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伝染都市アジュール  作者: 六波羅朱雀
鮮血の日
23/35

22.新しい旅の仲間


 夜も十二時を過ぎて、時計の針はもうすぐ四を回る。私もレオンも眠り始めた時。廊下から音がした。

 

「レオン」

 

「……ああ」


 すぐに話しかけると、彼の声がした。


 廊下にいるのがバケモノだったら、どうすれば。日記の内容からして、倒せなかったバケモノはアレックスと他四人。私が一人殺して、もう一人はレオンが見つけた仲間割れで死んでいる。となると残るはアレックスと二人。この狭い部屋で戦いになったら、確実に負ける。どうするべきか。


 かつ、かつ、かつ、音がする。何かが歩いている。

 どっ、どっ、どっ、鼓動が鳴る。銃に手をかける。


 そして、ドアが開いて、


「先客がいたとは、失礼したな」


 姿を現したのは鎧を纏い、剣を腰に携えた、騎士の格好をした黒髪の女騎士だった。


***


 その女性の名はアリシア。北の国から遠路はるばるやって来たという。彼女の目的地は、《第一研究施設アリア》。あの日記にも登場した場所だ。そしてそこは、犯罪組織アルカトラによる襲撃を受けて使えなくなった、とも書かれていた。


 その場所に一体、何の用があるのか。しかも女一人で。旅は危険で、いつ獣に出会うか分からないのに。獣だけじゃない。出会う人がいい人かも分からない。私も一人で旅をしていたころは、追剥をする集団に出会ったことがある。あの時は偶然獣が来て、男たちは獣に殺され、私はその隙に逃げることができたが、毎回そうとはいかない。

 

「貴方たちは、悪い人には見えない。それに、目的はアジュールと言ったな。私もだ。きっと協力できる。私はこれから、旅の理由を語るとしよう。少し長いが、聞いてほしい。そして、もしよければあなたたちの話も聞きたい」


 もちろんだ。そして女騎士は語りだす。旅の物語を。


「私はかつて、アジュールの地をバケモノから守っていた第零テンリス騎士団の生き残りだ。その命を継ぐため、祖先の願いを叶えるため、ここに来た」


 ***


 ──第零テンリス騎士団は、2104年12月9日に結成された。

 ベルビアの研究によって生まれたバケモノは、この地を暴れまわった。今ではバケモノは第一研究所にいるが、当時は街で暴れていたらしい。研究所は、コールドスリープの地。だから、どうしても守らなければいけなかった。そうして我らの祖先が立ち上げたのが第零テンリス騎士団だった。


 騎士団ができて一年が経った頃、一体のバケモノを殺した。それからはバケモノは第一研究所には近づかなくなった。ある、一体のバケモノを除いて。


「アレックスのことか」


 そこでレオンが口をはさんだ。


「奴の名はアレックスというのか」


 当たり前かもしれないが、さすがに彼女も名前までは知らなかったらしい。

 

「奴には、誰も勝てなかったと聞く。核ミサイルとか、そう言ったものならば倒せたのだろうが、コールドスリープによって何百人もが眠る街でそんなことはできない。立ち向かう者は、死んでいったという」

 

「騎士団は、戦いのエリートで構成されたのか?」

 

「もちろんだ。北欧の大国エルシアは、スパイや軍人の育成に優れていた。故に、そこを中心として世界中の武闘派たちが集まった」

 

「そいつらが、負けた」

 

「ああ。接近戦において勝ち目はなく、爆弾では研究所までも破壊してしまうから意味がない。かといって硬い皮膚のせいで攻撃は効かない。それに、ほかのバケモノだって馬鹿にはできない。油断すれば負ける」

 

「そうか。話を止めてすまないな。続きを」

 

