情を向けてくるのに対して、また少し撫でてやった。