勇者らしくないと経験値が減るスキル『勇者の資格』が俺を最強にする~転移勇者と転移魔王のデスゲーム~
男戦士「勇者殿~!バカな事はおやめなされ~!」
魔王を倒さなければ元の世界へ帰れない。
その焦りが彼を狂わせた。
勇者は姫を人質に取り、山小屋へ立てこもっていた。
人間の兵に包囲されている。
かつての仲間、男戦士、男魔法使い、男錬金術師、そして聖王が説得している。
勇者の要求は魔王と戦う事。
聖王「もう戦いは終わったんじゃ」
勇者「不可侵条約など知った事か!俺は魔王を殺さなきゃならないんだよ!」
そう勇者は魔王を殺す為に召喚された存在だった。
元の世界に帰る条件は「魔王を殺す事」だけ。
魔王アイリ「諦めなさい」
不可侵条約を結んだ魔王アイリが前に出た。
勇者「あ、ああ。お前が魔王なのか?」
魔王アイリ「ええ。そうよ」
勇者「ふ、ふはは!死ねい」
勇者「不滅の業火」
勇者は周りの兵士を顧みず魔王に魔法攻撃をする。
兵士「うわ~」
兵士は一瞬で燃え尽きる。
が……魔王は無傷だ。
魔王は指輪をはめた手をゆっくり持ち上げた。
魔王アイリ「これはスクリーニングリング。レベルが50未満の者の攻撃を無効化する」
勇者「バカな。俺のレベルは100のはず」
そう……召喚された時点での勇者のレベルは100だったはず。
男魔法使い「スキル『勇者の資格』ですじゃ」
男錬金術師「最初に説明されただろうが。勇者に相応しくない行動をすると経験値が減少するんだって」
勇者「俺の行動が勇者らしくないだと?」
魔王アイリ「はぁ。姫を拉致し、兵士を殺して。これの何処が勇者なの?」
勇者はステータスウインドウを開いて確認する。
レベル30。
勇者「そんな、そんなバカな」
魔王アイリ「バカはアナタよ。諦めなさい」
勇者「煩い。俺には家族が待っているんだ。もうすぐ子供が生まれるんだ、帰らなきゃならねーんだよ」
勇者は姫の足に剣を刺して叫ぶ。
「おい。男戦士!お前のレベルは52だったよな。魔王を攻撃しろ」
男戦士「そ、そんな」
男戦士は困って立ち尽くす。
そんな男戦士を魔王アイリの魔法が気絶させた。
魔王アイリ「攻撃が通るとしたって52程度では相手にならないでしょ?」
勇者「こんな事が認められるか!」
勇者は魔王に向かって切りかかる。
攻撃は当たるが効果はない。
勇者「この!この!」
勇者の攻撃は無駄だった。
聖王「勇者殿、もう諦めるんじゃ」
聖王が勇者を後ろから羽交い絞めにする。
勇者「煩い!」
勇者は振りほどき聖王を切った。
だが大したダメージにならない。
もう勇者のレベルは10だったからだ。
そして聖王に切りかかった事でレベルは5に落ちた。
聖王「この分からず屋め」
聖王は勇者を殴った。
そして、勇者は死んだ。
画面は暗くなりエンドロールが流れ始めた。
が、
ピコッという電子音とともに消えた。
――
悪魔「あはははは。ウソだろ?王様に殴られて死ぬって」
…
暗黒の空間に魔王だったアイリが召喚された。
アイリ「……」
悪魔「すごいね。最短クリア記録更新だ」
アイリ「そう」
悪魔「天使の奴の悔しがりっぷりなんて最高だったよ」
悪魔「ブチ切れてエンドロール中にリセットボタン押しちゃったんだぜ」
アイリ「そんな話は良いから、早く私を家族の元に返してくれないかな?」
悪魔「いやー、それが余りにも早くクリアしちゃったからタイミングが、ね」
悪魔「もう一回やってくれないかな?」
アイリ「いやよ」
悪魔「そういわずにさ、天使の奴がどうしてもリベンジマッチをしたいって聴かないんだ」
アイリ「私に得がないもの」
悪魔「じゃあ、望をもう一つかなえてあげるって言ったらどうだい?」
アイリ「なら…」
アイリ「私を、天城アイリとして生き返らせて」
悪魔「……へぇ」
悪魔「なんで自分が死んでいるって分かった?」
アイリ「カマを掛けただけだけどね」
悪魔「ははは。これは失敗だったな。で、何で?」
アイリ「家族の元に返すという曖昧な条件と、寝たきりだった私がこうして歩けるって事かな」
悪魔「そっか。でも生き返らすのは僕の権限じゃ無理だね」
アイリ「じゃあ家族の元に返すというのは?」
悪魔「別の命として転生させるってだけの話さ。兄弟としてか。ペットとしてか」
アイリ「ダニとか?」
悪魔「ははは。そんな可能性もあるかな?」
アイリ「……そう」
アイリ「私を天城アイリとして生き返らすという望が叶うならもう一度勝ってあげるわ」
悪魔「うーん。上司に相談すればなんとかなるかもね」
悪魔「まあ天使も君にリベンジするためなら一緒に相談してくれるはずさ」
――
暗黒の空間の中
天使が浮かんでいた。
天使「ああーー。なんなのよ。」
天使「あんな計略にまんまと引っかかるなんて」
天使「そうよ真面目過ぎだったんだわ、次はもっとふざけた男にすれば」
天使は魂の中からもっともふざけた男を探す。
あった。
異世界転生に憧れる煩悩まみれな変態ニート「風見ゲンマ」。
天使「ふふ。この男なら勝てる」
天使はゲンマを召喚した。
ゲンマ「うお、オッパイのデカイ天使だ」
初手がこれである。
天使は軽蔑しつつも、このゲームの説明を始める。
天使「アナタは異世界を救う勇者に選ばれました」
ゲンマ「うひょ~例の異世界って奴?ハーレム?ハーレム?」
天使「いや、魔王を倒してください」
ゲンマ「でもその過程でハーレムなら?」
天使は無視して話を続ける。
天使「人間の世界と魔物の世界が衝突してしまったのです」
天使「そして世界がつながり、人間と魔物の戦争が始まりました」
天使「アナタは魔物を統べる魔王を倒し人間の世界を救うのです」
ゲンマ「そして英雄となってハーレムだな」
天使(これは酷い)
天使(でも、こんな奴ならあんな計略にひっかからないはず……よね?)