「ああ」


 ──アレックスだけは殺せなかった。あと一歩どころではない。あと百歩あっても足りない。当時の団員は、奴をこう呼んで恐れたという。荒野の暴君、と。


 ある日、暴君はついにアジュールの地を奪った。


 五百いた団員は五十にまで減り、もはや戦力にはならなくなった。私の家系は代々騎士団の団長を務めていてな。当時の初代団長は決断した。このまま戦いを挑んでも、死ぬだけ。ならば、様子を見て戦力を温存すべきだと。


 いつか、アジュールの地を奪還することを誓って。


 そうして初代団長は自らの故郷であるエルシアに皆を連れ帰った。アジュールの地に人をよこして様子を見たり、ちょっとした獣相手に戦って訓練したり。幸い、暴君は研究所を奪うだけで破壊はしなかった。そうして何代も同じことを繰り返して、一年前。私の十九の誕生日。悲劇は起きた。


 エルシアは、寒い土地だ。毎日のように雪が降る。森には、獣が住んでいた。その森には、雪の番人と呼ばれる大きな熊がいる。鋭い爪をもち、黒い毛に覆われた熊が。その日、何故か熊は雪山から町へ降りてきた。森の一部が青い炎に包まれていたから、きっと不死鳥から逃げてきたのだろう。冬眠から目覚めたばかりの熊は、森を燃やされて怒っていた。そこに人がいて、襲おうと思ったのだろう。


 父は言った。逃げろと。自分たちが奴を引き留めるから、お前たちだけでも、と。


 もう一人、サクラという名の少女がいるんだ。私たち二人は逃げて、アジュールの地へ行けと。奪還して見せろと。それから、もうすぐ大切なものが目覚めるのだと。お前は今日から、団長だと。そう言って父は愛用するサーベルを持って走っていった。


 私とサクラは昔から二人でいた。同い年なのに、サクラは妹みたいで。私たちは、騎士として育った。だからその時も、父の言うことを聞くのが正しいと理解していた。それでも、悲しかったけれど。燃える故郷を背後に、私たちは身近にあった荷物だけをもって旅に出た。


 私たちは、死ぬことは怖くない。いつか人は死ぬのだから。大切なのは、いつ死ぬかじゃなくて、どう死ぬか。仲間のために戦って死ぬのならば、それは騎士として本望だ。


 故郷に伝わる神話に、ヴァルハラというものがある。その場所へは、勇敢に戦って死んだ者だけがいけるという。女とか男とかは関係ない。最高神ラウディンによってヴァルマリアという使いが送られ、辿り着いたその場所で勇者たちは酒を飲み、食を喰らい、笑う。その場所にみんなが辿り着いていればいいと願った。だからこそ私たちは生きなくちゃいけなかった。みんなの死を無駄にはしないために。


 けれども先日、バケモノに遭遇してしまった時にサクラとはぐれてしまったのだ。待ち合わせをここにしたのだが、どうやらいないみたいだな。


 長い黒髪で、赤いバラの模様が入った黒い着物を動きやすいようにワンピース風にした服を着た少女を見なかったか?歳は二十で髪はポニーテール。赤いリボンが付いてる。黒いブーツで、高めの声に少し子供っぽい奴だ。普段は短剣を二つ使っていて、相手が強いときは腰にある刀で戦う。


 ……そうか、見てないか。分かった。


 とにかく、私は、私たちは、アジュールの地を目指している。

 アジュールの地を奪還する。そのためにはバケモノを倒す必要がある。まずは、サクラとの合流からだが。


 父の言う、守りたかったものを守るために、そしてもうすぐ目覚めるというものを守るため。

 ……さて、次は、貴方たちの話を聞かせてくれ。


***


 私は語った。過去の記憶がないこと。空から降った私はある人に助けられ、しかしその人は死に、今はその人のために旅をしていること。記憶を、取り戻すために。レオンとは、旅の途中で出会ったこと。


 アリシアは提案してきた。

 

「サクラとの合流を手伝ってくれ。その代わり、私たちは二人の護衛をしよう」


 願ってもない提案だった。断る理由はないだろう。

 

「よろしく頼む、アリシア」


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