巡る世界と犠牲者
「……おい、恭」
竜二が怪訝な表情でこちらに問い掛けてくる。何が言いたいかはよく分かるが一応聞き返してやる。
「なんだ?」
「これ、食べ物か? ……いや、この世に存在してていい物体なのか?」
少なくとも食料としては存在してはいけないと思うが、とりあえず爆発とかはしないとだけ言っておいた。危険物であることに変わりはないけど。あと本当に爆発しないかの保障もできないけど。
ついでに現在は晶と竜二の二人が謎の物体を前にして明らかに動揺している様子を観察中だ。目の前で微笑を浮かべながら二人を眺める幽璃と目の前の毒物を結び付けられずに困っているのだろう。ざまあみろー。
幽璃の料理はまず視覚から侵食を開始する。見た目が黒い。卵で表現不可能なほど、黒い。続いて嗅覚。無臭。何も発しないのが逆に怖い。そして、触覚。焦げて真っ黒なのかと思ったら何だよ、ぬちゃって。効果音さんしっかりしてください。最後は味覚。味があまりに激しすぎて感じられるのがほぼ一瞬だけだという伝説付き(食ったのが俺だけなので伝説作ったのも俺)。しかも一週間は味覚が麻痺するという非常に素晴らしいバッドステータスを付加してくれる。これってあれだ、敵に投げつけたりするアイテムじゃないのか?
晶は脂汗をどっぷりかいて硬直。竜二はその晶に向かって「どうするよ、これ……」などと小声で呟いている。
「幽璃は一生懸命作ったんだもんなー」
「……? そうですね。頑張りましたよ」
わざと声を大きめに呟いてみると、面白いくらいに脂汗がだらだらと流れ出てくる。
そしてとうとう覚悟を決めたのか、緊張のあまりにおかしくなってしまったのか、晶がほぼ放心状態のままぱくりと一口食べた。その後の拒絶反応は本人の印象を悪くしないために割愛させてもらうことにしよう。
「あ、え? だ、大丈夫ですか!」
泡を吹いて倒れた晶に慌てて駆け寄る幽璃。
「あまりの美味さに放心させるとは流石は俺の妹だ」
幽璃が殺人料理を作り続けるのって、俺が甘やかすのが原因でもあるんじゃないかなぁ。……晶、お前は幽璃の料理上達の礎となったのだ。なんてかっこいい台詞言ってみて、殺人を正当化しようとしてみる。
次の犠牲者は、怯えてしまったのか、耳を塞いでしきりに何かを呟いている。……せめてもの慈悲に無理矢理詰め込んでやった。
本日の犠牲者、三名。
二人が残した分は俺が綺麗に平らげることとなった。こうやって味覚が吹き飛ぶ感覚を久しぶりに味わって感慨に浸ってみたりはしない。浸る間も無く意識が飛ぶという事は言うまでもないしさ。
というわけで、三名様ごあんなーい。案内される俺が言うことじゃないんだけど。