天使は不安になった。
天使「魔王を倒したならアナタの望を叶えてあげましょう」
空間に文字が浮かび上がる。
①家族の元に帰る
②この世界で生きる
③その他
ゲンマ「当然②だ」
天使「そ、即答なんですね」
ゲンマ「現実なんて糞だ」
天使「…では、どうか人間の世界を救ってください」
天使は転送の準備をするが
ゲンマ「待て、チートは?」
天使「レベル100で開始です。一般人はレベル10程度なので充分ではないでしょうか?」
ゲンマ「うーん。レベルチートだけ?まあ良いか。頼むぜオッパイ天使」
天使は怒りを抑えつつゲンマを人間の世界へ転送した。
――
気が付くとゲンマは王城の大広間にかかれた魔法陣の上に立っていた。
聖王「おお!勇者様の召喚に成功した」
ゲンマは聖王を無視して叫ぶ。
ゲンマ「ステータスオープン!」
レベル100。
各パラメーターの数値も高い。
ゲンマ「うおお!すげぇ。俺サイキョーじゃん」
ゲンマは喜びのダンスをした。
男魔法使い「ええ?」
兵士「……」
ゲンマの突飛な行動に不穏な空気が流れる。
そんな様子を天使は白いカラスとなって眺めていた。
天使(やっぱり失敗だったかも)
ゲンマの経験値が下がった。
聖王「予言の書どおりに三人のお供を連れて魔王と戦っていただく」
聖王が手をかざすと男戦士、男魔法使い、男錬金術師が並ぶ。
前の勇者を支えた男達だ。
ゲンマ「オッサンじゃねーか」
男戦士「何か問題でも?」
ゲンマ「あたりまえでしょ。こういうのは女の子じゃないか!普通はよ」
またゲンマの経験値が下がった。
聖王「そうは言ってもレベル50近辺のこの国の誇る実力者ですぞ」
ゲンマ「あー。そんなんは戦闘すれば後から上がるだろ。若さ。美しさ。それが大事でしょーが」
……
男達はひそひそと話し合う。
男戦士「戦いを舐めているのか?」
男錬金術師「いや我々の常識とは違うのだけなのかも」
聖王「そうだな。女性の方が戦闘が得意な世界という事も考えられる」
男戦士「とはいえ、我らの世界ではそんな事はないぞ」
男魔法使い「では何故、女が良いのか聴いてみては…」
話はまとまった。
聖王「何故、女性なのだ?」
ゲンマ「こういうのはハーレムパーティでしょうが!」
ゲンマは幼子のように床に寝そべり駄々をこねだした。
ゲンマ「ハーレム!ハーレム!」
とても勇者に相応しくない惨めさ。
もうゲンマのレベルは50だ。
天使(あああ。もう失敗だ。失敗だ。失敗すぎる)
女戦士「はっ。だったら俺が行ってやるよ」
赤髪、巨躯、筋骨隆々、ゲンマが見上げるような女戦士だ。
ゲンマ「ひぇ」
ゲンマは尻もちをつく。
女戦士「なんだぁてめぇ。俺に若さと美しさが無いとでも言うのか?」
ゲンマは前世からの虐められ属性により押しに弱い。
ゲンマ「そんな事はありません」
女戦士「よし、じゃあまず一人決定だな」
男錬金術師「となると錬金術師枠はワシの娘だな」
女錬金術師「ええ?私?」
ゲンマ「チビッコじゃねーか」
女錬金術師「失礼ね。ドワーフだからって小さい言うな」
ゲンマ「人間の女錬金術師はいねーのかよ」
男錬金術師「そりゃドワーフの錬金術の才能に勝てる人間はおらんし」
女錬金術師「ちゃんと大人ですからね。子供も二人います」
ゲンマ「子持ちだぁ?若さはどうした。独身はいねーのかよ」
男錬金術師「みな、ドワーフの国に避難しとる」
ゲンマ「じゃあ、なんで残っているんだよ」
男戦士「だって」
女錬金術師「ねぇ~」
男戦士&女錬金術師「私達、夫婦でーす」
ゲンマ「なにぃ」
男錬金術師「他に人がいないんだ」
ゲンマは頭を抱え、掻きむしる。
ゲンマ「そもそも、なんで錬金術師が戦うんだよ」
