23.それは温かな日々だった
──寒い寒い冬の日に、私は生まれた。
みんな私を祝福してくれたが、本当はきっと男の子を望んでいたのだと思う。私の家は代々団長をやっているが、その役目を女がやったことはないから、内心誰もが息子を望んだはずだ。誰も口には出さなかったけれど、なんとなくそうなのだろうと子供心に感じていた。
私は一人っ子だった。だけれど、サクラがいた。同い年なのに、妹みたいで。ずっと守ると誓った。
あるとき、確か私が十二の時。森で迷子になった。サクラとも逸れて本当に迷子だった。あの時初めて怖いと思った。
少しずつ日が暮れて、それでも下手に動くと余計に迷子になると思ったからその場から動きはしなかった。何よりも、雪山の番人に出くわしてはいけないから。
夜の七時くらいだった。星が見える空を見上げていたら、誰かの声がした。誰の声かすぐに分かった。
「アリシア! よかった、無事だったのね」
サクラだ。
「もう、ずっと探していたのよ?みんなで」
少し頬を膨らましてそう言うサクラの姿に、心から安心した。嗚呼、助かったんだって。
「もうすぐほかの人も来るわ、ここで待ってましょう」
けれども、十五分経っても誰も来なかった。
「どうしたんだろう」
不安そうな顔をするサクラに、「大丈夫だよ」と言う。迷子になって、探してもらったのは確かに私のほうだけれど、サクラよりも私がお姉さんだった。剣の腕前は彼女も私も同じくらいだけれど、彼女は血を見るのが苦手だった。その点、私は非情だったのだろう。
それからまた十五分経った。今度は誰かの声がした。それから、キィン、という金属音も。
「何だろう、様子がおかしいな」
私はそう言って立ち上がる。「だれだ」と叫ぶように問いかけると「そこにいるのか、アリシア! ならそのままそこにいろ! 獣がいる」とリズムよく返事が返された。聞きなれた声だった。猟師のドレイクだ。
「分かった! ちなみに獣の種類は分かるか」と聞くと、「ブラックウルフが三頭だ」と返される。
ブラックウルフ。黒く美しい毛並みをたなびかせるオオカミだ。他のオオカミよりも強く、賢い。人が背中に乗れるサイズだ。気性が荒いため、乗れないが。雪山の番人の次に恐ろしい獣だ。それが、三頭も。ドレイクたちは勝てるのだろうか?
「そっちは大丈夫か」
「五人しかいねえがまあ何とかする」
つまりは無理ということだった。
「くそっ」という声が聞こえてくる。苦戦しているみたいだ。
隣にいるサクラは震えている。彼女はまだ実戦をしたことがない。サクラだけは、守らなくちゃ。そう思った瞬間、一頭のブラックウルフがこちらに気づいて走って来た。とっさに握った腰の剣を構える。
「やぁぁぁぁああああああああ!!」と腹の底から声を出し、ブラックウルフを叩き切るつもりで勢いよくかざす。
剣の名は《legendary maker》。要するに、《伝説を作る者》だ。剣は見事なまでにブラックウルフを真っ二つに切り裂いた。
「サクラ、もう大丈夫だ」と後ろにいるサクラに言う。
「ありがとう、アリシア」と前にいる私に笑いかける。
すぐに大人たちが駆け付けて、倒れ伏す獣を見る。
「お前はもう、勇敢な戦士なんだな」
その日から、私は獣討伐に正式に参加させてもらえるようになった。みんな、私を一人前の騎士として見てくれるようにもなった。サクラも私の背中を追って本格的に騎士を目指すようになり、二人で剣の稽古をする日が続いた。
──ずっとそれが、続くと思っていた。




