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伝染都市アジュール  作者: 六波羅朱雀
覚醒の日
30/35

29.混沌とする感情、腕の見せどころ

スルっと、ヌルっと、一人称が、主人公の視点が、変化していく・・・。

 

 「え?」とサクラが。

 「は?」とアリシアが。

 「ん?」とレオンが。

 

『あなた様が、私に解除の権限を与えなかった』


 モニカ・レファレンスは女だ。まずレオンはあり得ない。けれどもアリシアとサクラは生まれた瞬間を彼らの家族が見ている。そんな昔に生きていたことはあり得ない。ならば。

 

「わた、し?」


 声はすっかり震えていた。他の三人も同じことを考えたらしい。私を見つめてきている。

 

『ええ。そうです。他に誰がおりましょうか』

 

「そんなっ」

 

『あなた様ですよ。間違いなく』


 そんなはずが、ない、のに。

 

「そうだっ! 私がモニカ・レファレンスだと言うのならば、なぜ今目覚めている?」

 

『あなた様は、最重要人物です。故に、一人だけ奥の部屋でコールドスリープをされた。けれども、そのせいで隕石の落下の際に一人だけ被害を被ったのです。機械の故障により外部へ放たれ、そして今に至るのです』


 イシスの言う通り、奥には真っ赤な扉があった。

 

『記憶がないと言うのならば、それはおそらく急なコールドスリープの解除によって脳に障害が発生し、一部の記憶が失われたのでしょう。けれども、こうして真実を知って脳が過去を思い出すかと』


 嗚呼、神よ。

 神よ神よ神よっ!

 

『さあ、モニカ・レファレンス様』


 やめてくれ声を聞きたくない。

 

『人々の、コールドスリープの解除を』


 違う私はモニカ・レファレンスではない。

 

『そして、新たなる世界のリーダーとして』


 もう何も、聞きたくはない。頭の中がぐちゃぐちゃになる。何故か、自分が自分のものではない気がしてくる。

 

『再び、銃を掲げてください』


 この手が触れる銃から、思わず手を離す。


 確かに私はずっと、過去を探していた。自分が何者であるのかという真実を、探し求めていた。でも、同時に知りたくもなかった。だって、人に優しくされるのにふさわしくなかったらと思うと……。ましてや、モニカ・レファレンスだなんて。ウイルスに立ち向かった第一人者としては凄い人だけれど、でも同時にアイのご主人を殺した張本人でもあるわけだ。


 天才であり、博識であり、大物であり、人類にとって救世主であり。

 そして、殺人鬼でもある女。


 それが、私……わたし……。


 そこで、アリシアが声を出す。おかしくなっていくだけの思考を止めるにはちょうど良いタイミングだった。

 

「モニカ・レファレンス様の名は、故郷では有名だ」


 彼女は続ける。

 

「冷静で、強くて、優しくて、周りをよく見ている、素晴らしい人だと」


 サクラは口をぽかんと開け、レオンは私を見つめている。

 

「まさか、貴方が?」


 違うよ、アリシア。

 そう言いたいのに、口は否定の言葉を紡がない。いや、紡ごうとしないのか。

 

「モニカ、レファレンス、様」

 

「あり、しあ、わたし、は」


 頭の何処かで、私はモニカ・レファレンスだと思ってしまう。それを認めたくなくて、必死に口を動かしたその時だった。

 

『緊急事態発生。繰り返します。緊急事態発生』


 イシスがこれまでで最も大きな声で告げた。

 

『バケモノ発生。戦士は剣と銃を構え。戦えぬものは今すぐ緊急避難室へ』


 緊急避難室とはどこだろうか。分からない。戦うしか、ない。

 

『バケモノ到達まで五』


 カウントダウンが始まる。

 

『四』


 少しずつ、足音が聞こえてくる。

 

『三』


 地面が揺れ、廊下の向こうで砂ぼこりが舞う。

 

『二』


 二人の女騎士はすぐに剣を構え、レオンは負傷しているにも関わらず銃を構えてみせる。

 

『一』


 そして、バケモノは。

 

『ゼロ』


 アレックスは、姿を現した。

 

『戦闘開始』


 イシスの無機質な声で戦いは幕を開けた。勝っても負けても、きっとこれが最後の戦いとなるだろう。

 

「やぁああっ」


 アリシアが剣を振るう。

 

「この部屋にバケモノを入れるな!」


「ええ。分かったわ」


 アリシアの後ろにサクラが構える。短剣を二つ、持っている。

 

「たまには俺も、かっこいいところ見せねえとなあ!」


 レオンは銃弾を放つ。アリシア達に当たらぬように気を付ける。アレックスの足元を狙って誘導する形となった。「サクラ」とアリシアが言うと、「了解」とサクラは答えて前線へと出る。代わりにアリシアは後ろへ下がり、息を整える。レオンはその間に場所を移動する。時折顔を顰めて見せるのは、やはりまだ傷が痛むのだろうか。

 

「おい」


 レオンがこちらを見ないまま言う。

 

「お前がいないと、調子狂うだろ」


 私が何者なのかを問い詰めるものではなかった。いつもの声音、口調で続ける。

 

「ま、お前がいなくても勝てるけどな」


 不敵に笑って見せる姿は、あの日、教会でアイと戦った時のよう。

 

「でも、なるべく早く戻って来いよ。俺はともかく、あの二人がケガすんのはダメだからな。せっかくの美人なんだから、ケガしちゃいけねえ」


 まるで、私はケガしても大丈夫みたいな口ぶり。それでも、彼が私を心配してくれているのが伝わってくる。

 

「レオ、ン」

 

「ほいじゃ、ちっと張り切るかね。ああ、お前の銃借りるぞ」


 そう言ってレオンは私が持っていた銃を奪うように取ると走っていった。レオンは人々がコールドスリープをする部屋を出る。黒く艶光りする銃を見つめ、話しかける。

 

「【Ⅿゼロ】、お前のご主人さんは生憎テンション低いからよ、俺が使ってやるぜ」


 そして。

 

「さてと」


 狙いを定めて。

 

「やりますか」


 銃弾は、放たれた。

 

「二人とも後ろに下がれ!」


 アリシアとサクラは後ろへ飛びバケモノから距離をとって銃弾を避ける。銃弾はバケモノ特有の鎧に命中し、血を流させる。けれども、それだけだった。しかし充分とも言える。アレックスは動きを止め、膝をつく。銃弾を避けたいけれど、避けられない。じっと身を丸めて耐えているようだ。

 

「はっ」


 銃撃を止めると同時に、うずくまるバケモノにサクラが斬りかかる。

 

「えいっ」


 二つの短剣を見事にふるっていく。その姿は、さながら舞い踊る蝶のようで。彼女の周りには、サクラの花が舞い散っているかのようだ。あまりにも軽くて細いその体躯は、俺が瞬きをした次の瞬間。


「あっ」


 彼女の声が小さく響き、いとも容易く、壁に叩きつけられた。


「え」 


 俺は再び銃弾を放ち、バケモノがサクラに近づくのを止める。


「さくらあああああああああああああああああああああああああ!」


 腹の底から声を出して、アリシアがバケモノに斬りかかる。けれども声を出したせいで奇襲は察知され彼女もまた壁に飛ばされていった。


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