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伝染都市アジュール  作者: 六波羅朱雀
絶望の日
15/35

14.記録とバケモノと銃撃戦

 

2???年9月??日

近くに研究所ができたらしい。真っ白の白衣を着た連中が何人かやって来て、店の撤退を求めてきた。ふざけるな。何年ここで商売やってきていると思ってんだ。



2???年?月30日

また連中が来た。なんでも研究が危険だからとっとと出てけとのこと。お願いする態度じゃねえ。あんな乱暴に言われて誰が頷くものか。今回はレイク・ベルビアという男がいた。【第二次世界同盟ミカエル】の二番目のリーダー様だ。あんなのが出てきたら、店をやめるしかない。

……くそっ。そいつは、まあ、ほかの奴らよりは丁寧で、若くて、それでいて得体の知れない表情の冷たさがあった。

 


2???年11月??日

今日は、荷物を取りに来ただけだった。撤退して、それで全部解決のはずだった。

なのに、なんで、みんな死んだんだ。

撤退の作業中、変な奴が現れた。ボロボロの服で、何か喚いていた。ラリッてるのかと思ったその瞬間、奴はみんなを殺した。あれは、ヒトの姿をしたバケモンだ。

秘書のアリサが最初に死んだ。泣いていた。

宣伝係のクロックがアリサを助けようとして死んだ。

副社長のロイドが社員に逃げるように叫んだ次の瞬間死んだ。

新人社員のウォーカーが転んだ事務のハンナを助けようとして死んだ。

ハンナは、ウォーカーが自分のせいで死んでしまった罪悪感と恐怖で動けなくて死んだ。

みんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんな、死んだ。

 

これを読む誰かに忠告する。今すぐ逃げてくれ。

ここには、バケモノがいる。あの研究所のせいだ。絶対そうだ。

この部屋は、もう持たない。俺は窓から逃げる。バケモノは廊下にいるから、きっと上手くいく。

噂では、前から聞いていたけど、本当だとは思わなかった。バケモノが、いるなんて。

その噂によれば、バケモノは研究所から逃げたヒトらしい。ヒトと呼ぶには、壊れすぎていたけれど。

同盟は、リーダーのレファレンス様がコールドスリープして代表が変わってからおかしくなった。

全部、ベルビアの、せいだ。

 

   ***


そこで日記は終わっていた。

 

──レイク・ベルビア。

 

若きリーダー。

 

「おい、よく聞け。そして、声を出すな」

 

レオンが珍しく命令口調だ。何だろうか。随分と低い緊張感のある声だが。

 

レオンが指さすほうを見た。窓の向こうを見れば、先ほどレオンが踏んで折れた旗が真っ二つではなく、ぐしゃりと原形をとどめない形で浮いている。

 

──いや、違う。浮いているんじゃない。誰かが、握っているんだ。


そしてそれを、握っているのは。


口から涎を垂らし。

鋭い爪を光らせて。

ぎょろりと視線を動かして。

ぼろぼろの衣を身にまとう。


──バケモノ。


どうすれば!!


とりあえず、音を出すな、動くな。それから、ええっと。

 

多分、このバケモノは日記のと同じ。肌は醜く膨らみ牙を剝き出しにして、皮膚は膨らんでいる割に鎧のような硬さがあると思われる。まるで鱗のように。


うヴぁああああああああぇああああ!


突如バケモノが獣のような咆哮を上げた。


「ひっ」


目が合った気がして、喉の奥が首を絞められたみたいにきゅっと潰れる。息ができない。心臓が煽る。怖い。


──見つかった。

 

私もレオン同様に震える手で銃を構えて、扉のほうを見る。逃げられるだろうか。

 

「……レオン、いけるか」

 

「ああ」

 

「ばらばらのほうへ逃げろ。あの大きな建物で集合だ」

 

「分かった」

 

「銃の威力を考えて、私が奴を引き付ける」

 

「了解。三、二、一、ゼロ!」

 

その合図で走り出す。レオンと同時に砂を蹴るとひどい砂ぼこりに見舞われたが、気にしている余裕はない。目を閉じれば敵を見失ってしまう。砂が目に入る覚悟で勢いよく走った。

