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星たちの贈り物

作者: 灯影
掲載日:2026/06/04

 星たちの贈り物



 大きな国の小さな街に、マルという名前の子供がいました。


 マルは早くに親を亡くし、町の教会で暮らしていました。


 その教会には、マルのように身よりのない子供たちが大勢います。


 その中でも、とりわけマルはひねくれ者として大人達はみんな手を焼いていました。


 親がいなくて寂しいのはマルだけではありません。


 マルよりもうんと小さい子もいます。


 周りの子達は、楽しいときは涙を流しながら大きな声で笑い、悲しいときは涙を流しながら大きな声で泣きました。


 でもマルは皆のように、大きな声で笑ったり泣いたり、ましてや涙を流す事もありません。


 マルは、全て一人で飲み込んでじっと耐えていました。


 風の音が怖くて眠れない夜に、みんなが集まって寝ていても。


 誰かのお誕生日でささやかなお祝いをしている時も。


 いつもいつも、足をぎゅうっと抱いて一人でいました。


 けれど、それが飲み込めないくらいいっぱいに溜まると、周りの子や大人達にかわいくない、いじわるな言葉となって吐き出てしまいます。


 マルは素直に笑うことも泣くこともできずにいました。


 そんなマルにとって、世界で二番目に大嫌いで、世界で二番目に大好きな聖夜がもうすぐそこまで来ていました。


 大人たちは聖夜を迎える準備で大忙し。


 子供達も、サンタクロースが今年はなにをくれるかと、大盛り上がりです。


 けれど、やっぱりマルは一人でした。


 準備を手伝えるほど大人ではないし、プレゼントの話で盛り上がれるほど、素直でもありません。


 ある日の夜、マルは満天の星空の下一人ぼっちでいました。


 聖夜がもう明日に迫っていた日でした。


 大人たちは準備に夢中で、子供達は夢の中です。


 マルがそっと教会を抜け出したことに誰も気付きませんでした。


 マルは小さな体を毛布でぎゅっと丸めて星空を見上げていました。


 マルだってみんなと同じくらい聖夜を待ち望んでいて、同じくらい聖夜の奇跡を信じていました。


 今年の聖夜もまた一人ぼっちだと思うと、マルはなんだか悲しくなってきました。


 その時、マルの頭の上をいくつもの星がチカチカ、キラキラと輝き出しました。


『ねえ、君はどうしていつも一人でいるの?』


 小さな赤い星が話しかけてきました。


 いつものマルなら、誰かが裏でしゃべっているんだと信じません。


 けれども、この日のマルはいつもと違いました。


「……みんながボクを嫌ってるから」


『どうしてそう思うんだい?』


 今度は大きな白い星です。


「ボクがいつもみんなの夢を壊すんだ。本当は違うことを言いたいのに、この口が言わせてくれないんだ」


『なぁに、この口って?』

『あなたのお口?』


 黄色い双子の星が聞きました。


「そうだよ。でもボクが生まれてすぐに誰かがいじわるな口をつけたんだ。だからうまく話せない」


 星たちが一斉に瞬きました。


 マルは笑われている気がしました。


「どうして笑うの!」


『イジワルな口も優しい口も、ぜ〜んぶ、おんなじ口だよ』


 小さな赤い星が言います。


「ウソだよ! だって……優しい言葉なんか出てこないもん。イジワルな言葉とかしか出てこない!」


『そんな事はないさ。じゃあ君はどうしてみんなの夢を壊すんだい?』


 大きな白い星が聞きます。


「え? だって夢ばかり言って、それが叶わないって考えもしないんだ。みんな子供なんだ。夢だけ見て叶わなかった時がどれだけ悲しいかみんな知らないんだ」


『君は知ってるんだね』


 遠から響くような静かな声で、一際輝く青い星が言いました。


「知ってるよ。すごく悲しくて、寂しくて、痛くて……泣きたくなるんだ」


『それをみんなが知る前に、君は何とかしたくてイジワルなことや、夢を壊すようなことを言うんだね』


