第一章:「白星花の風」
※この作品は『星の花が降るころに』を参考にしたオリジナル作品です。
雪が降る冬。
記憶を失った少女・雪が出会ったのは、どこか寂しげな瞳をした少年・黎。
静かな屋上での出会いが、彼女の心に小さな“温もり”を灯す――。
白い雪の結晶が音もなく落ちている。下を向くと一面が雪で埋まっていた。
―なんで、私は屋上にいるんだろう―
私は高校一年生になった。私は一年前事故にあってから記憶がほとんどない。
友達の名前や出来事も。
雪のようにすべて溶けてしまった。
お医者さんから聞くと一年前、事故にあってから私はしばらく眠っていたそう。
私はまだ体がよくならず、病院でずっと過ごしていた。
私はよく病院の屋上に行く。病院の屋上から見る空や景色は
私の心を軽くしてくれる。
今日も病院の屋上にいくと、冬の匂いがした。
白い息が風にとけていくたび、空が少し遠く感じる。
気がつくと、隣に見知らぬ少年がいた。
私は思わずこういった。
「……寒いのに、なんで外にいるの?」
コートの襟を立てながら、手すりにもたれて空を見上げている。
「星を、見てた」
少年がそういった。
私は
―昼間で星など見れないのに―
と思った。けれど少年の目はすごくキラキラしていた。
「昼間なのに?」
私は気になり少年にそう聞いた。
「夜になると、この空に“白星花”が咲くんだ」
少年の言葉に、私は思わず首をかしげた。
白星花――星の花?
「願いを込めて見ると、一度だけ本当の気持ちを叶えてくれるんだって」
そう言って笑う彼の瞳は、どこか寂しそうだった。
その日を境に、私は屋上へ行くのが日課になった。
少年は黎という子だった。
なんか聞いたことあるようなないような、不思議な名前だった。
けれど、寒い風の中で、彼と話す時間だけが、なぜか心地よかった。
それからというもの、私はほとんど毎日のように屋上に通うようになった。
雪が降る日も、風が強い日も。
黎「今日も来たんだ」
「うん、なんかここが好きで」
そんな他愛もない会話を繰り返しているうちに、少しずつ彼のことを知った。
彼は私より少し年上で、同じ病院に入院しているという。
でも、どんな病気なのか、なぜここにいるのかは教えてくれなかった。
「どうして、ここにいるの?」
そう聞いても、黎はいつも笑って「秘密」とだけ言う。
けれどその声は、どこか遠くの世界から響いてくるように静かだった。
屋上で過ごす時間は、私にとって“日常の中の特別”になっていった。
気づけば、彼の姿を探してしまう。
黎の言葉を思い出すだけで、胸が温かくなる。
それが私の中ではとても不思議だった―
ある日、私は黎に聞いてみた。
「白星花って、本当に咲くの?」
黎「咲くよ。見える人と、見えない人がいるだけ」
「じゃあ、私は見えるかな」
黎は少し考えてから、優しく微笑んだ。
黎「きっと、雪なら見えるよ」
どうしてそんなことを言うのかはわからなかった。
でも、その言葉がなぜか心の奥に残った。
まるで、私のことを前から知っていたみたいに。
夕暮れが近づくと、空はオレンジ色から群青へと変わっていく。
雪が止み、風の音だけが静かに響いていた。
今日は黎が私の病室に来てくれた。
黎は空を見上げながらぽつりと言った。
黎「俺さ、夜になるのが好きなんだ」
「どうして?」
黎「だって、夜ってさ……隠したい気持ちを星が照らしてくれる気がするんだ。
昼は全部、まぶしすぎて本当のことが見えなくなる」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。
黎がどんな“本当のこと”を隠しているのか、私は知らない。
でも、彼の心の奥にある何かが、私に似ているような気がした。
私はそっとつぶやいた。
「じゃあ、今夜、白星花が見えるかな」
黎は少し笑って、空を見上げていった。
黎「きっとね。雪の願いが本物なら」
”願い”という言葉を聞いた瞬間
私はその瞬間、ほんの少しだけ泣きそうになった。
だけど、理由はわからない。
―私の願いか…わからないな…―
私はそっと心のなかでそう呟いた。
でも、黎といるときの私は確かに――“誰かと生きている”と感じた。
今日、私は初めて思った。
黎のことを、もっと知りたい。
もしかしたら私の”大事な人”なのかもしれない。
彼の言葉の裏にある“秘密”を、知りたい。
そして、もう一度“本当の私”を、”記憶”を取り戻したい――。
今日は、とても星が綺麗に見えた。
星はきれいで、暖かくて、眩しくて、
でもどこか切なくて―
星を見上げていると黎が言った言葉を思い出した。
「白星花はね、願いを叶えるんじゃなくて、“心を映す”花なんだ」
―”心を移す花”―
何回考えても意味がわからない。
けれど、どこかで聞いたきがした。
―黎は何者なんだろう…―
そっと心のなかで呟いた。
空を見上げると雪の結晶が音もなく落ち始めていた。
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