女錬金術師「鎧が臭くなるのを防げます」
ゲンマ「臭い女はそれはそれで……」
女戦士の視線が刺さる。
ゲンマ「錬金術師は必要だな」
ゲンマ「しかし、このパーティ。こうしてみるとあまりにも俺の好みではない」
ゲンマ「だから魔法使い。つまりメインヒロインは俺の好みで選ぶ」
ゲンマは周りを見回す。
いた。気弱そうな銀髪巨乳美人。
ゲンマ「君に決めた」
女魔法使い「えぇ?私、レベル10ですよ」
ゲンマ「いいんだよ。レベルなんて後で上げれば」
女魔法使い「嫌です」
ゲンマ「何故だ、名誉ある勇者パーティの一員になれるんだぞ」
女魔法使い「アナタが気持ち悪いから」
ゲンマ「ストレートすぎるぅぅぅ!」
ゲンマはショックのあまり倒れた。
女戦士「当然だな。ガハハ」
ゲンマ「うるさい。うるさい。これは勇者命令だ。絶対に加入しろ」
ゲンマはまた駄々をこねる。
聖王「どうか頼む」
女魔法使い「うぅ。聖王様に言われては…仕方ありません」
こうしてパーティが決まった。
そして聖王は世界の説明をする。
戦争。
王国。
魔王。
やがて、説明は勇者の固有スキルにまで及んだ。
勇者の資格。
そこでゲンマはステータスを確認してみると……
勇者ゲンマ
レベル1。
……
天使「もうお終いだぁ」
天使は頭を抱えた。
……
聖王「死刑にして、もう一度召喚の儀式を行おう」
ゲンマ「ちょっと…待って!俺。勇者でしょ?どういう事だぁ」
兵士に抱えられ哀れゲンマはギロチン台に入れられた。
ゲンマ「辞めてください。聖王様、貴方の靴の裏を舐めますからぁ」
ゲンマは情けなく命乞いをする。
そして経験値が下がった。
……
聖王は静かに手を振り下ろした。
ギロチンが落ちる。
だが、ギロチンはゲンマの首を落とせなかった。
聖王「どういう事だ?」
ゲンマはステータスを確認した。
レベル234。
経験値は4294967290。
天使「裏返ってるぅ、経験値がアンダーフローしてるぅ!」
符号無し4バイトで表せる範囲は0~4294967295。
マイナスの値は存在しない。
マイナスし過ぎて数値が一周したのだ。
男戦士「おい、どうする?」
男魔法使い「どうするもなにも」
しばしの沈黙の後
聖王「ブラボー。ワシは信じていたよゲンマ君」
聖王は拍手した。
その場にいた全員が拍手しだした。
そう、もう勢いで誤魔化すしかない。
ワッショイワッショイ
胴上げだ。
ゲンマ「ふっ。俺の実力を分かってくれたようだな」
こうして、ゲンマの冒険は始まった。
――
悪魔「あのさぁ。バグの利用は卑怯なんじゃない?」
天使「煩い。これは仕様なんだよ」
悪魔「うっわ。最低だな。まあ上には報告しておくから」
天使「はん。今度こそアナタに吠え面をかかせてあげるんだから」
悪魔(まあ、向こうがバグ利用するならコッチも使っても良いよな)
――
悪魔「という事で勇者はレベル234になったそうだよ」
魔王アイリ「…そう、でも私のやる事は変わらないわ」
悪魔「また不可侵条約かい?でも今度の勇者は自滅してくれるかなあ?」
魔王アイリ「構わないわ。平和に過ごせば良い」
悪魔「でもそれじゃあ勇者を殺せないだろ?」
魔王アイリ「殺せるわ。寿命の差でね」
悪魔「あー……それも仕様か」
悪魔「不公平な仕様というバグとして後で報告だな」
――
さてさて天使と悪魔の遊び
次はどちらが勝つのだろうか。
魔王アイリ「私は生き返る」
勇者ゲンマ「異世界でハーレムライフだ」
決着が着くまで長くなりそうだ。
もっとも、魔王アイリは百年もかからないと思っていた。
最小値 − 1 が最大値になるアンダーフローがあるなら、
最大値 + 1 が最小値になるオーバーフローもあるはずだから。