「……わかんないよ」


『やっぱり君は誰にもイジワルな口を付けられていないよ。優しい口のままじゃないか』


「ウソだウソだ!」


『嘘じゃないよ〜』

『あなたのお口は優しいままよ!』

『そーよ、そーよ!』

『そうだね、何も変わらないよ』


 青い星の周りで色んな星たちが瞬きます。


「だって……! ありがとうもごめんなさいも、ボクは言えないんだ」


『でも今の君はとっても素直で、本当の気持ちを話しているよね?』


 赤い星が言います。


「今だけだよ。みんなの前にでたらまたイジワルな口に戻るんだ」


『大丈夫。いつも一人で頑張ったキミに私たちからプレゼントを贈るからね』


 遠くから響く青い星の声と共に、空が銀色に輝くと色とりどりの星たちから、マルの周りにキラキラと光の粒が舞い始めました。

 光の粒は、冬の空気に溶ける雪のように静かで、でも確かに温かかくて。


 それは――


 遠くで光る青い星は――優しさを。

 小さな赤い星は――勇気を。

 大きな白い星は――希望を。

 双子の黄色い星は――喜びを。


 マルはその光の粒を体いっぱいに浴びました。


 そして再び空が銀色に輝き、元に戻る頃にはマルは夢をみた後のようにぼーっとしていました。


 部屋に帰ろうとしたとき、マルは毛布にくるまったままなぜか体が思うように動かないことに気付きました。


 どんなに力を入れても、立ち上がることができません。


 マルはどんどん怖くなってきました。


 その時でした。


 教会の方からマルを探す声がしたのです。


 マルは自分を探してくれたことに驚いて、そして泣きたくなるほど嬉しくなりました。


 でも、駆け寄ろうとしても足が動きません。


 今までマルを温めてくれた毛布が、黒いもやのようにぎゅっと絡みついています。

 胸がドキドキして、息もなんだかしにくいし、冷え過ぎた指なんてもう動かすことも出来ません。



 マルは焦りました。


 ――みんなが行っちゃう!


 そのとき、ふわっと光が毛布のすきまからこぼれました。


 赤い小さな星が、ちいさくチカチカしながらマルの肩にそっと触れました。


 次に青や白、黄色の星たちも、キラキラ光を降らせてマルを包み込みます。


 毛布の重さが少しやわらぎ、暗いもやもふわっと消えていきます。


 マルはびっくりしながらも、なんだか心がじんわりあたたかくなりました。


 だってそれは、まるでマルを応援しているような、暖かな光だったから。


 マルは小さな手をギュッと握ると、もう一度声をあげました。


 今度はしっかりと息を吸い込み――胸いっぱいに空気を溜めて――


 大きな声で!


「ボクは! ここだよ! 助けてー!」


 マルの声は光となってみんなの元に降り注ぎました。


 その声に気付いたみんなが、マルの元へ走ってきました。


 子供たちは、マルが見つかった事で笑顔になりました。


 反対に大人たちは、今にも泣き出しそうな顔でした。


 そしてマルを強く強く抱き締めると、とうとう泣き出してしまいました。


 マルは強く抱きしめられた腕の中で、心がぽかぽかと暖かくなった気がしました。


 マルも涙が溢れてきました。


 いつもならマルは涙が流れないようにと、ギュッと我慢します。


 けれど、いつものように我慢をせずに、大きな声でわんわん泣きました。


 そして何度も何度も、言葉にならないごめんなさいを言い続けました。


 マルの言葉にならないごめんなさいは、けれどちゃんとみんなに届いていました。


 マルは星たちが見守る中、みんなと手をつないで教会へと帰りました。



 そしてみんなと同じベッドに潜り込むと、仲良く眠りにつきました。



 ――夜空の星が一番に輝く明日の聖夜を待ちわびながら。


 いつものベッドの、いつもの布団。

 でもマルには、全てが心地よくかんじていました。




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