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伝染都市アジュール  作者: 六波羅朱雀
鮮血の日
20/35

19.不確かな未来、確かな過去


 日記はそこで終わっていた。ページにはうっすらと血が付いている。


 彼はきっと、ここで、殺された。

 自らが悪魔へと変貌させてしまった友によって。


 扉が破壊された跡がないことから、おそらくは自ら扉を開けたのだろう。遺体は見つからない。この部屋の外で死んだか、あるいは月日の流れで灰となったか。


 嗚呼、神は最低だ。

 神も聖女もきっといやしない。


 いつも、人の世は、残酷だ。

 

 日記を読み終わって、レオンはいつも明るい雰囲気を陰らせて言った。今日は、ここで過ごそう、と。そして、音楽をかけてもいいか、と。もちろんいいと言った。こういう時に、空気を軽くしてくれるのは音楽だから。


 二人で隣に並んで座り、流れ出した《星屑の君》を聴く。澄んだ声は、よく響いた。


 魂二つ分しかないこの部屋で、私たちは、何も話さずに座るだけ。ずっとずっと、もう長いことこの部屋には魂は一つもなかったのだから、二つもあれば充分かもしれない。かつてはきっと何十、何百、何千もの魂が心臓を高まらせていたのだろうけれど。


「なあ」


 曲がラストに入るころ、レオンが私に問いかけた。


「アジュールは、すぐそこだ。ここから先、何が起きるかはもう分からない。バケモノなんて、想像してなかったしよ」


 はは、と乾いた声で彼は笑う。


「んでさ、その前に聞いておきたいんだ」


 私たちの旅の終わりはすぐそこにある。


「俺たちの旅って、何だろうな」


 ならば、辿り着いてしまえば、その先は、バラバラだろうか?


「なあ」


 それは、誰にも分からない。


「お前は」


 そもそも、旅の終点に、私の求めるものは本当にあるのだろうか。


「お前は、いったい、さ」


 あったとして、それは、私の欲しい答えだろうか。


「いったい、何者なんだろうな」


 それは、誰にも分からない。


「お前は、どうして旅に出たんだ」


 自分自身すら、自分自身を忘れてしまっているのだから。


「聞いたこと、なかったよな」


 私が何故、旅に出たか。


「ずっと二人で旅してるのに、俺たちは互いのことを知らない。きっとずっと、なんとなくその話題を避けてきた。でも、俺はこの間話したぜ? マリアのこと。だから、さ」


 私が旅に出た理由。

 

「聞かせてくれよ、お前の話を」


 そう言って笑う彼は、少しだけ寂しそうだった。

 

「いいよ」


 そう言って答える私の声は、驚くほど優しかった。


「長くて、愚かで、つまらない物語でよければ」


 彼はもう一度、今度は少しうれしそうに笑って言った。


「聞かせてくれ」


 「それじゃあ語ろう。これは、初めて語る物語だ」


 全てはあの日、始まった。


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