 

「うぇ」

 

砂が口に入って思わず顔を顰める。後ろを見ればバケモノは私を追ってきていた。レオンのほうが足が速いからまずは私から、ということだろうか。

 

背中に背負った銃に手をかける。【Ⅿゼロ】だ。その間にもバケモノは速度を増して追いかけてくる。どういうことだろうか。どう見ても私の十倍は体が重いはずなのに、軽々と追いついてきている。

 

これは早いところ仕掛けるべきか。

 

とりあえず通常の銃弾で撃つ。

 

「当たった!」

 

けれども銃弾はバケモノの体を覆う鱗のようなものに弾かれてしまい、肝心のバケモノには傷一つない。

 

「くそっ」

 

口調がレオンのようになっているのはまあ置いておこうか。

 

「ああもう!」

 

銃弾を変える必要がある。こんなにも早く使う時が来るとは。


【Ⅿ666弾】。その弾を込めて狙い撃つ。ばんっ、と軽やかな音を立てて飛び出し、けれどもドスッ、と思い音を立ててバケモノに命中する。命中した部分の鱗がボロボロと崩れ落ちる。

 

なるほど。最強の銃弾、というのはあながち嘘でもないようだ。というか、バケモノに効く銃弾を当時は人をターゲットにする予定で作ったんだよな?いや、こわいよ古代人。

 

まあでも、効いているのなら勝ち目はある。

 

バババババババッ!

 

今度は一気に何発も撃つ。弾は発射と同時に幾つもの細かな弾に分かれるので、バケモノがどれだけよけても意味はない。バケモノの足からは血が滲み、胴体の鱗は剥がれ落ち、腕は指らしき部位から血が滴る。飛んでくる弾を避けようとして右へ行けば別の弾が当たる。そんな光景に憐れみを覚えながらも、銃を撃つ手を止めるわけにはいかない。

 

もう一度。

もう一度。


執拗に撃って撃って、撃った。

 

バケモノが吠えたのは激痛故か。

そもそもバケモノは痛みを感じるのか。感情はあるのか。理性は、あるのか。


ともかく、多くの血を流したバケモノは無敵の銃の前にひれ伏した。私は一息ついて、レオンとの約束の地へと向かう。

 

荒野にはただ、大きな体躯が横たわっていた。


   ***


着いた。けれどもレオンは見つからない。バケモノに追われなかった分だけ私よりも先に付いているはずだが。

 

まさか、何かあったんじゃないか。そう思うとヒヤリと背筋が凍った。


私が入った塔の入り口である門の看板には《第二次世界同盟ミカエル第一研究所 ヴァルハラ塔》と書かれていた。これが先ほどの日記の、研究所だな。

 

『ここには、バケモノがいる。あの研究所のせいだ。』

 

先ほどの日記の言葉が思い出される。もしそれが事実だとして、一体何のために?それに、看板の言うように同盟の研究所ならばウイルスに関することではないのか?

 

現状何も分からない。レオンが来たら、この施設を回ろう。


私は銃を下ろし、荷物も下ろし、塔の入り口の段差に座って息を吐いた。これまでにも獣に追われたり盗賊集団に襲われたりと危機はあったが、ここまで命の危険を感じたのは初めてだ。あれは本当になんだったのだろうか。もう二度と会いたくないバケモノだ。思い出すだけで寿命が縮む。今はレオンを待つことに専念しよう。アイツが来たら、遅いぞって文句言うんだ。


十五分が経って、けれどもレオンはやって来ない。どうしたのだろうか。

 

三十分が経っても、レオンは来ない。大丈夫。きっと大丈夫。だってレオンだから。

 

白い壁に囲まれた塔に一人、座り続ける。


もう五分。

 

もう十分。

 

四十五分が経過しても誰も来ない。

 

外は風が吹いて砂ぼこりが巻き上がるだけ。そこに生命の姿はない。

 

そして、また一時間が過ぎた時。

 

「わり、遅くなった」

 

レオンは、血に塗れて帰って来た。


レオン、いつも血塗れだな。

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